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「武漢での新型コロナウイルス製造説」の背後にトランプ元側近のバノン氏

登録:2020-09-18 09:48 修正:2020-09-19 14:39
香港出身の閻麗夢研究員の論文に 
バノン氏が議長を務める財団の名前が掲載 
科学界「論文、信頼できない」 
ツイッター閉鎖、フェイスブックには「虚偽ニュース」
スティーブン・バノン元ホワイトハウス戦略補佐官と郭文貴氏=郭文貴氏のツイッターより//ハンギョレ新聞社

 米国のドナルド・トランプ政権でホワイトハウス首席戦略官を務めたスティーブン・バノン氏が、「中国武漢での新型コロナウイルス製造説」の研究に関与していたことが明らかになった。バノン氏の支援を受けて「武漢製造説」を主張した香港出身の研究員のSNSアカウントはいずれも、閉鎖されたり「虚偽ニュース」という警告を受けている。

 新型コロナウイルスが中国・武漢の研究室で製造されたと主張してきた香港大学の博士後研究員の閻麗夢(Yan Limeng)氏は14日、その証拠を明らかにするとして、公開アクセスジャーナル『Zenodo』に論文を発表した。論文の表紙には、バノン氏が関与する「法治財団」の名前が載っている。

 法治財団(Rule of Law Foundatino)は、中国から米国に逃走した大富豪の郭文貴氏が2018年11月に1億ドルを寄付して設立された財団だ。ニューヨークにある2つの慈善団体からなり、バノン氏はこのうちの一つである「法治社会」の議長を務める。この「法治社会」も、閻麗夢氏の論文の表紙に名を連ねている。

 中国の不動産財閥の郭文貴氏は、2014年に側近が腐敗容疑で逮捕されると中国から逃亡した。彼はニューヨークに定着して以来、中国共産党打倒運動を繰り広げてきた。バノン氏は米国極右陰謀論ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」を設立し、運営した。2016年、米大統領選挙でドナルド・トランプ共和党候補(当時)の選挙陣営で働いた彼は、ホワイトハウスの補佐官に抜擢されたが、2017年8月に辞めた。

 バノン氏はその後、中国共産党を非難する数十件の動画に郭文貴氏と一緒に出演して交友を深めた。バノン氏は先月、基金の募金で寄付者らに詐欺をはたらいた容疑で逮捕され、500万ドルの保釈金を払って釈放された。逮捕当時、バノン氏はコネチカット州の海岸にある郭文貴氏の豪華ヨットに乗っていた。

 香港に居住していた閻麗夢氏は4月に米国に渡り、7月頃から新型コロナウイルスの武漢製造説を積極的に主張してきた。閻麗夢氏は7月28日にバノン氏のユーチューブチャンネルに出演し、「新型コロナウイルスは中国人民解放軍が生物兵器を作る過程で発生した」と主張した。今月に入り英国のITVや米国のFOXニュースなどに出演し、同様の主張を繰り返し、今月14日に関連論文を発表した。同論文には、閻麗夢氏のほかに4人の研究者の名前が挙がっているが、彼らの資格は明示されていない。バノン氏が関与する「法治社会」や「法治財団」がこの研究でどのような役割をしたかなども明らかにはなっていない。

「新型コロナウイルス武漢製造説」を主張する閻麗夢教授のツイッターの過去のアカウント(左)と、停止状態の現在のアカウント(右)=ツイッターより//ハンギョレ新聞社

 閻麗夢氏のツイッターアカウント(@limengyan119)は17日現在、停止している状態だ。今月に作られたこのアカウントは、閻教授の顔写真とともに「科学について話そう」というタイトルがあったが、現在は何もない状態だ。ツイッターはこのアカウントが「ツイッターの運営原則を違反した」とだけ告知した。ツイッターは今年5月から「虚偽ニュース」と判明した情報が含まれたツイートにラベルを付け、虚偽ニュースであることを明らかにしてきたが、アカウント自体を停止させるのはめったにないことだ。

 フェイスブックも、閻麗夢氏の主張を虚偽ニュースと分類している。FOXニュースを代表する時事番組「タッカー・カールソン・トゥナイト」が15日、番組のフェイスブックアカウントに「武漢製造説」について話した閻麗夢氏とのインタビュー映像をアップした。フェイスブックはこの映像に「独立機関で虚偽と判断された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)情報が繰り返される」というラベルを付けた。

 フェイスブックは、これと関連した検証記事3件も連動させた。アネンバーグ公共政策センターが運営する「ファクトチェック」ホームページと、米メディア「USAトゥデイ」のCOVID-19関連記事だ。これらの記事は、「新型コロナウイルス武漢製造説」や「エイズウイルス操作説」などが事実でないことを検証する内容が書かれている。

 閻麗夢氏が『Zenodo』に寄稿した論文は、「新型コロナウイルスが自然進化よりはレベルの高い研究所で操作されたことを示唆するゲノムの非一般的な特性と、可能な操作方法についての詳細な記述」だ。新型コロナウイルスが2003年のSARSウイルスに似ており、中国軍研究所が発見したコウモリウイルスと類似しているという主張などが書かれている。

 英国のバース大学のアンドリュー・プレストン教授は「現在の形ではこの論文にいかなる信頼も与えることはできない」と述べた。新型コロナウイルスが自然に発生したことを検証する論文を『ネイチャー』に発表したクリスチャン・アンダーソン氏は、閻麗夢氏の主張は事実関係から間違っていると一蹴した。アンダーソン氏は新型コロナウイルスはコウモリコロナウイルスとは異なり、この2つのウィルスは3500個以上の核酸構成成分が異なると指摘した。

 閻麗夢氏は今年7月、COVID-19が人の間で伝播することを発生初期に発見したが、香港大学が自分を沈黙させたと主張した。これに対し香港大学は「閻麗夢は昨年末、コロナウイルスに関するいかなる研究も行ったことがない」と反論している。

チェ・ヒョンジュン記者、チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/962590.html韓国語原文入力:2020-09-1802:47
訳C.M

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