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梨泰院遺族「知らなかったという国の答えこそ、組織が腐っている証拠なのでは」

登録:2023-01-13 06:35 修正:2023-01-26 11:03
10・29梨泰院惨事大田対策会議が12日午後、大田市庁前で真相究明要求記者会見を開いている中、梨泰院惨事遺族協議会のイ・ジョンチョル代表が会見の途中で空を見上げている/聯合ニュース

 梨泰院(イ・テウォン)惨事で息子のイ・ジハンさんを失った父親のイ・ジョンチョルさんは、先頭に立つつもりはまったくなかった。惨事以来、家でも、車でも、泣いてばかりだった。息子の後を追いたいとまで思っていたイさんは、他の遺族を探すことにした。まず隣の葬儀場にいた遺族を訪ねた。そうやって遺族を探し続けた結果、初会合の時、犠牲者15人の家族が集まった。

 最初は「ただ」集まっただけだった。「ただ」の集まりでなくなったのは、遺族がチョン・ジンソク当時国民の力非常対策委員長に会ってからだ。2022年11月21日、遺族20人余りに会ったチョン非常対策委員長は「申し訳なく、残念でならない」と語った。涙も見せたという。ところが翌日、記者団には「あの方々の意見が158人犠牲者遺族全体を代弁するわけではない」と態度を変えた。

 イさんは遺族が集まった協議体を作ることを決心した。探し続けた結果、犠牲者40人余りの遺族が集まった。だが、みんなが「代表」にはなりたがらなかった。イさんは12月10日、「10・29梨泰院惨事遺族協議会」(協議会)創立総会で代表に選ばれた。現在、協議会には犠牲者109人の遺族が参加している。代表と副代表を含め運営委員会17人が協議会を率いている。

「対話をしよう」と呼びかけると「野党の味方じゃないか」と言った議員

 2023年1月3日、国会で記者会見の日程を終えて緑莎坪(ノクサピョン)駅市民焼香所を訪ねた後、午後9時になってようやく家に向かったイ・ジョンチョル代表に、「遺族が望む真相究明と国政調査の方向性」などについて電話で話を聞くことができた。

 2022年11月24日、与野党は国会本会議で国政調査計画書を通過させた。期間は2023年1月7日までの45日。しかし、予算案処理後という前提条件をつけ、国政調査は開始からぎくしゃくした。遺族たちは気を揉んだ。

 「遺族を交渉の道具として使っているんだと思いました。一体、イ・サンミン行政安全部長官の解任案と予算案が国政調査に何の関係があるのでしょうか。国政調査をめぐり、市場での取引でもするかのように『これを受け入れるならば国政調査を受け入れよう』なんて、ありえない話です」

 解任案を理由に国政調査特別委員会から委員らが辞退する意思を明らかにした与党「国民の力」側は、遺族が12月20日にチュ・ホヨン院内代表などと面会してからようやく特別委員会に復帰した。しかし、その後の過程も遺族に失望を抱かせるものだった。

 「国政調査を見て、遺族は皆同じように感じました。現場調査の時も、機関報告の時も、証人と参考人の皆が一様に知らなかったと、覚えていないと答えるんです。警察も軍隊も、すべての組織が状況が発生したら報告を行うものでしょう。それができなかったということは、組織が腐っている証拠ではありませんか。あまりにもどかしく、見ていられませんでした」

 12月27日に開かれた機関報告初日には、見守るだけではいられなかった遺族たちが会議場の前に上がってきた。当時、国民の力所属の特委委員らは「大統領室プロセスはどの政権よりも早かった」(チョ・ウンヒ)、「各機関の報告が遅れ、その機関がコントロールタワーとして機能できなかったことと、国政状況室と大統領室の対応が不適切だったかどうかは別の問題」(パク・ヒョンス)と述べた。他の委員たちは、シン・ヒョニョン前特委委員(共に民主党議員)の「ドクターカー」搭乗問題(惨事当日、シン議員を乗せるために緊急出動車両の現場到着が遅れたと批判された)についての質疑応答を執拗に続けた。

 遺族たちは会議場の外に出てきた国民の力所属の委員たちに訴えた。イ・ジョンチョル代表はチョ・スジン委員に「対話をしよう」と呼びかけた。ところが、返ってきた答えは「(野党の)味方じゃないか」だった。イ代表は「真相究明をするのに与野党や敵味方なんか関係ない」とし、「国民を敵味方に分けて、自分の味方かどうかを問う委員には(国政監査を行う)資格がない」と語った。

