韓国経済に低高度の警報音が鳴り響いている。機首をすぐに持ち上げエンジンの出力を上げなければ、目の前の山頂を避けられないにもかかわらず、揚力はなかなか上がらない。生産、消費、投資、輸出、債務、財政など主な経済指標にいっせいに赤信号が点っている。こうしたことが前政権で広がっていれば、保守系の新聞や経済紙によって「粉々になるほど」叩かれたはずだが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、不公平なことに、偏向した経済ジャーナリズムの恩恵を受けている。だが、メディアが優しく扱うからといって現実がそうなるわけではなく、「お手上げだ」という自営業者の嘆きや「韓国経済はこのまま進めば大変なことになる」という専門家の懸念が強まっている。
韓国経済は縮小し後退しつつある。韓国が、国連機関によって先進国として正式に認められたのは2021年。その前年に韓国の経済規模は世界10位にまで上昇し、1人あたりの国内総生産(GDP)も初めてイタリアを追い越した。すでに先進7カ国(G7)と肩を並べるほどになったという自負が沸き上がった。「目覚めてみれば先進国」というフレーズが流行語になった。
最近は「目覚めてみれば再び開発途上国」だと言われる。昨年の韓国の経済規模は世界13位を記録し、2年間維持していた10位から押し出された。1人あたりのGDPも3万2142ドルで、前年より8.2%減少した。経済規模と国民所得が大きく減少したのは、韓国ウォンの価値の下落という為替レートの変化によるところが大きいが、貨幣の価値は国の経済の現在と未来の成績表であるため、韓国経済が振るわなかったという評価が変わるわけではない。
世界はコロナ禍の圧力を乗りこえ回復しているが、唯一韓国だけは、輸出と製造業の不振によって低成長の泥沼でもがいている。今年第2四半期の成長率は0.6%で、第1四半期に続き成長傾向を維持した。だが、民間・政府の消費と投資がそろって減少するなか、輸入が輸出よりきわめて大幅に減少(純輸出の寄与)したことで可能になった「不況型成長」だった。当初期待された「上低下高」ではなく「上低下低」(下半期も低成長傾向が続くこと)になるかもしれないという懸念も出ている。
国際通貨基金(IMF)は、米国、日本およびユーロ圏の大半の国の成長率見通しを引き上げたが、韓国は1.5%から1.4%に下げた。5回連続で見通しが下がったわけだが、1.4%成長は、30年不況を経験して回復しつつある日本と同じようなものだ。1962年に経済開発計画が始まって以来、IMF経済危機、グローバル経済危機、コロナ禍のような大きな危機を除き、成長がこれほど振るわない時期はなかった。
主力輸出品目である半導体の景気低迷が成長の足かせになっているのは事実だが、半導体の回復だけを待つには、韓国経済の危機は重層的かつ複合的だ。グローバルな産業競争力の変化に合わせ、貿易と投資の戦略を再編しなければならなかったが、機を逸した。ロックダウン解除後も中国経済が不十分である状況下で、対中輸出は1年2カ月連続で減少した。一時は27%だった輸出割合は20%を下回った。韓国銀行のイ・チャンヨン総裁は先日、大韓商工会議所が主催した済州(チェジュ)フォーラムで、対中輸出の減少は韓国企業の競争力低下の要因も少なくないとして、「中国特需に10年以上慣れ、甘い汁を吸っていたので、『中国が韓国に追いつく』という考えに至らなかった」と診断した。グローバル化の後退と米中対立によって、グローバル分業システムとサプライチェーン構造が揺らぎ、韓国経済において危険要因が大きくなっている。半導体だけでも、サムスン電子は中国でNANDフラッシュメモリーの40%を、ハイニックスはNANDの33%、DRAMの50%を生産しているが、工程をアップグレードするたびに米国の顔色をうかがわなければならない状況にある。
このように非常事態であるため、経済のハンドルを握る政府・与党を見るのは当然だ。不幸なことに、現政権は経済に対するビジョンや専門性、一貫した実行力を示せずにいる。「富裕層減税」と健全財政という矛盾した「話題」をふりまき、財政支出を減らすことで、低下する景気にさらに冷や水をあびせているのがその一例だ。
低成長が固定化する前に、少子高齢化問題、教育・年金・労働改革のような根本的な構造変化と成長動力の拡充も急がなければならない。こうしたものは、幅広い国民の同意と社会的な合意が必要だ。多数の議席を持っている野党「共に民主党」とも手を取りあわなければならないが、協力を引き出すのは政府・与党の役割だ。だが、与党「国民の力」は来年4月の総選挙に全精神を集中しており、今日はどんな奇抜な話で野党を攻撃するかということばかりに没頭する、信頼できない姿をみせている。口喧嘩に勝ったとしても、経済がさらに沈めば、総選挙に完敗するということを理解しなければならない。
イ・ボンヒョン|経済社会研究院長兼論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )