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[ルポ]最期のお別れまでさえぎる「コロナ時代」の寂しい死

登録:2020-08-31 06:34 修正:2020-09-02 16:55
死亡者76%が病院などの医療機関で死亡するのに 
「臨終室もなく、ついたて越しに最期のあいさつも」 
高齢者の致死率高い新型コロナ患者は面会も制限され 
「一定規模以上は臨終室の設置を義務化」する法案も発議 
京畿道華城市は今月19日、新型コロナウイルス感染症の感染者が訪れたある療養病院8階をコホート隔離すると発表した/聯合ニュース

 「母の最期を看取ることもできなかったのに、母の遺体を療養病院1階のロビーについたてを立てて安置しておいたのを見て、驚愕しました」

 光州(クァンジュ)広域市に住むSさん(58)は、母親の死を思い浮かべる度、胸が詰まる。Sさんの母親、Cさんは先月24日、84歳で光州市北区(ブクク)のある療養病院で亡くなった。数年間、認知症(2等級)で苦しんだ母親が、昨年12月に療養病院に入院してから7カ月後のことだった。Sさんは母親が亡くなる直前の病院側の対応を考えると、怒りがこみ上げると話した。

 同療養病院側は先月23日夜11時ごろに家族に電話をかけ、「状態が悪化しており、未明にも連絡するかもしれないから待機するように」と指示した。一睡もせず夜を明かしたSさん家族は、翌日午前10時25分に「防護服を購入してでも最後に母に会いたい」と懇願した。療養病院側は「危篤状態になったら臨終室に移して一人ずつ会えるようにする」と約束した。

 しかし、Sさん家族は結局、最期を看取ることができなかった。Sさんは24日午後12時2分ごろ、「すぐに病院に来てほしい」という連絡を受けてから12分後、老母の死亡を電話で知らされた。長女のSさんだけが防護服を着て、6階の集中治療室ですでに亡くなった母親と涙で再会した。Sさんは「母の遺体はすぐに1階に移され、トイレ近くの仕切りで囲まれた空間に物のように置かれていた」とし、「コロナ禍とはいえ、故人の遺体に対する尊重は全く見られなかった」と語った。

今月24日午前、ソウル城北区保健所に設けられた新型コロナウイルス感染症選別診療所で、医療陣がある市民に検体採取に関する案内をしている/聯合ニュース

 同療養病院側は「2人室の患者の病室1室を空けて家族が最期の面会ができるように自主的に臨終室にしているが、Cさんの場合は病状が急激に悪化し、すぐに連絡したが家族が到着する前に亡くなった」とし、「(他の療養病院では)霊柩車が到着すると、故人の遺体をすぐに葬儀場に移すが、当院では1階で家族が最後に故人と対面できる時間を与えている」と話した。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、愛する人との最期のお別れすらまともにできない寂しい風景が日常になっている。特に、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離措置)がレベル2に引き上げられてからは、病院や療養病院に入院した高齢者を持つ家族は面会さえ難しくなり、療養機関などにいる高齢者は独りで最期を迎えるしかない。特に、COVID-19感染者は危篤の場合も家族の面会が困難で、死亡すると直ちに火葬される。COVID-19による死亡者約300人のうち、70代以上の高齢者が80%を占める。

イ・ヨンソプ光州市長が2月、光州消防学校生活治療センターを訪れ、新型コロナウイルス感染症による隔離から解除された高齢者を労っている=光州市提供//ハンギョレ新聞社

 このため、コロナ時代に最小限の尊厳を守りながら死を迎えられるよう、代案を講じなければならないという声もあがっている。未来統合党のチュ・ホヨン議員は、一定規模以上の総合病院および療養病院に臨終室の設置を義務付ける内容の「医療法一部改正法律案」を今年6月に発議した。2018年に発議し自動廃棄されたものの、コロナ禍で臨終室設置への関心が高まったことを受け再び発議した。

 チュ・ホヨン議員室が提出した資料によると、2017年基準で国内の死亡者のうち76.2%が病院・医院など医療機関で死亡している。ところが、上級総合病院42カ所のうち17カ所(40%)にしか臨終室が設置されていない。全国の療養病院(1587カ所)と総合病院(320カ所)に臨終室が設置されているかどうかに関しては、統計すら存在しない。チュ議員側は「家族とともに品格のある死を迎える空間が少ないのが残念だ。一定規模以上の医療機関には臨終室の設置を義務付るべきだ」と主張した。

今月19日午後、ソウル中浪区のソウル医療院で新型コロナウイルス感染症の患者が入院のため病院の建物に入ろうとしている/聯合ニュース

 現行の医療法では入院型ホスピス専門機関に限り、臨終室1室以上を設置することを義務付けている。保健福祉部側は「末期がん患者らが訪れるホスピス専門医療機関(87カ所)には別途の臨終室を設けているが、総合病院や療養病院などには臨終室設置に関する法的基準がない」と述べた。臨終室のない医療機関では、患者の臨終が予想されれば、重患者室に移動するか、相部屋で臨終を迎えることになり、他の患者や家族も不便を強いられる。

 療養病院側は、臨終室を設置するか1人部屋を臨終室に変えて使用する場合、健康保険医療報酬として適用してほしいと要求している。大韓療養病院協会のソン・ドクヒョン会長は「韓国も日本や台湾のように臨終室の使用に相応しい診療報酬を支給し、質の高いサービスと施設を備える必要がある」と述べた。大韓病院協会は「病院が臨終室を設置するかどうかを自主的に選択すべきだ」という見解を明らかにした。

 全南大学のシン・ミンホ教授(予防医学)は「COVID-19患者たちが危篤な場合、家族たちが病室の外でも最期のお別れができるようにする方法を探さなければならない」とし、「超高齢化社会にコロナ禍まで重なった時期に、韓国社会が患者の尊厳のある死のために、対策を講じなければならない時だ」と述べた。

チョン・デハ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/area/honam/959916.html韓国語原文入力:2020-08-31 02:02
訳H.J

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