南北境界地域の兵士と住民を苦しめた「拡声器の騒音」が消えた。昨年6月9日に始まった韓国軍の北朝鮮向け拡声器放送とそれに対抗する北朝鮮の「騒音放送」の再開後、約1年ぶりにようやく取り戻した静かな平和だ。拡声器放送が止まったことを受け、騒音被害に苦しんできた南北境界地域の住民たちは歓迎の意を示し、アナンティや現代建設など南北経済協力企業の株価が多少速い期待感で暴騰した。李在明(イ・ジェミョン)大統領が11日、「北朝鮮向け拡声器放送の中止」を指示したことが呼び起こした効果だ。
韓国軍合同参謀本部のイ・ソンジュン広報室長は12日午前の記者会見で、「現在、(北朝鮮の韓国向け拡声器放送が)聞こえてくる地域はない」と述べた。11日午後2時に軍が北朝鮮向け拡声器放送を中止したことを受け、北朝鮮も韓国向け騒音放送を止めたという意味だ。今回の措置は、李大統領が大統領選挙期間中に繰り返し掲げた約束だった。9日には統一部が一部民間団体の対北朝鮮ビラ散布行為の中止を「強く要請」した。
注目すべきなのは、北朝鮮向け拡声器放送の中止が「大統領の指示」に伴う措置であることを、李大統領と大統領室が繰り返し強調したことだ。李大統領はこの日午前、インスタグラムへの投稿で、「11日午後2時をもって北朝鮮向け拡声器放送を中止するよう指示した」と明らかにし、前日のカン・ユジョン大統領室報道官の発表を自ら再確認した。 「最高指導者の決断」を重視する北朝鮮の対話法を念頭に置いた北朝鮮へのメッセージだ。
北朝鮮は、韓国政府の先制的決断に対し、まだ立場を表明していない。北朝鮮が韓国向け騒音放送を中止したのは悪くないシグナルだ。だが、南北が短期間で対話を再開すると期待するにはまだ早いというのが大方の見解だ。
李大統領も、北朝鮮との関係修復を無理には進めない雰囲気だ。李大統領はインスタグラムへの投稿で、今回の措置が「北朝鮮の騒音放送で長い間苦しんできた南北境界地域の住民たちの苦痛を減らすためのものだ」と説明した。さらに、「今回の措置で南北が軍事的緊張を緩和し、互いに対する信頼を再び築いていくことを期待する」と述べた。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が昨年6月4日、国務会議の議決で「すべての効力を停止」とさせた「9・19軍事分野合意」と関連し、李大統領は直ちに効力の復元に乗り出すよりは、北朝鮮の動向に注目しながら、効果を最大化できる時期を見計らう可能性がある。
まず急がれるのは、2023年4月7日以来、2年2カ月も途絶えている南北直通連絡線の復元だ。 政府が保護している「漂流北朝鮮住民6人」が直通連絡線の復元の呼び水になる可能性もある。今年3月と5月にそれぞれ西海(ソヘ)と東海(トンヘ)で漂流し、軍に救助された北朝鮮住民6人は全員「帰る」意思を明らかにしており、政府は北朝鮮に送還する方針を立てている。北朝鮮が彼らを受け入れるなら、南北当局間の実務協議のために直通連絡線を利用する必要がある。政府関係者は「注目に値する」と述べた。
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記兼国務委員長が、善意に基づく李大統領の提案にどのような反応を示すかは予測困難だ。金総書記はちょうど「6月下旬」に朝鮮労働党中央委第8期第12回全員会議を開き、「一連の重要問題」を討議決定すると明らかにした。金総書記は15~17日、カナダで開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、李大統領が展開する首脳外交を見守ったうえで、全員会議で「李在明政権への対応方針」を決めるものと予想される。