新型コロナウイルスのような人獣共通感染症が再び世界的大流行を引き起こさないようにするためには、野生動物がどのようなウイルスの“貯水池”の役割を果たしているのかを知らなければならない。様々な野生動物の血を吸うヤマビルが、野生にどのようなウイルスが広がっているのかを把握するための有力な手段となるという研究結果が発表された。
ドイツのライプニッツ動物園野生動物研究所のニコロ・アルファーノ博士らの国際研究チームは、科学ジャーナル「Methods in Ecology and Evolution(生態学と進化の方法)」最新号に掲載された論文で「東南アジアのヤマビルの腹の中に入っている血液を利用することによって、野生動物を直に捕獲しなくても野生に広がっているウイルスを検出することに成功した」と発表した。
研究者たちは特に「サンバーと推定される野生動物に感染していた、学界に初めて報告される新型のコロナウイルスを検出した」と明らかにした。コロナウイルスは、世界的大流行を起こしたSARSと、今回のコロナ禍を引き起こしたCOVID-19を含むウイルスで、どれも野生動物に由来している。
これまでもヤマビルが吸った血液は、その地域にどのような動物が生息しているかを把握する有力な手段として使われてきた。研究者たちはここから一歩進んで、ヤマビルの腹の中の少量の低品質の血液から、DNAを高速かつ大量に分析する次世代の塩基配列分析法によって、感染したウイルスを検出したのだ。
アルファーノ博士は「ヤマビルは、ウイルスによる感染症の頻発する東南アジア地域でよく見られる」とし「マレーシアのボルネオで2種のヤマビルから5つの科のウイルスが検出されたが、サンプルの半数以上が哺乳類由来のウイルスを持っていた」と述べた。同氏は特に「科学界には知られずに野生動物の間に広がっていた新型のコロナウイルスをこの方法で検出することで、潜在的な感染症の早期予防に貢献できると期待する」と付け加えた。
国連の生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)は昨年発表した報告書で「コウモリ、ネズミ、霊長類などの哺乳類と水鳥などの鳥類が、人獣共通感染症ウイルスの貯水池の役割を果たしている」とし「まだ発見されていないウイルス170万種のうち54万~85万種が人に感染する可能性がある」と警告した。ヒトで新たに出現する感染症の6~7割が、家畜や野生動物に由来する人獣共通感染症として知られている。
条件が厳しくコストのかかる野生動物の捕獲の代わりに、吸血する無脊椎動物を利用する「無脊椎動物起源DNA(iDNA)」と、水中の「環境DNA(eDNA)」を抽出する方法が最近注目されている。
研究者たちは、アフリカの乾燥地域で野生動物が集まる水たまりの水を分析し、シマウマと野生のロバに由来するウイルスを検出したが、水中でも感染力を維持しており、水たまりが疾病の感染源になり得ることを示した。
ヤマビルは主に熱帯地域や台湾、日本などに棲息するが、韓国にも全羅南道新安郡(シナングン)の可居島(カゴド)に棲息する。梅雨に出現して9月中旬まで活動し、その後は休眠に入る。ソウル大学獣医学部のチェ・ジュンソク教授のチームの調査によって、ヤマビルは人間、ネズミ、イタチ、シロハラ、シマゴマなどの様々な動物の血を吸うことが明らかになっている。
引用論文: Methods in Ecology and Evolution, DOI: 10.1111/2041-210X.13661