テッポウエビは海における指折りのうるさい動物だ。奇形的に大きな片方のハサミを時速100キロで素早く閉じる時に発生する衝撃波で、狩りをしたり縄張りを守ったりするためだ。
ハサミが閉じられた際にジェットの水流が噴き出し、この時できた泡が崩壊することで瞬間的に魚雷が爆発する時と似た4700度の高温とともに218デシベルの衝撃波が出る。小魚や甲殻類は衝撃を受けて気絶したり死んだりする。
テッポウエビは狩りの時だけでなく、ライバルと縄張りを争う時も衝撃波を随時自分の頭の前で発射する。この時、自分が撃った衝撃波にそのままさらされる。テッポウエビは、どうしてこのような衝撃波に耐えられるのだろうか。
このような疑問を解くため、米タルサ大学の生物学者、アレクサンドラ・キングストンさんらは、米サウスカロライナに生息するテッポウエビを採集して育てつつ、様々な実験を行った。驚くべきことに、このエビたちは衝撃波から目と脳を守る硬くて透明な「ヘルメット」をかぶっていた、と研究者たちは科学ジャーナル「カレント・バイオロジー」最近号に掲載された論文で明らかにした。
研究者たちは、他の甲殻類とは異なり、多くのテッポウエビの仲間の頭には背中を覆う甲殻が伸びており、目と頭を覆っていることに注目した。丈夫で透明なカバーはまるでヘルメットのようだった。
一部のエビのヘルメットを外科手術によって除去する実験をしたところ、普段は正常に生活していたものの、衝撃波が聞こえた時には驚いてその場でぐるぐる回ったりひっくり返ったりした。方向感覚を失ったため、巣穴を探す時間が7倍近くかかった。ヘルメットのあるエビではこのようなことは起きなかった。
センサーでヘルメットの中の圧力を測定すると、衝撃波の圧力は外側の半分だった。ヘルメットには脳に加わる衝撃を減らす効果があることは明らかだった。では、どうしてそのような効果があるのだろうか。
研究者たちは「ヘルメット前方の開いた構造が衝撃波の減衰を引き起こすようだ」と論文で述べた。「ヘルメットの内側と目の上の空間は水で満たされているが、衝撃波がヘルメットを叩くと圧力が急激に変わり、その水がヘルメットの外に押し出される。その過程で衝撃波の運動エネルギーが減り、方向が変わる」というわけだ。
研究者たちは、テッポウエビの秘密兵器である衝撃波と共にこのような奇抜な「盾」が進化したと考えている。また、テッポウエビのヘルメットは人間の衝撃波に対する防災にも応用できると予想する。衝撃波は物質を透過しやすいため、爆発などで発生した衝撃波による脳などの神経の損傷を防ぐ保護ヘルメットはまだ開発されていない。
引用論文:CurrentBiology,DOI:10.1016/j.cub.2022.06.042