中国の王毅・国務委員兼外交部長が、24日から日本と韓国を歴訪しています。日程初日の24日、茂木敏充外相と会談後に晩餐を交わした王毅外相は、25日に菅義偉首相を表敬訪問した後、韓国に移動します。韓国では26日、カン・ギョンファ外交部長官との会談および昼食会、その後文在寅(ムン・ジェイン)大統領の表敬訪問が予定されています。王毅部長の今回の歴訪については、来年1月20日にバイデン政権が発足する前に、米国の主要同盟国である韓日両国を訪問してこれらの米国への偏りを防ぎ、安定した協力関係を維持しようという意図があるとの分析が続いています。
安定した韓中、日中関係は、中国の国益において高度に重要な問題です。では、中国の立場としてはどちらにより関心が高いのでしょうか。これに答えるのは容易ではありませんが、重要度でいえば「日本」、敏感度でいえば「韓国」ではないかと思います。王毅部長の動線を見ても、最初の訪問先が日本、次の訪問先が韓国です。中国と日本は国内総生産(GDP)規模で世界2位と3位に当たります。より重要であるのは明らかです。しかし、海を隔てた日本と違い、韓国は中国と陸続きで近くにあります。平沢(ピョンテク)米軍基地は北京の「あごの下」です。より敏感になるのは避けられません。韓国は2016~2017年のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の局面で、中国が韓国にどのような報復を加えたのかを経験しています。
今日はインド太平洋地域の二国間関係のうち、最も複雑で微妙な関係の一つである日中関係について詳しく見てみます。外交は基本的に言葉で行うものです。そのため外交官の使う「用語」を注意深く見なければなりません。日本の外務省が24日にまとめて発表した「会談記録」からは、王毅部長と茂木外相の対話内容のうち大きく3つを挙げることができます。
まず、中国と日本はいずれも安定した両国関係が互いの国益にかなうという点で意見が一致しています。考えてみればこれは当然のことです。韓国では日本がトランプ政権の主導してきた「中国包囲戦略」に無条件で参加していると考えられていますが、実情は違います。日本も「米中対立が激化している中、全面的に“米国追従”となっては日本の国益を守ることはできないと判断」(読売新聞、10月16日付)しています。そこで「経済と安全保障問題が結びついた課題では、同盟である米国との協力が不可欠」と考えますが、「3万社を超える日本企業が事業を展開しており、多くの観光客が訪れる中国との経済関係を完全に遮断した場合、日本経済に対する打撃は計算できない」という事実を認識し、国益によって案件ごとに選別する対応をしています。菅義偉首相も9月12日の自民党総裁選挙で、「アジア版NATOを作れば地域に敵、味方を作ってしまう恐れがある。米中が対立しているなか、アジア版NATOを作れば反中包囲網にならざるを得ない。日本外交の目指す戦略的な外交の観点から正しくない」と発言しました。
日本は現在、米国、日本、オーストラリア、インドの4カ国が参加する安保協議体「クアッド(QUAD)」に参加していますが、これがNATO(北大西洋条約機構)が旧ソ連に対したように中国を露骨に包囲する「反中色」を帯びることには反対だという立場です。
次に、茂木外相は「二国間、地域・国際社会における互いの関心事項について、忌憚のない意見交換を行いたい」と述べました。ここで「二国間の関心事項」は、今年に入ってさらに深刻化した尖閣諸島(中国名・釣魚島)近海に中国の艦船が侵犯する問題、「国際社会における関心事項」は香港問題や新疆ウイグル人権問題などを意味するものと解釈されます。実際、茂木外相は香港問題について、「一国二制度」の約束を守るよう述べ、新疆ウイグル人権問題については、「地域・国際社会に共に貢献していく上で、自由、人権の尊重や法の支配といった普遍的価値を重視している」と発言しました。しかしこうした問題は1、2回の会談では簡単に解決しにくい領土と主権に関する問題であるため、「忌憚のない意見交換」という言葉で互いに言いたいことをすべて打ち明けようと提案したのです。
