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韓米合同演習に「応戦」する代わりにジャガイモ農業促進…北朝鮮が変わった

登録:2024-03-11 08:19 修正:2024-03-11 09:29
[ハンギョレS]ソ・ジェジョンの一つの半島、一つの世界 
「自由の盾」演習と北朝鮮 
 
以前は農民まで予備軍に動員 
今年は住宅・工場建設に軍投入 
「自力経済・現代化」自信が土台 
米日は管理モード…尹政権だけが強硬
朝鮮労働党の金正恩総書記兼国務委員長が先月28日「『地方発展20×10政策』の実現のための初着工」である「(平安南道)成川郡地方工業工場建設着工式」に出席し、「地方の全面的復興を迎えるためのわが党の10年目標の偉大な闘争がついに開始された」と表明した。29日に労働新聞が報じた/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 韓国と米国は合同軍事演習「自由の盾(フリーダムシールド)」を4日に開始した。14日まで合計48回の野外機動訓練を拡大実施する予定だ。昨年に比べ約2倍増となる規模だ。合同空中強襲訓練、合同戦術実射撃訓練、合同空対空射撃および空対地爆撃訓練などを実施するという。過去数年間に進められた国連軍司令部の再活性化の一環として、オーストラリアやカナダ、フランス、英国、ギリシャ、イタリアをはじめとする12の国連司令部加盟国も、今回の軍事演習に参加する。

 ところで、韓国と米国はなぜ、春が始まる3月にこうした大規模な軍事演習を行うのだろうか。事実、韓国と米国は、チームスピリット合同軍事演習を始めた1976年から何度も名称を変更したが、ほぼ毎年3月頃にこうした大規模な軍事演習を実施している。定期的な年次軍事演習になったが、そうだとしても、なぜ毎年春季に行わなければならないのだろうか。

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韓米、3月に軍事演習を行う理由

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、合同軍事演習が実施されるたびに、敏感に反応してきた。軍隊を動員して対応軍事訓練を進め、韓国の予備軍と民防衛隊訓練に似た労農赤緯軍などの民兵組織が動員された。世界最先端の軍事力を保有している米軍だけでなく、軍事装備などで優秀な韓国軍に対応するために、全国民を動員するのだ。

 全国民が職場を離れて毎回10日以上軍事訓練を行えば、当然のことながら、経済活動に支障をきたす。工場は正常運営ができなくなり、生産は遅延する。新年の農作業の準備で忙しい農繁期が始まるときに人材がろくに供給されなければ、1年の農作業を台無しにしてしまうことも起こりうる。そうでなくても、農繁期になれば、軍人や学生などを農場に派遣して働き手として手助けすることによって、その年の農作業が保障される国だ。ところが、軍人や学生たちだけでなく、農民まで農場を離れて軍事訓練をしなければならないことになれば、その被害ははかりしれない。北朝鮮において韓米合同軍事演習は、安全保障問題どころか生存への脅威である。おそらく、韓米軍事演習はこれを狙っているのだろう。

 しかし、最近になり、北朝鮮の反応は過去とは違ってきている。軍事演習には反発するが、必ずしも軍事演習で対応するとは限らなくなっている。今年は「自由の盾」演習が3月初めから始まると予告されているにもかかわらず、その直前である2月28日に平安南道成川郡(ソンチョングン)で地方の工業工場の着工式を行った。北朝鮮が地方の全面的な振興を目標に10年計画を立てて推進する「地方発展20×10政策」の初めての開始を宣言したのだ。

 この着工式には異例の姿があった。カン・スンナム国防相やチョン・ギョンテク軍総政治局長、軍の大連合部隊長、建設に動員された軍人が参加したのだ。それだけでなく、「『地方発展20×10政策』の貫徹のために新たに組織された朝鮮人民軍第124連隊」の存在を公開した。すなわち、韓国と米国が昨年に比べ2倍規模の合同軍事演習をまもなく開始するというのに、地方に工場を建設するための連隊級の工兵部隊を新たに作ったということだ。さらに、「自由の盾」合同演習の実施の真っ最中だった7日、労働新聞は「『地方発展20×10政策』地方工業工場の建設着工式が、亀城市(クソンシ)、粛川郡(スクチョングン)、銀波郡(ウンパグン)、鏡城郡(キョンソングン)、漁郎郡(オラングン)、温泉郡(オンチョングン)で実施された」と報じた。

