会社員のAさんは、最近になって会社に勤めだした社長の親戚による「パワハラ」に悩まされている。休暇願を出しても、「休暇を取るんだったら永遠に休め」と邪魔したり、いちいち文句を言ってくる。悩んだ末、Aさんは証拠を集め、「職場内いじめ」として届け出ることを決意し、会社を出た。しかし、肝心の調査に乗り出すべき労働監督官は、何度も「会社の調査を受けろ」と言う。「代表取締役と管理者はみな家族なのに、会社で調査を受けろとは。イライラします」。Aさんは結局、雇用労働部の代わりに、市民団体である「パワハラ119」の扉をたたいた。
来月で「職場内いじめ防止法」(改正労働基準法)が施行されて1年になるが、被害を受けた労働者が届け出ても、調査さえまともに行われていないケースが多いことが分かった。パワハラ119は28日、「一部の労働監督官の、露骨に会社の肩を持って誠意のない調査を行うという2次被害に、被害者たちは苦しんでいる」と主張した。労働監督官が直接調査できる職場内いじめの範囲が法に明示されていないためだ。
昨年7月16日に施行された労働基準法第76条3項によると、職場内いじめを調査する義務は原則として使用者側にある。ただし、労働部の内部指針では、使用者側が被害者をきちんと保護しなかったり、被害者が退社するなど、「使用者の適切な調査・措置を期待できない場合」には、労働監督官が直接調査し、事業所に改善を勧告することになっている。立法の趣旨を考えれば、労働監督官にも調査の権限と責任があるわけだ。
しかしパワハラ119の説明によると、一部の労働監督官は「我々には直接調査する権限そのものがない」「できることが何もない」などと責任を転嫁している。使用者側から一方的な解雇通告を受けた労働者のBさんは、「証拠となる音声ファイルを労働監督官に渡したところ、『それを私が聞かなきゃならないのか』と言われた。労働庁を出て涙ばかりが出た」と訴えた。また、別の労働者のCさんは、「上司からのパワハラを職場内いじめとして労働庁に届け出たが、労働監督官は『あれくらいの年寄りにはありうる行動だ。私もそうだ』と言っただけ」と訴えた。このため、今年3月現在の労働部の職場内いじめ陳情事件の処理の現状を見ると、終結した2739件の事件のうち、陳情を取り下げたケースが1312件(47.9%)に上る。
この1年間で現行法の死角地帯が明らかになったことから、政府は労働監督官の直接調査の範囲などを含め、具体的な改善策をまとめるべきだという指摘が出ている。パワハラ119は「労働部の労働監督官が職場内いじめ『防止法』を職場内いじめ『放置法』にしている。労働監督官が直接調査する範囲として、被害者が退職してから届け出たケース、使用者と加害者が特殊関係人(親戚、元請など)であるケースなどを明示すべき」と述べた。