東京五輪をめぐる対立が深まっている。国際オリンピック委員会(IOC)と日本政府は五輪強行を主張しているが、日本国民の間では五輪開催反対の世論が80%を超えるなど、反対の声が高い。最近、米国が日本を渡航禁止国家に指定したことで、混乱はさらに大きくなっている。
最も大きな問題は、日本国内の新型コロナウイルス拡散の勢いがまったく収まっていないという点だ。最近、日本では一日平均4000人を超える感染者が発生している。これは昨年コロナを理由に東京五輪の延期を決めた時よりも約40倍多い。東京五輪の延期が決まった昨年3月末、日本の感染者は1日100人ぐらいだった。
それでも五輪を強行するのは、経済的・政治的理由のためだ。IOCと日本政府は五輪が中止となった場合、中継権違約金などによって莫大な経済的損害を被ることになる。バッハ委員長は最近「ぼったくり男爵」などと呼ばれているが、これはIOCの経済的利益のために開催国に犠牲を強いているという意味だ。
日本政府は五輪が中止となった場合、政治的責任も負わなければならない。そもそも安倍晋三前首相は、放射能問題などがあるにもかかわらず、政治的目的で東京五輪の招致を強行した。2011年の東日本大震災後、2013年に五輪誘致に成功した日本政府は、公然と今回の五輪を「復興五輪」にするという意思を表明してきた。
はたして東京五輪は開かれるだろうか。答えはまだ分からない。しかし、開催するかどうかは別として、東京五輪は五輪の実体を赤裸々にあらわにした。五輪はもはや平和や親善を図る場ではなく、グローバル企業や政治勢力の利益のためのメガイベントへと転落した。誰もが知ってはいたが、選手たちの血と汗と努力に隠されていた真実が、感染症の世界的流行という特殊な状況でその実体を明らかにした。
これから五輪はどのような道を歩むことになるだろうか。経済的・政治的目的がますます露骨になる可能性が高い。すでに米下院では2022年に中国・北京で開かれる冬季五輪のボイコットの声が出ている。このような主張の本質は、米中の覇権争いだ。米国は中国の人権問題を理由に挙げているが、軍部政権が市民を虐殺するミャンマーやパレスチナを爆撃するイスラエルの五輪参加には沈黙していることからして、みすぼらしい言い訳にすぎない。
哲学者のスラヴォイ・ジジェクは昨年、ハンギョレとのインタビューで「パンデミックはすでに私たちの社会に存在した対立を引き出す起爆剤の役割を果たした。これらの難題の結合は極めて危険だが、途方もない解放の潜在力を抱えてもいる。せめて世の中をありのままに保存する機会でも得ようとするならば、私たちは世の中を根本的に変えなければならない」と述べた。同じ論理を五輪にも適用しなければならないのではないか。今はこれまでのどの時よりも五輪精神の復元が必要であり、その第一歩はまず人間の命を最優先の価値とし、開催するかどうかを真剣に考えることだ。