本文に移動

「水で薄めた福島原発汚染水」、日本が放出するがままに受け入れなければならないのか

登録:2020-12-01 07:51 修正:2020-12-01 09:09
福島原発事故の汚染水の放流推進に関する議論 
 
日本、「汚染水」ではなく「処理水」だと主張するが 
水産物を経た被ばくが懸念されるトリチウムはそのままで 
水を混ぜ基準値だけを合わせ放流する意図を明らかに 
放射線防護「ALARAの原則」は知らぬふりをして 
影響を及ぼす国内外の世論を無視し強行する姿勢
日本の福島第一原発に設置されている汚染水貯蔵タンク。日本はトリチウムなどの放射性物質が大量に含まれているこの汚染水の海洋放流を推進している/聯合ニュース

 日本の福島原発事故により発生した汚染水の海洋放流の決定が差し迫ったことが知られ、汚染水に含まれる放射性物質が韓国国内に及ぼす影響に対する懸念が高まっている。

 福島第一原発では、8月基準で約123万トンに達する放射性物質による汚染水が、1041個のタンクに保存されている。溶融して熱を出し続ける核燃料を冷やすために注入した冷却水や、原発の敷地に流れこんだ雨水や地下水などを処理して貯蔵してあるものだ。汚染水は2016年までは1日平均400トン以上、2017年以後は170~220トンずつ増えている。日本は、2022年10月頃には用意されたタンクがすべていっぱいになると予想されるこの悩みの種を、海に捨てて解決しようとしている。

汚染水放流の韓国国内への影響の分析結果もない

 福島原発事故の汚染水放流の影響を問うのは、日本のみならず韓国国内の漁民にまで関わる敏感なテーマだからだ。過度な不安感につながる場合、韓国国内の水産物の消費にも打撃を与えうる。客観的かつ正確な情報を基にした分析が行われなければならない。しかし、韓国国内のどこからも、いまだに汚染水の海洋放流を対象にした分析結果は出せずにいる。日本が分析の基礎となる資料を公開していないからだ。

 韓国原子力研究院のソ・ギョンソク環境安全評価研究部長は、「福島原発の事故の際に放出された放射性物質がどのように拡散するのかを分析した結果はあるが、最近問題になった汚染水の放流は関連情報がなく、直接シミュレーションすることができずにいる」と述べた。海流と気象に左右される海の汚染物質の拡散シミュレーションの結果は、放流量と放流時期、期間などをどう設定するのかによって大きく変わる。

 したがって、今は福島原発事故当時に放出された放射性物質を対象にした既存の結果を参考にし、見当をつけるしかない。2013年に原子力研究院が福島事故の際に海洋に放出された放射性セシウム137を対象にシミュレーションを行った結果によると、この物質が太平洋を渡り米国を一回りして韓国の海域に入ってくるには、約4~5年かかると評価された。ソ部長は、「そのようにして入ってくる量は、1立方メートル当たり0.1~0.2ベクレルの水準に過ぎず、検出するのは難しいだろうというのが当時の評価の結果だった」と述べた。

 最近では、汚染水の中の放射性物質が、早ければ1カ月、遅くとも1年以内に韓国の海域に到達することがありうるという一部のメディアの報道が目を引いた。しかしこの予測は、8年前のドイツのヘルムホルツ海洋研究センター(GEOMAR)が、福島の事故の際に放出されたセシウム137の拡散をシミュレーションした結果を極端に解釈して出てきたものなので、限界があるというのが専門家の指摘だ。韓国海洋科学技術院は、このシミュレーションの結果を分析して9月に国会に提出した資料で、「福島からわずか220日で済州(チェジュ)島、400日後に西海(黄海)にまで到達することが示されたセシウム137の濃度値は、1立方メートル当たり10のマイナス8乗ベクレルの水準(1立方メートルあたり0.0000001ベクレル未満)なので、通常の分析可能な範囲を超える」と明らかにした。

 海洋科学技術院のチョン・ギョンテ諮問委員は、「1立方メートル当たり10のマイナス8乗ベクレルまでの測定は不可能なだけでなく、測定をしてもその値が背景濃度の変動幅に比べあまりにも小さく、背景濃度と区別して出すことはできない」と述べた。東海のセシウムの背景濃度は、1立方メートル当たり1.5~2.5ベクレルの範囲にある。1カ月内に済州や西海にまで到達することがありうるという予測は、ヘルムホルツのシミュレーション結果に小数点以下20桁まで下がる濃度を適用する場合に出てくる結果だ。