 12月29日の機関報告2日目は、開始もできず空転したまま終わった。一部の与党議員が、ヨン・ヘイン委員(基本所得党議員)の補佐陣が与党委員の間の対話を密かに撮影したという疑惑を持ち上げ、抗議したためだ。「遺族のためを思うなら国政調査を続けなければならないのに。ヨン委員を特委から外した方が国政調査を有利に進められると考えたからだと思います」(イ・ジョンチョル代表)

2022年12月30日、ソウル龍山区の緑莎坪駅市民焼香所で「梨泰院惨事市民追悼祭」が行われる中、保守団体が掲げた横断幕が見える=リュ・ウジョン記者//ハンギョレ新聞社

旧正月前に捜査を終わらせるという特別捜査本部

 遺族たちは知りたいことがまだ多い。惨事当日、消防と警察の連係と協力がなぜまともに行われなかったのか、梨泰院惨事前に龍山(ヨンサン)警察署情報課で作成されたハロウィーン行事の危険分析報告書はなぜ内部網から削除され、誰が削除を指示したのか、遺族名簿をソウル市は伝達したというが、なぜ行政安全部は受け取っていないと主張するのかなど、知りたいことが山積みだ。

 2023年1月5日、与野党は国政調査期間を10日延ばすことで合意した。しかし、あまり期待はしていない。イ代表は「(延長されても)今の国政調査は結局空転していて、責任を負わなければならない人々の罪も(期間内に)正確に判断することは難しいため、結局特検まで行かなければならないと思う」と語った。

 これまで行われた警察庁特別捜査本部(特捜本)の捜査に対して、遺族はすでに諦めている。特捜本の関係者は1月3日のブリーフィングで「旧正月前に終わらせるために(捜査の)スピードを上げている」とし、「事故原因に対する捜査は終わっており、追加の立件者はほとんどいないとみても良い」と発表した。「おそらく私たちが世論にもっと訴えれば、ソウル警察庁長までは捜査対象に含まれると思います。だけど、それ以上はないでしょう。問題は、このような発表をなぜ国政調査も終わっていない状況で行うのかということです。事前にマスコミに流して反応を見て(追加の捜査を)しようとしているのではないかと思います」(イ・ジョンチョル代表)

 遺族らの予想通り、特捜本は1月5日、キム・グァンホ・ソウル警察庁長らを在宅起訴する方針を明らかにした。特捜本はユン・ヒグン警察庁長官に対しては「警察法上、地域内の大衆密集状況に対する交通混雑および安全管理は自治警察の事務と規定されており、警察庁長官には自治事務を指揮・監督したり、備えたりする法的義務はない」と説明した。

政治的にでも、それがだめなら道義的にでも

 その日どんなことがあったのか調べるにも力が足りないが、遺族たちは嫌悪勢力とも闘わなければならない。緑莎坪駅の市民焼香所の前には、追悼行事を妨害したり、ボランティアなどに向かって嫌悪発言をする極右団体「新自由連帯」の車が24時間常駐している。

 「最近、焼香所を訪れた市民と新自由連帯の間で揉め事が起こったことがありました。もし人が怪我をしたり死んだりしたら、誰が責任を取るのでしょうか。法的に措置できなければ政治的にでも、それも難しいならば道義的にでも何らかの措置を取るべきではないでしょうか。みんな聞いているふりをするだけで、行動で示すところは一つもありません」

 遺族に対する「もういいだろう」「政争に持ち込んでいる」などの非難の声を聞くたびに、イ代表は悔しい思いをしている。「私たちがこれほどつらくて悲しんでいる時、政府や与党が手を差し伸べましたか。 一人でも手を差し伸べたのなら、私たちはありがたくその手を取ったでしょう。なぜなら、苦しくて死にそうだから。なぜ今私たちが民弁(民主社会のための弁護士会)や市民対策委側にくっついているといって侮辱するんでしょう。私たちは政争など知りません。生きるために、差し伸べられた手を取っただけです」

リュ・ソグ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1075443.html韓国語原文入力:2023-01-12 21:46
訳H.J

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