きれいな翡翠色の韓服を着たイ・ヨンスさん(93)の目から涙があふれだした。80年の恨(ハン)を少しでも晴らす瞬間を期待して車椅子でやってきたイさんが流したのは、わだかまりが解けた涙ではなかった。自国の法廷でも最後まで認めてもらえないという絶望と当惑の涙だった。
ソウル中央地裁民事15部(ミン・ソンチョル裁判長)は21日、イさんや故クァク・イェナムさんなど元「慰安婦」被害者と遺族20人が日本政府を相手取って起こした損害賠償訴訟を却下した。却下は訴訟要件を満たしていないという理由で本案判断をせずに裁判を終わらせる決定だ。ほかの被害者12人が起こした「1件目の訴訟」で、今年1月に日本政府の賠償責任を認めた一審判決とは食い違った結論だ。
判決を聞いていたイさんは、敗訴の趣旨の内容に、裁判長の言葉を聞き終えず車椅子を回して法廷を出た。しばらく言葉を詰まらせたイさんは、涙をふいた後「あきれる。国際司法裁判所に必ず行く。これしか言う言葉がない」と短く言ってその場を離れた。
少女たちに犯した戦争犯罪の責任を問うために数十年間戦ってきた被害者たちは、「国家免除」という4文字の法論理にあっさりと阻まれた。同地裁は「韓国が国内外で傾けた努力とこれによる成果が、被害者の苦痛と被害の回復としては不十分だったとみられ、2015年12月の韓日合意も、彼らが過去に負った苦痛に比べれば十分満足な内容だとは考えがたい」と指摘した。しかし「現時点で有効な国家免除に関する国際慣習法とこれに関する最高裁判所の判例によると、日本政府を相手取って主権的行為に対して損害賠償を請求することは許容されない」とし、「韓国の裁判所が日本政府に対する裁判権を持つかどうかについて、韓国の憲法と法律またはこれと同じ効力を持つ国際慣習法によって判断するしかない」と明らかにした。さらに、国家免除を例外とできるかどうかは「韓国の外交政策と国益に潜在的影響を及ぼし得る事案なので、行政府と立法府の政策決定が先行されなければならない事項」だとし「裁判所が非常に抽象的な基準だけを提示して例外を認めることは適切ではない」と明らかにした。
裁判部は2015年の朴槿恵(パク・クネ)政権時代の韓日慰安婦合意を日本政府レベルの権利救済とみなすことができるという判断も明らかにした。この合意には、被害者に対する日本政府レベルの謝罪と反省の意味が込められており、日本政府が資金を拠出して財団を設立し被害回復事業をするとしたため、「代替的権利救済」手段を設けたものとみなすべきだという趣旨だ。また、「慰安婦被害者問題の解決は韓国がたびたび明らかにしたとおり、日本政府との外交的交渉を含む韓国の対内外的な努力によって行われなければならない」と明らかにした。
今回の判決は、1月に故ペ・チュンヒさんら12人が日本政府を相手取って起こした損賠訴訟の一審判決とは正反対だ。当時、ソウル中央地裁民事34部(キム・ジョンゴン裁判長)は「原告各自に1億ウォンを支払う」よう原告勝訴判決を言い渡した。当時、裁判所は「国際共同体の普遍的価値を破壊する反人権的行為まで裁判権が免除されると解釈するのは不合理だ」とし、国家免除を認めなかった。
2016年に訴訟を起こしてから5年が経ち、原告として立ち上がった被害者10人のうち生存者はイさんを含め4人だけだ。被害者女性らを代理するイ・サンヒ弁護士は「裁判所は判決の間、被害者が損害賠償を請求することになった最大の理由である『人間としての被害回復』については一言も言及せず、国益を懸念した」とし、裁判所を批判した。正義記憶連帯のイ・ナヨン理事長は「自国民が重大な人権侵害を受けたにもかかわらず、加害者が外国だから責任を問えないのか。被害者たちの切実な訴えに背を向け、『人権の最後の砦』としての責務をないがしろにした今日の判決を、歴史は恥ずべき出来事として記録するだろう」と述べた。アムネスティ・インターナショナルのアーノルド・ファン東アジア調査官も「日本軍性奴隷制の生存者たちだけでなく、第二次世界大戦中に彼女らのように残酷な行為に苦しんだ末、すでにこの世を去った被害者たちにも、正義が具現されないという大きな失望を与えた」と批判した。原告たちは判決を不服として控訴することを決めた。
日本の外務省幹部は判決に対し「妥当で当然の結果」という反応を示したとNHKが報じた。