尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は1日、「黄色い封筒法(労働組合および労働関係調整法2、3条)」と「放送3法(放送法、放送文化振興会法、韓国教育放送公社法)」に再議要求権(拒否権)を行使した。労働者に対する企業の無分別な損害賠償請求は防ぐべきという市民の「黄色い封筒キャンペーン」が開始されてから10年かかって国会の敷居を越えた「黄色い封筒法」は、尹大統領の拒否権に阻まれた。政権が交代する度に左右に揺れる公共放送の支配構造を改善し、独立性を確保すべきだとの言論界の長年の念願も、「次」を考えなければならなくなった。
「黄色い封筒法」は使用者の範囲を元請け企業にまで拡大するとともに、ストライキをおこなった労働者に対する使用者の無分別な損害賠償請求を制限する内容を含んでいる。政府与党はこの間、黄色い封筒法は「違法ストライキを助長する」として反対してきた。
この法案の別称である「黄色い封筒」は、双龍自動車のストに参加した労働者に47億ウォンの賠償を命じた2013年12月の判決に抗し、市民たちが労働者を支援するために黄色い封筒に4万7千ウォンを入れて寄付したことに由来する。黄色い封筒キャンペーンは、2003年の斗山重工業のペ・ダルホさん、韓進重工業のキム・ジュイクさんら、多くの労働者が企業による過酷な損害賠償請求や仮差押さえに勝てずに自ら命を絶ったことを想起させ、自然と労組法改正の動きへとつながった。
国会での議論は遅々として進まなかった。第19代国会(2012~2016年)および第20代国会(2016~2020年)に提出された同法案は、議論もまともに行われることなく任期満了で廃案となった。第21代国会(2020年~現在)でも黄色い封筒法案は与党「国民の力」の強い反対にぶつかったが、先月9日に野党主導で国会本会議を通過した。だが今月1日、尹大統領による拒否権行使によって、労働者と市民の願いはわずか22日でまたしても挫折することになった。法案の筆頭提出者を務めた正義党のイ・ウンジュ議員はこの日、「黄色い封筒法は過酷な損害賠償請求や仮差押さえで命を絶ったり、家庭が破綻したりした労働者とその家族に、国会が送る最低限の反省文だった。この反省文を書くのに(ペ・ダルホ、キム・ジュイク両氏が亡くなって)20年もかかった」とし、「実に非情で無責任な大統領」だと批判した。
放送3法は、韓国放送(KBS)、文化放送(MBC)、教育放送(EBS)の理事を21人に増やす(現行はKBS11人、MBCとEBSは9人)とともに、理事の推薦権を学界・視聴者委員会など政界の外部へと拡大し、公共放送の政治的独立性を強化することを狙った法律だ。公共放送の社長などの理事陣に政権の好みに合う人物を据えて放送を掌握するのを防ぐためには、支配構造を改善しなければならないとし、第19代国会時代から法改正が議論されてきたが、与野党が入れ替わるたびに互いに従来の態度を覆してきたため、結果が出せずにいた。
国民の力は今回も、放送3法によって「公営放送の公正性と公益性が損なわれる」として反対してきたが、先月9日に野党は同法案を可決した。そして尹大統領は予想通り拒否権を行使した。民主党の議員はこの日、ソウル龍山(ヨンサン)の大統領室前で記者会見を行い、放送3法に対する拒否権行使について「尹錫悦政権による放送掌握、言論統制の企図は、結局はブーメランとなって返ってくるだろう」と反発した。
尹大統領による拒否権行使は今年4月の糧穀管理法改正案、5月の看護法案に続き、今回が3回目。任期開始から1年6カ月にして、拒否権を行使した法案は6件となった。糧穀法や看護法と同様に、黄色い封筒法と放送3法も廃棄されるとみられる。大統領が拒否権を行使した法案が国会本会議を改めて通過するためには、在籍議員の過半数の出席、出席議員の3分の2以上の賛成が必要となるが、野党の議席はそれに満たないからだ。妥協なき対峙(たいじ)局面が再確認されたことで、来年4月の総選挙までは「与党と野党」、「大統領室と野党」の対決構図がよりいっそう強まる、というのが政界の大方の予想だ。