三つ目に、王毅部長は「新たな情勢の下」という表現を使って「日中関係の構築を確実に推進する」と述べました。ここで王毅部長が言及した「新たな情勢の下」という言葉は、米国のバイデン政権の登場を意味するようです。多くの専門家は、バイデン政権が前任のトランプ政権と違い、同盟を重視する国際協力体制の中で強力な「戦略的競争国」に浮上した中国の息の根を止める「対中圧迫」に乗り出すと予測しています。これを予想した王毅部長は、バイデン政権が発足しても日中両国は協力を続けなければならず、ひいては「世界の平和・安定の発展を促進するために貢献すべき」と主張したのです。これは、米国に集中しすぎるあまり中国と不必要な摩擦を起こさないでほしいという意味です。
この発表文には出ていませんが、25日付の日本経済新聞の報道によると、この日王毅外相は茂木外相に「世界が激動と変革の時代に入っている。中国と日本は一衣帯水のような長期的協力のパートナーだ」と述べたといいます。一衣帯水とは、中国と日本は小川をはさんだ非常に近い隣人という意味。中国は韓中関係を描写する時も時々この表現を使います。これについて日本経済新聞は、「新型コロナウイルスの警戒で、王氏は中国に帰国後は一定期間、待機を強いられる。わざわざ来日して『一衣帯水のパートナー』と持ち上げたのは、米中対立下で日本が重要性を増すからだ。」と分析しました。つまり、バイデン政権の対中政策がまだその姿を現す前に日本を訪れ、米国に偏る対中政策を打ち出さないよう「切に」頼んだのです。
それでは、王毅部長の希望通り、日中はバイデン政府の下で友好関係を維持できるでしょうか。それには様々な障害物があります。
最大の変化要因は、バイデン政権の対アジア政策です。具体的には、トランプ政権の時期の混乱を終えて態勢を整えた米国が、来年春以降、日本そして韓国に何を要求するのかです。これについては、米国内でも様々な意見が行き交っています。米国が「民主主義の価値を共有する同盟」をうまく糾合し、中国の締めつけに乗り出すべきだという「強硬派」がいる一方、同盟国に米中二択を強要してはならないという「穏健派」もいます。米国内の議論の状況をもう少し見守るしかありません。
二つ目の変化要因は、二国間の熾烈な領土紛争が進行中である尖閣諸島です。韓国ではあまり知られていませんが、今も中国と日本は尖閣諸島をめぐって激しく対立しています。今年に入ってこの24日まで、中国の艦船が尖閣諸島周辺の接続水域(24海里以内)を侵犯したのは305日に達します。ほぼ毎日侵犯しているということです。日本の艦船が独島の接続水域を毎日のように侵犯すると考えてみましょう。韓国の対日世論はどうなるでしょうか。
バイデン次期大統領も、こうした日中関係の最も「弱い部分」を冷静にとらえているようです。まだ中国が弱かった1972年9月、周恩来首相は中国を訪問した日本の田中角栄首相と会いました。この時に繕った日中間の「領土問題」は、中国が隆盛しはじめた2010年代に入って再発しました。尖閣諸島をめぐる日中対立は結局、2012年12月に日本右派の象徴である安倍晋三首相が第2次内閣を発足するまで続きます。そして安倍政権はオバマ政権の「リバランス」戦略に便乗し、日米同盟を従来の「地域同盟」から活動範囲と地位を大幅に高めた「グローバル同盟」へと拡大発展させました。
そのためでしょうか。バイデン次期大統領は11日、菅首相と電話会談を行った後、この内容をまとめた文書で「次期大統領は日本防衛に関する彼の深い誓約と(日米安保条約)第5条に関する米国の約束を強調した」と書きました。日米安保条約第5条には、日本に対する武力攻撃が発生した場合、各自の憲法規定に従って共同で対処するという内容が書かれています。この一節は、尖閣諸島で米中間に最悪の事態が発生した場合、米国は日本と共に戦うという意志を再び強調するという意味です。つまり、日本に「あなたたちの唯一の同盟国は米国」という点を改めて認識させたのです。
王毅部長は日中関係を「一衣帯水」の関係と呼びました。26日に韓国に来訪してから、韓中関係についてはどのような表現を使うでしょうか。カン・ギョンファ長官、文在寅大統領との会談の際、どんな用語を使ってどんな話をするのか、詳しく見ていかなければなりません。熾烈な米中対立の中で、韓国が活路を見出すにはどうすればよいのでしょうか。外交とは実に難しく、複雑なものです。