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[寄稿]プロパガンダと化した韓国政府のファクトチェック

登録:2023-09-13 06:30 修正:2023-09-13 10:36
先月22日、国会議員会館で開かれた与党「国民の力」のフェイクニュース・怪談防止特別委員会セミナー「フェイクニュース・怪談、何を狙っているのか?産業になったフェイクニュース」で、キム・ジャンギョム特別委員長が挨拶の言葉を述べている/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、「フェイクニュースへの対応」と「ファクトチェック」の重要性を連日強調している。イ・ドングァン放送通信委員長は候補時代に国会に提出した書面答弁書で、フェイクニュース対応を放通委の最優先課題に挙げており、放通委は来年のファクトチェック予算を今年より64%も増やした。文化体育観光部は韓国言論振興財団にフェイクニュース通報・相談センターを設置し、フェイクニュース撲滅タスクフォース(TF)を運営している。行政安全部は徹底したファクトチェックを行うよう、保守言論団体に3千万ウォン(約330万円)を直接支援した。国民統合委員会はフェイクニュースによる収益を得られないよう共同規制モデルを構築すると発表した。

 筆者が所属している「ニューストップ」は国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)からファクトチェックの国際認証を受けた国内唯一の報道機関であり、筆者は2017年から韓国言論振興財団や韓国インターネット新聞協会、放送記者連合会などで「虚偽情報(フェイクニュース)とファクトチェック」をテーマに数十回にわたり講義を行ってきた。韓国政府がファクトチェックに関心を注ぐというのだから、喜ぶべきかもしれない。ところが、ファクトチェック方法論の専門家である筆者からすると、政府のファクトチェックは国際ルールに照らせば方法も方向性も間違っている。

 何より、政府はファクトチェックの対象であって、主体にはなれない。もちろん、政府の政策や政府高官の発言について、政府が説明することはできる。政府が自ら「ファクトチェックする」と乗り出すのも止めることはできない。だが、政府が政策を「自らファクトチェック」し、反対する声に「フェイクニュース」というレッテルを張るのは、ドナルド・トランプのような大統領か、独裁国家の指導者のやることだ。ファクトチェックは独立的で客観的な第三者(例えば報道機関)を通じてこそ権威を得ることができる。もちろん報道機関にも政派性はあるが、多数の報道機関がファクトチェックを交差検証することで、真実に近づくことができる。

 文化体育観光部は福島原発汚染水の海洋放出をめぐる批判世論に対し、フェイクニュース撲滅TFの諮問団を発足させた。諮問団は、政府の意見に近い原発肯定派の人物だけで構成された。諮問団の一人であるKAIST原子力および量子工学科のチョン・ヨンフン教授は、与党「国民の力」の議員総会での講演で、「汚染水が放出されてから100年生きても大きな影響を及ぼさない」と主張した。慶煕大学原子力工学科のチョン・ボムジン教授はインタビューで「海洋放出は日本が判断する問題であり、内政に干渉することはできない」という趣旨の発言をした。人類が一度も経験したことのない数十年間にわたる原発汚染水(処理水)の放出について、科学者がなぜ危険ではないと断言できるのか疑問だ。当時、文化体育観光部は汚染水の放出に反対の立場を示す専門家を排除した理由として、「国務調整室である程度方向性を定めたため、それに合わせて諮問団を構成した」と述べた。政府の立場を支持する人だけをファクトチェッカーとして使うということだ。

 最近、放送通信委員会は、大統領選挙でキム・マンベ氏の録音記録を記事に引用した報道について、放送局の「ファクトチェック検証システム」実態調査に乗り出した。まず「韓国放送(KBS)」と「文化放送(MBC)」、「JTBC」を点検すると発表した。ファクトチェック方法論の専門家として言わせてもらうと、世界のどの自由民主主義国家も個別の報道機関のファクトチェックシステムを検証したりはしない。放送規制がほとんどない米国はもちろん、公共放送のある欧州の主要国でも、政策的規制はあるものの、特定の報道に対して政府機関が介入することはない。放通委が放送局の特定の記事に対して検閲を行うと言っているようなものだ。共産全体主義国家が主に行う手法だ。

 疑問なのは、放通委がなぜ「KBS」と「MBC」、「JTBC」だけを点検の対象にしたのかだ。「ニュース打破」の「キム・マンベ録音記録」報道の翌日である2022年3月7日(文在寅政権時代)、すべての新聞と放送がこれを報道したからだ。以下は主な放送局の見出しだ。「キム・マンベの録音公開に…与党『大庄洞で焦点ぼかし図る尹」…野党『タラ鍋シーズン2』」(「TV朝鮮」)、「キム・マンベの肉声『尹錫悦が大目に見てくれた』…尹側『明白な虚偽』」(「KBS」)、「『キム・マンベ、尹錫悦通じて事件解決』録音報道…与党『特検行うべき』、野党『明白な虚偽』(「MBC」)、「『尹錫悦、パク・ヨンスを通じて事件解決』キム・マンベ録音…野党『明白な虚偽』」(「MBN」)、「キム・マンベ『尹錫悦を通じて事件解決』…野党『虚偽』(「聯合ニュースTV」)など。これらの報道にどのような違いがあるのか知りたい。

 現政権に入って、ファクトチェックという言葉はプロパガンダ(宣伝・扇動)になってしまった。国際ファクトチェックネットワークのファクトチェック原則の第一番は「非政派性と公正性」だ。ファクトチェックは報道機関と市民の自律的な参加に任せるのが国際規範であり常識だ。

//ハンギョレ新聞社
キム・ジュニル|ニューストップ代表(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1108257.html韓国語原文入力:2023-09-13 02:39
訳H.J

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