韓国の権力構造は大統領制です。大統領選挙で勝てば与党になり、負ければ野党になります。国民の多数は大統領選挙の結果に従います。大統領に投票しなかった有権者も「せっかく当選したのだから、うまくやってほしい」と期待します。私たち国民は基本的に善良な人々です。
韓国ギャラップは6月第2週の定例世論調査で、「李在明(イ・ジェミョン)大統領は今後5年間、大統領としての職務をうまく遂行すると思うか、うまく遂行できないと思うか」を問いました。70%が「うまくやるだろう」、24%が「うまくやれないだろう」と答えています。
6月3日の大統領選挙での李在明大統領の得票率は49.42%でした。大統領選挙の得票率より比率が高く、国民は李在明大統領はうまくやるだろうという期待を抱いているということです。歴代の大統領もみんなそうでした。韓国ギャラップは過去にも、大統領選挙から2週間以内に同様の調査を何度かおこなっています。
大統領/得票率/期待
金泳三(キム・ヨンサム)/41.96%/85%
李明博(イ・ミョンバク)/48.67%/79%
朴槿恵(パク・クネ)/51.55%/79%
文在寅(ムン・ジェイン)/41.08%/87%
尹錫悦(ユン・ソクヨル)/48.56%/60%
数値をよく見てみると、一つ興味深いことに気が付きます。「うまくやるだろう」という回答の割合が少しずつ低下しているのです。なぜでしょうか。政治の二極化が次第にひどくなっているからでしょう。選挙結果に従いたくないという感情を持つ有権者が増加しているということです。したがって、李在明大統領に対する70%という期待感は決して低い数値ではありません。
李在明大統領の国政運営に対する評価も同じです。6月第2週の全国指標調査には「李在明大統領の国政を支持するか、しないか」という質問がありました。「支持する」53%、「支持しない」19%でした。
李在明大統領の大統領選挙での得票率が49.42%、キム・ムンス候補の得票率が41.15%だったことを考えると、李在明大統領にとって非常に良い結果です。キム・ムンス候補に投票した有権者のおよそ50%が李在明大統領に対する評価を留保していることを意味するからです。
尹錫悦大統領の就任直後の2022年5月第3週の全国指標調査での尹錫悦大統領の国政運営に対する評価は、「支持する」48%、「支持しない」29%でした。大統領就任直後の成績表は、李在明大統領の方が3年前の尹錫悦大統領よりはるかに良いとみることができます。
李在明大統領が尹錫悦大統領より成績が良いのはなぜでしょうか。理由は二つあります。
一つ目は基底効果です。基底効果とは「基準点の取り方によって経済指標が実際の状態より縮んだり膨らんだりする現象」のことです。尹錫悦大統領の前任者は文在寅大統領でした。文在寅大統領は尹錫悦検事総長の任命という過ちを犯し、政権まで渡してしまいましたが、かといって失敗した大統領ではありませんでした。退任直前の最後の週の韓国ギャラップの世論調査での文在寅大統領の職務評価は「支持する」45%、「支持しない」51%でした。
尹錫悦大統領は「人には忠誠を尽くさない」という発言や「公正と常識」というスローガンで、大統領にはなんとか当選しましたが、大統領選挙の過程で様々な問題が明るみに出ていました。前任者の文在寅大統領と比べても、それほど立派な大統領ではないということは、国民にすでに知られていたのです。
一方で、李在明大統領の前任者は尹錫悦大統領です。尹錫悦大統領は失敗した大統領です。2024年12月3日の非常戒厳と2025年4月4日の罷免で、事実上「歴代最悪の大統領」として公認されたと言えます。前任者と比較される李在明大統領は基本的に「よくやっている」という評価を受けることになっているのです。
二つ目は実力です。李在明大統領が優れた政治家かどうかはまだ分かりませんが、優れた行政家であることは否定できません。彼は城南(ソンナム)市長を2期、京畿道知事を1期務め、地方自治体の首長として強力なリーダーシップを示しました。そのおかげで、2度の挑戦の末に大統領となりました。
李在明大統領の就任後の動きもその延長です。キム・ジョンイン元「国民の力」非常対策委員長が6月16日の仏教放送の番組「クム・テソプのモーニングジャーナル」に出演し、こんなことを言っています。
「私のみるところ、李在明大統領という方はかなり現実感覚が透徹した人物なので、おそらく現象に対しては誰よりも早く認識すると思う」
「私のみるところ、今月4日に李在明大統領が就任してから今までの状況を見れば、比較的よく運営していると思う。継続してこのようにいけば、かなり成果も出せるのではないかと思う」