環境運動連合海洋委員会の会員らが11月26日午前、ソウル鍾路区の世宗文化会館前で「海洋生態系を破壊する福島放射能汚染水の放流計画糾弾」記者会見を開き、日本政府に汚染水放流計画の放棄を求めている=キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

放出基準に合わせてもトリチウム860兆ベクレルが海に流入

 このような研究結果は、放流される汚染水の中の放射性物質が、濃度がどうであろうと、結局は朝鮮半島の海域に流入し影響を与えるだろうという懸念を裏付ける。これについて日本は、放流しようとするものは汚染水ではなく浄化作業を経た「処理水」だとし、安全性を強調してきた。しかし、タンクに保存されたこの水には、今なおトリチウム(三重水素)やストロンチウム90、ヨード12などの放射性物質が、基準値以上含まれている。日本は浄化処理をもう一度行うというが、そのようにしても、現在の多核種除去設備(ALPS)の技術ではトリチウムを除去できないということが問題だ。グリーンピースなどの環境団体が、貯蔵タンクを増設して汚染水を長期保存しながら代案を模索するよう主張するのもそのためだ。

汚染水貯蔵タンク内の核種別放射能濃度の現状//ハンギョレ新聞社

 水素の放射性同位元素であるトリチウムは、汚染された水産物を経て人体に入ってきて有機結合型トリチウムに転換されると、内部被ばくを起こすことが知られている。日本が放流しようとする汚染水のトリチウムの放射能含有量は、1リットル当り平均58万ベクレルで、放出基準値(1リットル当り6万ベクレル)より10倍ほど高い水準だ。放射能総量は約860兆ベクレルに達すると推定される。

 日本は汚染水を放流する際に水を混ぜてトリチウムの濃度を下げ、放出基準値に合わせるという計画だ。これは、860兆ベクレルのトリチウムをそのまま海に放流することを意味する。これに関して在韓日本大使館の当局者は11月20日、韓国外交部の出入り記者に「すべての国家が原発の過程で出る水の海洋放出を自然に行っている」とし、韓国の月城(ウォルソン)原発の事例にまで言及したことが伝えられた。実際、韓国国内の原発からも、年間205兆ベクレルのトリチウムが放出されてはいる。しかし、正常な原発運営による放出と事故汚染水を通じた放出を同じに扱ってはならないというのが、韓国政府と市民社会の見解だ。

日本の福島原子力発電所の2011年3月事故直後の姿/聯合ニュース

日本の一方的な推進に国連の人権機関も懸念

 放射線から人間を保護するためには、放出基準の前に、適用されなければならない国際放射性防護委員会(ICRP)のALARA(As Low As Reasonably Achievable)の原則がある。放射線は基本的に有害なので、被ばく線量を合理的に達成可能な限りに低く維持しなければならないという要求だ。異例の大規模な放射性物質の放出の被害を懸念する側で、放出の決定がこの原則による最善の決定なのか確認し同意するということは当然だ。しかし日本は、韓国はもちろん自国の漁民の同意も得ないまま海洋放流を決める姿勢だ。原子力安全委員会の関係者は、「日本は地層注入や継続保管などの様々な対案を一つひとつ評価した結果を出して説明しなければならないのに、そのような過程なしに海洋放出を事実上決めておき、安全だとばかり主張し、自ら信頼性を落としている」と指摘した。

 そのような日本の態度に、国連でも懸念を示している。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の特別報告官らは6月、日本政府に「日本国内外の市民に影響を及ぼす恐れがある汚染水処分に関連した議論の場と機会を用意し、情報を基に自由に事前同意できる住民の権利を尊重せよ」と要請した。彼らはまた、「適切な国際協議を進めることができる時まで、高濃度の放射性汚染水の海洋放流処分に対する決定を保留すること」も求めた。

 韓国政府との協議を拒否してきた日本は最近、韓国が希望する場合、放出が環境に及ぼす影響を追跡するモニタリングには参加させるという意向を表明した。これについてグリーンピースのチャン・マリ気候エネルギー・キャンペーナーは、「日本政府は数年間、汚染水の危険性を縮小し、ALPSの処理の成果を歪曲してきたため、韓国政府の公式な環境影響評価の要求が必要だ」とし、「韓国政府が放流を前提とする放流後のモニタリングに参加するのは、汚染水の海洋放流について同意する行為となるだろう」と述べた。

キム・ジョンス先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/environment/972071.html韓国語原文入力:2020-11-30 10:58
訳M.S

関連記事