本文に移動

礼拝堂まで急襲…韓国法務部の「移住労働者取締り」で人権侵害続出

登録:2023-05-04 01:14 修正:2023-05-04 07:56
移住労働者が鎖で自分たちの境遇を象徴するパフォーマンスを行っている=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

 農業や製造業、建設業など非専門職種への就業を希望する外国人に発給される非専門就業ビザ(E-9)で2013年に韓国に入国したネパール人のTさん(44)は4月8日、忠清南道牙山(アサン)のある工場で滞在期間(最大4年10カ月)を越えて働き続けたことで、韓国政府の不法滞在取り締まりに摘発された。取り締まりの過程で肩を脱臼したが、Tさんは直ちに大田(テジョン)出入国管理事務所の保護室に収容された。Tさんが一晩中泣きながら痛みを訴えると、当局は翌日になってようやく彼を病院に連れて行った。医療スタッフは手術が必要だと言ったが、Tさんは翌日、強制出国させられた。Tさんの診療費(104万ウォン)は、一緒に摘発された他のネパール人に請求された。ネパールに帰ったTさんは最近「行き過ぎた取り締まりで負傷したこと、治療費を他のネパール人に負担させたこと、治療が終わっていない人を急いで出国させて人権を侵害した状況を調査してほしい」として、国家人権委員会に陳情を出した。Tさんは出入国管理事務所における人権侵害の再発防止策を講じるよう求めた。人権委は事実関係の確認のための手続きを進めている。

 韓国政府が不法滞在移住民に対する取り締まりを強化したことで、人権侵害の事例も続出している。政府は外国人登録証のない未登録移住民だけではなく、合法滞在者でも規定に反する労働に従事ずる移住民も全員「不法滞在外国人」とみなし、摘発と追放を進めている。

 3月25日には仁川(インチョン)のあるクラブでタイの有名歌手が公演をしていたところ、仁川出入国・外国人庁がタイとラオス国籍の不法滞在移住民83人を一度に逮捕した。他国の文化公演を台無しにし、外交問題に飛び火する恐れがあるという懸念の声もあがっている。同月12日には警察が大邱(テグ)で礼拝を行っている教会を急襲し、フィリピン国籍の不法滞在移住民9人を逮捕して、宗教の自由を侵害したと批判された。

 政府の大々的な取り締まりで負傷者が続出し、人権侵害という批判が高まっているが、法務部は不法滞在に対する常時取り締まり体系を通じて厳正な法秩序を確立したと広報している。法務部は3日、報道資料を出し「今年1月から4月まで1万2833人を送り出し、1万2163人を自主出国させて、不法滞在移住民2万5千人を減らした」と明らかにした。ハン・ドンフン法務部長官は「柔軟な出入国移民管理政策の前提となるのは、厳正かつ予測可能な滞在秩序であり、これからも不法滞在に対する取り締まりなど厳正な滞在秩序の確立に努める」と述べた。

 しかし、法務部のこのような取り締まりは反人権的であるだけでなく、現実とかけ離れているという指摘もある。韓国国民が敬遠する農業分野では不法滞在移住民の労働力がなければ農作業がほとんど不可能であるためだ。韓国農村経済研究院のオム・ジニョン研究委員が農家402カ所を調査・分析した資料「農業部門における未登録外国人勤労者雇用の実態と課題」によると、外国人労働者を雇用する農家の91%が不法滞在移住民を雇用していた。

 取り締まりが強化されれば不法滞在移住民がさらに身を潜め、危険な労働・居住環境に置かれる可能性もある。3月4日には京畿道抱川市(ポチョンシ)のある豚農場で、不法滞在状態だった60代のタイ人が死亡後に遺体が遺棄された状態で発見されており、2月23日には全羅北道高敞(コチャン)でタイ国籍の不法滞在移住民の夫婦が暖房費を節約しようと薪を使い窒息死する事故もあった。

 移住労組のウダヤ・ライ委員長はハンギョレの取材に対し「政府の無差別な取り締まりだけでは未登録移住民数を減らすことができず、様々な人権侵害を量産するだけだ。農漁業と産業現場でも問題を起こし経済に打撃を与える」とし、「コロナ禍では移住労働者の人手不足を訴え、急いで未登録移住民を連れて来ておいて、今度は追い出そうとする韓国政府はあまりにも偽善的だ」と批判した。

イ・ジェホ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1090424.html韓国語原文入力:2023-05-03 20:48
訳H.J

関連記事