緑茶やハーブティーのティーバッグに入っている乾燥させた植物から、昆虫やクモなどの1200種を超える節足動物のDNAが発見された。ティーバッグだけでなく乾燥させた植物標本でも、植物が育つ過程でどんな節足動物が訪れたのかを調べられる。そのような道が開かれた。
緑茶のティーバッグから虫が出てきたという話ではない。緑茶やハーブティーの干した植物から、植物を訪れた様々な節足動物が植物を噛みちぎったりひっかいたり排泄したりする過程で残したDNAを遺伝子解析によって確認したという意味だ。最近の遺伝子解析技術は極微量のDNAも増幅させ、どの種のものかを選り分けることができる。
ドイツのトリーア大学の生態遺伝学者、ヘンリック・クレヘンビンケル氏ら研究者たちは、科学ジャーナル「バイオロジーレターズ」最新号に掲載された論文で、ティーバッグに入っているお茶やハーブの粉から環境DNA(eDNA)を抽出することに成功したと明らかにした。
研究者たちは食料品店で買った緑茶、ミント、カモミール、パセリなどのティーバッグ試料40点から、節足動物には共通して存在するが植物にはないDNA断片を選り分けるというやり方で分析し、どのような昆虫やクモがその植物を訪れ、唾液や排泄物などを残したのかを調べた。
その結果、ハチ、チョウ、ハエ、甲虫、クモなど計1279種の節足動物が確認された。研究者たちはティーバッグ1袋当たり少なくとも200種以上の節足動物の遺伝子を発見し、緑茶が最も多かったと明らかにした。
筆頭著者であるクレヘンビンケル博士は「1袋のティーバッグには0.1~0.15グラムの干した植物が入っているが、緑茶のティーバッグ1袋から400種近い昆虫のDNAが確認されたので驚いた」とし、「その理由はおそらく、きれいに粉になったティーバッグの植物が、特定の茶の木ではなく茶畑全体を訪れた昆虫のDNAを示すためだろう」と科学メディア「ザ・サイエンティスト」とのインタビューで語った。
植物に遺伝子を残した節足動物は草食、肉食、寄生、かすの分解などの様々な生態的機能を持つ種類であることが明らかになった。緑茶は東アジア、ミントは北米西海岸など、植物の原産地に固有の種が遺伝子の指紋の持ち主であることが分かった。
DNAは非常に不安定で、高温で加熱したり紫外線を浴びたりすると変質しやすい。植物の表面に昆虫が唾液と共にDNAを残したとしても、雨が降れば簡単に洗い流される。
しかし、植物を高温で加熱せずに乾いた状態で暗い場所に保管すれば、DNAが長期間保存される。研究者たちは、植物標本やそれと似た状態のティーバッグの中のお茶やハーブが、節足動物のDNAが保存される理想的な状態にあるということに着眼した。
クレヘンビンケル博士は研究の動機について「当初は、我々の大学がここ35年間わたって液体窒素に冷凍保管していた様々な木の葉から、過去の昆虫のDNAを検出するつもりだった」、「しかし、それほど大そうな保管場所でなくても、ティーバッグも昆虫の遺伝子が保存されやすい乾燥していて暗い場所という条件を備えているということに気づいた」と語った。
同氏は「植物にどんな種類の昆虫やクモが訪れるのかを知るのは容易ではないが、この方法を用いれば簡単に時間旅行ができる」とし、「植物を採集して乾燥剤のシリカゲルを少し入れてビニールに密封し、研究室に戻って分析すれば終わり」だと付け加えた。
同論文は「植物を干して保管するのは単純で、多くの昆虫を殺す必要もなく、有害な化学物質の使用や冷凍が必要なわけでもない。学生たちと共に作業するに値する理想的な方法だ」と記している。
研究者たちは、干したうえで保管された植物標本は節足動物の多様性と変化の様相を調べる有力なeDNA技法となりうると述べた。また、近ごろは世界的な昆虫の減少が問題化している一方、長期にわたる昆虫のデータが不足しているが、この方法が代案になりうると述べた。
研究者たちはまた、ティーバッグの遺伝子の指紋の研究は害虫管理にも寄与しうると語った。密かに浸透した外来の害虫が姿を現す時には、すでに繁栄しているからだ。
生態調査の方法として最近注目されているeDNAは、水を汲んで水生生物を調べたり空気中のDNAを検出したりして、どのような生物がいるのかを調べる際にも利用される。
引用論文:BiologyLetters,DOI:10.1098/rsbl.2022.0091