 過去とは大きく違う態度だ。韓米合同軍事演習の期間中に、全国各地で工場建設に拍車をかけている。「自由の盾」が始まった4日には、両江道の三池淵市(サムジヨンシ)や大紅湍郡(テホンダングン)、白岩郡(ペクアムグン)などにトラクターを大規模に送り、ジャガイモの農作業を進めた。それより前の2月23日には、平壌(ピョンヤン)の和盛(ファソン)地区で3段階の住居建設の着工に入り、1年以内に1万世帯の住居を追加するとして急ぐ様子も見せた。この工事現場にも軍隊が動員されている。休戦ラインの南で軍事演習が実施されていようが、北朝鮮は農作業の準備に忙しく、住宅と工場の建設に拍車をかけている。

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コロナ封鎖期に「自力再建」

 金化郡(キムファグン)と三池淵市の経験が示唆する点は少なくない。2020年8月の洪水でほとんど廃虚と化した金化郡は、単に原状復旧しただけでなく、完全に現代化した新都市に換骨奪胎した。とはいえ江原道の内陸の山奥にある小さく立ち後れた郡であったため、大規模な工業団地が作られたわけではない。服工場、食料工場、日用品工場、紙工場が新たに建設された程度だ。

北朝鮮の平安南道粛川郡で5日に地方工業工場の建設起工式が行われたと、朝鮮中央通信が7日に報じた/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 ここで注目される点は、金化郡の再建事業が本格的に進められた時期だ。2021年初めから2022年6月までの1年6カ月は、コロナ禍のために国境を自ら閉鎖して外部との交流がまったくなかった時期だった。外部の支援どころか物資の輸入さえも完全に断絶し、コロナ禍のためにすべての活動が萎縮していたにもかかわらず、金化郡では新たに工業工場が新設され、村が完全に再建築された。自動化された現代式の工場を建設し、すべての機材と部品を国内で調達し、生産活動に必要な原料は現地で供給できるようにした。

 三池淵市の経験がその肥しになったのだろう。三池淵市でも、国境が封鎖された2020年初めから2021年末までのわずか2年間で、大々的に住居と公共建物を建設した。ここにも軍隊が投入され、第216師団が工事を総括したが、白頭山(ペクトゥサン)のふもとにある山間都市に建設資材などを供給することが困難であるため、大部分を現地で調達した。セメントを節約するために、三池淵にありふれている硅藻土を混合して使ったり、レンガを作る際には、現場の泥にジャガイモ工場から出る煙滓(物質が火で焼ける時に煙に混じって出るホコリ状の黒い粉)を混ぜたりした。人造大理石や板材、木材も現地で直接調達したことが分かった。

 金化郡の改造事業が完了した1年後の2022年7月、江原道元山(ウォンサン)で開催された「江原道生活必需品展示会」で、金化郡の工場製品は一般消費者から好評を得た。三池淵は「社会主義理想村」と呼ばれている。北朝鮮は、自力で経済を現代化して全国を開発できるという自信を確認したとみられる。韓米軍事演習にもかかわらずに、経済制裁との全面戦争に大胆に乗りだしている。

 最近、日本と米国は対北朝鮮政策で微妙な気流を示している。日本の岸田文雄政権は、北朝鮮との首脳会談の可能性を残し、「密談」を継続している。北朝鮮も積極的に肯定的な返事をして、日本とは戦う意志がないことを示唆している。米国のジョー・バイデン政権も最近、北朝鮮非核化に向かうプロセスには「中間段階」が必要だとして、対北朝鮮関係の管理モードに入った。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は単独で強硬モードだ。尹大統領は三一節(3・1独立運動記念日)の記念演説で「自由な統一朝鮮半島」に言及し、北朝鮮の政権交替を示唆した。シン・ウォンシク国防部長官は7日、「金正恩政権の終末」に言及し、「北朝鮮がもし我々の防衛的な演習を口実に挑発すれば、『即時に・強力に・最後まで』の原則から、『先に措置、後に報告』を越えて『先に報復、後に報告』せよ」と指示した。北朝鮮は内心、あざ笑っているかもしれない。

ソ・ジェジョン|国際基督教大学・政治国際関係学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1131558.html韓国語原文入力:2024-03-09 22:32
訳M.S

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