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[コラム]尹錫悦大統領が検察総長のように国を運営した代償

登録:2024-04-05 06:19 修正:2024-04-05 08:33
イ・ジェソン|論説委員
尹錫悦大統領が3月18日、ソウル瑞草区の農協ハナロマート良才店を訪れ、長ネギの値段を見ている=大統領室通信写真記者団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は「史上初」のチャンピオンだ。紙面に限りがあるため、経済分野に限って言わせてもらうと、物価は上がるのに賃金は横ばいで実質賃金が2年連続(2022~2023年)減ったのも、通貨危機当時ですら増やした研究開発(R&D)予算を削減したのも、史上初めてだ。56兆4千億ウォン(約6兆3千億円)という莫大な税収の穴を空けたのも、通貨危機・金融危機のような外部の衝撃がない状態で、1%台の経済成長率(2023年1.4%)を記録したのも初めてだ。

 これらすべての「史上初」と直接的かつ間接的な関係があるのが、金持ち減税に対する尹錫悦大統領の奇妙な執着だ。政権発足1年余りで89兆ウォン(国家財政研究所の6年値推定集計)の税金を減免する減税を断行したのに続き、その後も数十種類の減税案を出しているが、このような大統領は大韓民国の歴史で初めてだ。任期5年間で63兆ウォン(約7兆円)の減税を行った李明博(イ・ミョンバク)政権は、尹錫悦政権に比べればかわいいものだ。

 2008年の世界金融危機で実体経済と理論の両方で破綻した新自由主義的減税案を、尹大統領が就任初年度に持ち出した時、多く国民が何も言わずに見守ったのは、ひとまずチャンスを与えようという考えからだっただろう。この2年間は尹錫悦ノミックスの時間だった。そして、国民は改めて確認した。米国のジョー・バイデン大統領の言葉を借りれば、「トリクルダウン効果は決して作動したことがない」という事実を。理念を前面に押し出して経済を運用しながら、時代遅れの新自由主義理論という「プロクルステスの寝台」に合わせて現実の足を切り取った結果を。本を読まない人より、本を1冊(ミルトン・フリードマンの『選択の自由:自立社会への挑戦』)だけ読んだ人の方がはるかに危険であることを。

 期待が失望へと変わり、失望が怒りへと凝縮されるのに、2年は十分な時間だ。いわゆる「長ネギ事件」(尹大統領が1キロ約100円と書かれた長ネギの値段を見て合理的と言ったのが物議を醸したもの。物価高で現在長ネギの小売価格は1キロ約330~450円)は偶然起きたものではない。これまで抑えてきた失望と怒りが、粗末に演出された欺瞞的な寸劇を機に一気に爆発したのだ。もはや前政権のせいにすることもできない。

 尹錫悦政権は物価を見くびっていた。株価指数が数カ月にわたり史上最高値を更新し好況を享受している米国の大統領と日本の首相の支持率が低いのは、ほかならぬ物価高のためだ。「現職ディスカウント」(現職に不利)が発生せざるを得ないのが経済と物価だ。まして経済成長率(2023年)は米国(2.5%)と日本(2.0%)より低いのに、物価上昇率はさらに高い韓国は言うまでもない。大統領の支持率が高いなら、むしろおかしいだろう。

 政府与党が物価よりもっと見くびったのは国民だ。民生討論会という名を借りて減税と開発政策を打ち出せば国民が喜ぶと思っていたようだ。しかし、国民は愚かではない。財源調達案もないただの空約束を信じるほど間抜けではない。あのようにばらまいたら国の財政が底をつくのではないかと心配するくらいには、十分理性的だ。昨年10月、ソウル江西(カンソ)区庁長補欠選挙の惨敗後、政府と与党が意欲的に打ち出した公約(金浦のソウル編入から韓国型アウトバーンまで)は350件あまりで、総事業費が900兆ウォン(約101兆2千億円)に及ぶが、むしろその膨大な金額のために真摯さを疑われた。選挙が近づいてきたため守れない約束を乱発していることを、鋭い民心は見抜いたのだ。

 「長ネギ事件」は、検察流の上命下服を求めた結果、参謀は消え秘書だけが残った内閣と大統領室が自ら招いた「災い」だ。尹大統領自ら仕掛けた罠に自分がはまったわけだ。大統領の機嫌を取るため選び抜かれた動線に875ウォン(約98円)の長ネギを配置し、これを「合理的な価格」だと言う大統領の世間知らずの一言が、暮らしのイシューを吸い込むブラックホールとなった。人々が怒るのは物価そのものよりも、この事態に対する政府与党の姿勢だ。「一束」ではなく「一本の値段」だったはずというある国会議員候補の尹大統領擁護発言は、「バイデン・台無しにすれば」の暴言擁護問題を連想させ、火に油を注いだ。大統領1人のための惑世誣民(世人を迷わして欺くこと)が現政権の本質であることを、多くの国民が知ることとなった。梨泰院(イテウォン)惨事と海兵隊のC上等兵死亡事故を隠蔽し縮小しようとした政府与党の責任逃れの習性は、長ネギ事件でも遺憾なく発揮された。

 尹大統領は少なからず当惑していることだろう。検察ではこうではなかったのに、どうして自分の思い通りに行かないのか不思議に思っていることだろう。被疑者の弱点を握り、有利な情報だけを選択的に流し、世論を動かしていた時代が懐かしいことだろう。検察での成功という「勝者の呪い」が、尹大統領の最大の弱点だ。尹大統領はまだ政治と捜査の違いに気づいていないようだ。残りの3年間、またどのような最悪の「史上初」が待っているかを考えるだけで、恐ろしくなる。

//ハンギョレ新聞社
イ・ジェソン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1135260.html韓国語原文入力:2024-04-04 18:37
訳H.J

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