「米国第一主義」をいっそう高く掲げてトランプが帰ってきた。「自由主義」の先頭に立つとして韓米同盟にすべてをかけてきた尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の外交に、巨大な嵐が迫りつつある。
トランプの再選は、韓国が過去70年あまりにわたって馴染んできた米国主導の自由主義国際秩序が揺らぐ「大変動の時代」に直面したことを意味する。尹錫悦政権は「寛大な味方である米国」という幻想に寄りかかって国際情勢の冷静な現実を無視し、イデオロギーにとらわれた「ネオコン」外交で疾走してきたが、トランプの登場でその土台そのものが崩壊した。このかん北朝鮮の核能力は強化され、南北関係は戦争が懸念されるほど悪化しており、北朝鮮とロシアは密着した。中国やロシアとの関係を悪化させつつ尹錫悦政権がすべてをかけてきた韓米日協力の未来も、極めて不透明になった。
■「韓国はマネーマシーン」トランプ、防衛費で圧力かけ同盟揺さぶるか
来年1月に「トランプ2.0」がはじまれば、韓米同盟はまず在韓米軍の「防衛費」問題で試されると予想される。
韓米は今月4日、2026年から適用される在韓米軍防衛費分担金特別協定(SMA)に署名した。SMAは2026年の分担金を前年度に比べ8.3%上昇の1兆5192億ウォンと定め、その後も消費者物価指数(CPI)の増加率を反映して毎年引き上げていくとしている。現行の協定の満了まで2年近く残っている中、韓米両政府が異例にも交渉を急いだのは、トランプが大幅な引き上げを要求する可能性の遮断を意図したものだったが、むしろ逆効果になる可能性が高い。
トランプは「韓国はマネーマシーン(Money Machine)」、「(防衛費分担金として)年間100億ドル」を要求するとして、選挙運動の間中、韓国の防衛費の大幅引き上げを主張してきた。年間100億ドルというのは、韓米が特別協定で合意した金額の9倍近い。大統領室の関係者は6日、トランプが防衛費分担金合意を破棄する可能性について問われ、「米国の大統領選挙の結果がどうあれ、私たちが十分に協議した結果として基準点を提示する効果があるはず」だと語ったが、希望にとどまることが非常に懸念される。
専門家は、交渉を急いだことがかえってトランプの目を引きつけ、韓国が標的にされる可能性が高いだけでなく、トランプが交渉カードとして在韓米軍の削減などを主張することで、韓米同盟の亀裂が拡大すると予想する。世宗研究所のキム・ジョンソプ首席研究委員は、「韓国はぜい弱な位置にあるため防衛費の大幅引き上げへと引っ張っていかれる可能性があり、交渉過程でトランプ大統領に在韓米軍の大幅削減や撤退を主張されて圧力をかけられたら、拡大抑止に対する信頼が揺らぐとともに、韓国の核武装論が大きく浮上することになるだろう」との見通しを示した。
尹錫悦政権が注力してきた「韓米日協力」の動力も、大きく下がる可能性が高い。韓米日協力はトランプの強調する中国けん制という目標に役立つため、完全に廃棄されることはないだろうが、バイデン大統領の主要政策である「韓米日協力」が積極的に推進される可能性は低い。そのうえ、トランプは同盟に気を使わない米国第一主義を追求しているため、「韓米日協力」ではなく韓国に対する安保コストの要求に集中すると考えられる。
■トランプと金正恩が再会したら、韓国の立場は
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長はトランプに対して核保有を認めた上での交渉を求めつつ、韓国の立場を徹底的に排除する「通米封南」を追求すると予想される。トランプと金正恩の首脳会談が行われた2018~2019年に比べて北朝鮮の核やミサイルの能力は大幅に高まっており、南北関係は最悪で、韓国の声は反映されにくい。トランプが北朝鮮の要求どおり核保有を事実上認めるかたちの交渉をはじめ、韓国の安保に対する懸念を反映しないかたちで妥協した場合、韓国の安保環境は想像し難い危機に直面することになる。
キム・ジョンソプ首席研究委員は、「北朝鮮はトランプが北朝鮮の核保有を認めた状態で交渉を提案してくれば拒まないだろうし、トランプは大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの米国の安全を脅かす部分だけを除去しようと言って北朝鮮に接近する可能性がある」と述べた。北朝鮮の金正恩国務委員長は今、ロシアという新たな活路が生じたため、2018~2019年のように米国との交渉を急いでいるわけではないが、新たな選択肢がもう一つできることを拒む理由はないということだ。キム首席研究委員は、「トランプが実際に交渉に乗り出せば韓国が朝米交渉に反対しても無駄であろうし、韓国の立場を反映できるかも不透明な、非常に難しい状況に直面することになるだろう」との予想を示した。
■ウクライナ戦争と北朝鮮の派兵、朝ロ密着はどこへ
トランプの登場は、ウクライナ戦争を媒介とした朝ロ密着には二面的な影響を及ぼすとみられる。韓国国防研究院(KIDA)のトゥ・ジンホ国際戦略研究室長は、「ロシアは笑いを隠してこれまでの道を行くだろう。ウクライナに対する封鎖をさらに強化することで、米国内で『現実を直視しよう』という認識を広げるとともに、西側の結束を瓦解させて有利に戦争を終えようとするだろう」と予想した。このようなプーチンの戦略に合わせて、北朝鮮軍のウクライナ戦争での役割もしばらく終わらない可能性が高い。トゥ研究室長は「北朝鮮もいったん決断を下した以上、所期の成果が必要だ。北朝鮮とロシアはひとまずクルスクで連合態勢を確立したうえで、他の地域への北朝鮮軍の投入を検討しつつ、自分たちのタイムテーブル通りに攻勢を強めていくだろう」と予想した。そうなった場合、北朝鮮はウクライナ戦争が終わった時、「共同勝利国」としての成果を誇示しうる。
だが、トランプが公言通り速やかにウクライナ戦争を終わらせた場合は、朝ロ密着の動力は弱まると予想される。トゥ研究室長は「ウクライナ戦争の終結後も朝ロ密着はかなりのあいだ続くだろうが、戦争が短期間のうちに終われば北朝鮮が受け取れるパイは減り、朝ロ協力の動力も弱まるだろう」との見通しを示した。韓国がロシアとの関係をどのように管理できるかが、イデオロギー外交に突き進んできた「尹錫悦外交」がトランプ2.0時代に適応できるかを占う重要なバロメーターになるとみられる。