最も重要なのは人事です。李在明大統領の初期の人事は比較的良質です。就任当日にはキム・ミンソク首相候補、イ・ジョンソク国情院長候補、カン・フンシク秘書室長、ウィ・ソンラク国家安保室長、ファン・イングォン警護処長を自ら発表しています。キム・ヨンボム政策室長、ウ・サンホ政務首席を任命しています。
国民統合の物差しとしてはやや不十分な面がありますが、実務の力量と党内統合を基準とすれば合格点です。とりわけウィ・ソンラク国家安保室長の起用は、非常戒厳後に壊れた対外関係を迅速に回復しなければならない李在明大統領としては最善の選択だった、との評価が支配的です。
李在明大統領はウィ・ソンラク室長に支えられ、国際舞台デビューに成功しました。李在明大統領に対して批判的な朝鮮日報でさえ、19日付けで「李『韓米日協力で地政学危機対応』この道を歩むべき」と題する社説を載せ、肯定的に評価しました。
李在明大統領が今の水準の国政運営評価を保ち続けるには、どうすればよいでしょうか。民意をよく見なければなりません。
韓国ギャラップは大統領選挙直後の世論調査で、李在明候補に投票した最大の理由は何かを尋ねています。最も多かった回答は「戒厳審判、内乱終息」でした。次の週には、李在明大統領に望むことは何かと尋ねています。最も多かった回答は「経済の回復、活性化」でした。
「投票した理由」と「望むこと」が異なるのはなぜでしょうか。国民の多くは、李在明大統領の当選で戒厳審判と内乱の終息はある程度実現したと考えているようです。そのため、これからは尹錫悦大統領が破壊した国政、特に経済を回復させてほしいと注文しているわけです。
大統領選挙の直後に国会で可決された3つの特検法に則って、内乱特検としてチョ・ウンソク特別検察官、キム・ゴンヒ特検としてミン・チュンギ特別検察官、海兵隊員C上等兵特検としてイ・ミョンヒョン特別検察官が活動を開始しました。李在明大統領が大統領選挙のスローガンとして掲げた内乱克服の仕上げは、これからは特検に任せることになります。いずれにせよ、特検の捜査や起訴に大統領は関与できないことになっています。李在明大統領は民生経済と外交・安保に没頭すればよいのです。
李在明大統領の目の前にある挑戦課題は、キム・ミンソク首相候補の任命です。キム・ミンソク候補を指名した時には、特に問題はなさそうでした。キム・ミンソク議員の道徳性に対する国民の期待もそれほど高いわけではありませんでした。しかし、野党「国民の力」による執拗(しつよう)な問題提起と辞退要求、キム・ミンソク候補の多少粗雑な対応が相乗効果をあげ、キム・ミンソク候補が懸案となりつつあります。国会による任命同意手続きはそれほど問題ではありません。民主党が国会の絶対多数を占めているからです。
重要なのは民意です。24日と25日の国会人事聴聞会がヤマです。キム・ミンソク候補が事実関係を率直に明らかにし、謝罪すべきことは謝罪すれば、国民の多くはキム・ミンソク首相の任命に賛成するでしょう。そうしなかった場合は、民意に背を向けられる恐れがあります。否定的な世論が強いにもかかわらず李在明大統領が任命を強行すれば、負担は李在明大統領にのしかかることになります。
韓国ギャラップは朴槿恵(パク・クネ)大統領時代の2013年から、首相の人事聴聞会の前後に適切度調査をおこなっています。人事聴聞会の前には、すべての首相候補が「ふさわしい」の方が「ふさわしくない」よりも高率でした。しかし、人事聴聞会の後に民意が変化し、「ふさわしくない」が「ふさわしい」を上回ったケースが何度かありました。
2015年の朴槿恵大統領のイ・ワング候補、2022年の尹錫悦大統領のハン・ドクス候補がそのようなケースです。イ・ワング候補はそれでも国会の任命同意を得て首相に任命されました。しかし、慶南企業のソン・ワンジョン会長の事件に巻き込まれ、就任から70日で辞任しました。
ハン・ドクス候補も民主党の協力で首相に任命されましたが、その後の尹錫悦大統領の失敗に大きく寄与しました。最後には、自らが大統領になるとしゃしゃり出るという「醜態」までさらしました。
キム・ミンソク候補も同じです。もし、24日と25日の国会人事聴聞会後の世論調査で「ふさわしくない」が「ふさわしい」を上回ったら、どうすればよいでしょうか。
まとめます。今は李在明大統領の時間です。李在明大統領は「懸命に働く大統領」の姿勢を示しています。国民の多くの評価も肯定的です。幸いです。今のこの姿勢を保ってほしいものです。でないと国民と国が安心できないからです。みなさんはどうお考えですか。