今月初めに現場に投入されたフィリピン人家事管理士のうち、2人が宿舎を無断離脱していたことが確認された。専門家は「予見されていたこと」と口をそろえる。モデル事業を進めるソウル市と雇用労働部が家事管理士を雇用した業者に対する監督を疎かにしていたうえ、モデル事業中も賃金を最低賃金以下に引き下げようとし続けていたことが離脱を招いたというのだ。
23日のソウル市と労働部の説明を総合すると、2人のフィリピン人家事管理士は今月15日の夕刻にソウルの駅三洞(ヨクサムドン)の宿舎を出て、その後、この日まで帰ってきていないことが確認された。1人は携帯電話を宿舎に置いたまま出て行っており、もう1人は携帯電話の電源を切っているため連絡がつかないという。本国の家族を通しての連絡もつかないという。フィリピン人家事管理士は100人が先月6日に入国し、今月2日まで研修を受け、3日に仕事を開始している。
2人の離脱は経済的困難や雇用不安などが原因だと労働部は推定している。労働部の関係者はハンギョレに「フィリピン人家事管理士たちの内部で、延長勤務の多い雇用許可制(E-9)の製造業より月給が少ないという話が出回っていた」とし、「モデル事業であるため彼らのビザ期間が7カ月だったせいで、雇用不安もあったようだ」と語った。研修後、勤務に投入され、初の給料日だった今月20日に彼女たちが受け取った給与は平均50万ウォン(約5万3900円)程度だったという。4大保険、宿泊費などが差し引かれたうえで、1カ月後から給与が分割支給される方式だった。ソウル市は「8月6日から9月2日までの『研修手当て』は201万1440ウォン(約21万7000円)で、そこから宿舎費や所得税など53万9700ウォンを差し引いた147万1740ウォン(約15万9000円)ほどが3回(8月30日、9月6日、9月20日)にわたって分割払いされた」と説明した。8月には賃金に当たる研修手当てが遅配になってもいる。
移住労組で活動するチョン・ヨンソプさんは、「工場(製造業)、農場(農業)で働けば通常、宿舎費は月20万ウォン(約2万1600円)であるうえ、宿舎の隣に仕事場があるため交通費もかからない」とし、「月給が同じでも(交通費、宿舎費など)フィリピン人家事労働者の必須経費の方がはるかに高いため、彼らの手取り額は非常に低い」と語った。
制度導入当初からフィリピンの労働諸団体と共に問題を提起してきた民主労総未組織戦略組織局のク・チョルフェ局長は、「フィリピン人労働者は8月の研修も、最初の月となった9月の労働もきちんと対価を受け取れていないのに、ソウル市は最低賃金以下に引き下げるべきだという討論会をおこなっている」とし、「拙速な制度導入が招いた国際的な恥さらし」だと指摘した。
専門家たちは、「雇用の質」を確保できなければさらなる離脱は避けられないと診断する。韓国労働研究院のチョ・ヒョクチン研究委員は、「賃金支給が遅れるような状況にあって、連鎖的な無断離脱が発生する可能性は高い。雇用の質に満足できなければ離脱を選択せざるを得ない」とし、「まず、支給を先にする構造に変えるなどの短期的対策が必要だ」と述べた。
ソウル市は、「家事管理士の給与支給方式を『月給制』から『週給制』に改善するなど、勤務環境の改善を雇用労働部と積極的に協議し、さらなる離脱を防ぐ」と述べた。ソウル市は雇用労働部と24日に懇談会を行い、モデル事業の実施にともなう現場の困難などを聴取し、改善策を立てることにしている。