「1億ウォンなら会費組、2億ウォンなら大学、3億ウォンならプロ」
アマチュア野球選手の保護者の間でささやかれている話だ。普通、小学校4年生から野球を始めれば、高校3年生までは基本の会費だけで1億ウォン(約963万円)がかかるからだ。「江南の家を売って子どもに野球をさせる」という話すら聞かれる。野球の私教育費はそれほど高騰しているのだ。野球への参入の壁が高くなったという意味でもある。経済的支援なしには野球が始められない時代なのだ。なぜなのだろうか。
学校での団体練習時間の不足
修学中の選手に対する学習権の保障を求める世論が高まったことで、学校内の団体練習時間は以前より大幅に減っている。野球の名門高校では選手数だけでも50人前後にのぼるが、監督やコーチが一つひとつ教える時間はない。レギュラー候補でない場合はさらに団体練習時に疎外されざるを得ない。個人練習が足りない選手たちは、焦って週末や長期休みに私設アカデミーを訪れるしかない環境となっている。2017年に野球アカデミーを始めたある引退選手は、本紙のインタビューに対し「始めた当初は、野球アカデミーはそれほど多くなかった。選手も監督に隠れて来ていたが、最近はレッスンを受けない生徒はいないため、保護者も生徒もレッスンを受けないと不安に感じている」と話した。レッスンを受ける年齢もだんだんと下がり、最近は小学生もアカデミーを訪れる傾向にある。複数のアカデミーを回って技術などを身につけるのもトレンドになっている。
1カ月の費用は最低300万ウォン
月平均の野球レッスン料は約150~200万ウォン(約14万5000~19万3000円)ほど。すでに学校の野球部の監督やコーチの月給などとして会費を月70~100万ウォン(約6万7400~9万6300円)は出している保護者の立場からすると、負担になる金額だ。さらに学校の勉強について行くため、それとは別に英語や数学の家庭教師まで付ければ、経済的コストはさらに膨らむことになる。高校進学を控えたある野球選手の保護者は「監督、コーチの賃金として月80万ウォン(約7万7100円)、子どもの食費や交通費として30万ウォン(約2万8900円)の計110万ウォン(約10万6000円)を出している。ここに冬季キャンプ費用として1人当たり600万ウォン(約57万8000円)が追加されて、毎月で計算すると、基本的に150万ウォンが必要になるということ。そのうえ別途のレッスン料や数学の家庭教師費用などがかかる」と語った。小学校6年生から中学校3年生までに「1億ウォンぐらいは使ったと思う」とも話した。
費用に負担を感じて、また未来を選び取るために、国外に目を向ける人々もいる。米国のフロリダなどへ、いわゆる「野球英語留学」に送り出しているのだ。高校野球選手の保護者でもある野球関係者は、「野球が駄目でも通訳やエージェント、フロントなどへの道を切り開くために、日本や米国に子どもを送り出すと言われている。それ関連の留学院も誕生している」と話した。
プロコーチよりもレッスンコーチ
野球アカデミーブームが起きたことで、プロ出身者たちも初任給の年収が5000万ウォン(約482万円)のプロコーチではなく、私設アカデミー開設の方に目を向けつつある。1カ月の収入が1000万ウォン(約96万3000円)を超えるうえ、個人の時間を持つこともでき、ユーチューブの制作や放送への出演も可能なためだ。現在、自分の名にちなんだアカデミーの開設を考えている放送解説者も複数いるという。しかし、誰もがアカデミーを開設を目指すようになったことで、ソウルの江南(カンナム)だけでも数十のアカデミーが乱立し、すでに供給が需要を超過した飽和状態にある。このような雰囲気の中で、実績をあげるために不適切な方法が用いられてもいる。韓国プロ野球チームのハンファ・イーグルス出身のイ・ヨサンがその例だ。イ・ヨサンは2019年、自らが運営していた野球教室に通っていた幼少年選手たちに対し、競技力向上のためにアナボリックステロイドを自ら注射・販売し、薬事法違反で逮捕された。違法行為で永久追放されたプロ選手が名を変えてアカデミーを開設したケースもある。
金もうけの手段となった学生野球
アカデミーが活性化したことで、問題点も徐々に明らかになっている。学校とアカデミーの間にコネクションができたため、監督やコーチが露骨に「○○○レッスン場で学んで来い」という学校もある。
現場とアカデミーの指導者のコーチング方法が異なるケースでも問題が発生する。あるアマチュア野球の監督は「選手たちが混乱する部分がある。レッスン場では一人ひとりに合わせて指導してくれるため、やり方が違うことがある」と語った。別の野球関係者は、「学校にはトラックマンやラプソードのような先端機器はないが、アカデミーにはある。保護者や生徒の情報力は相当なもので、コーチングが古く感じられる部分はあるだろう」と述べた。アカデミーでは、野手は打撃練習、投手は投球練習などのみを教えるので、守備や走塁などの基本技が徐々に落ちてきているという指摘もある。プロ入団や大学入学のためのトレーニングばかりであるため、基本技がそれだけ低下しているというのだ。
ある解説者は「信念を持って子どもたちを教えるレッスンコーチもいるが、子どもたちをただの『金儲けの手段』と考える人もいる」と批判した後に「今は、野球は金がないとさせられないスポーツになってしまった」と嘆いた。学生の大会に向けた練習参加許容日数が徐々に削減されるにつれ、修学中の選手と保護者はますます学校の外で代案を探すようになっている。野球の私教育ブームは簡単には終息しない見通しだ。