[差別禁止法は共に生きるための法律]
トランスジェンダーの学生、女子大への入学を諦め
副士官の退役に続き、新型コロナまで
韓国社会でのヘイトは激しさを増すばかり
差別禁止法は公共・民間の領域で
差別できないように基準を定めるもの
2007年に初めて発議されて以来、13年間漂流
「大規模教会など宗教界が激しい抗議で
選挙を控えた議員たちに圧力」
嫌悪(ヘイト)と憎悪、差別は他者に対する蔑視、または恐怖から始まる。蔑視と恐怖は嫌悪対象に対する暴力を正当化する。ドイツのジャーナリスト、カロリン・エムケは著書『憎しみに抗って――不純なものへの賛歌』で「(憎悪の対象は)いつも“自分のもの”を抑圧したり脅かす“他者”というカテゴリだ。これら他者は根拠もなく危険な力を持つか劣等な存在と推定され、彼らを虐待したり除去する行為は、単に許されるだけではなく、必ず遂行すべき措置にまで引き上げられる」と述べた。
問題は、暴力の対象が状況によって誰でもなりうるという点にある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が韓国社会を支配している間に、中国人や大邱(テグ)市民、新天地の信者が次々と大小のヘイトの対象となった。新天地信者の場合、一部が防疫に非協力的だったものの、それが集団全体のヘイトに広がる理由はなかった。COVID-19だけではない。今年1月、淑明女子大学に合格したトランスジェンダーの学生が学内の反発によって入学を諦めたり、軍隊で性転換手術を受けた副士官を強制転役(退役)させたこともヘイトに基づいた他者に対する暴力だ。
差別禁止法は、病歴や出身国家、出身地域、人種、肌の色、言語、家族形態および家族状況、性的指向、学歴と学閥、社会的身分、容姿などの身体条件、宗教、思想または政治的意見、犯罪の前歴および保護処分などを理由に差別されてはならないという点を明示する法律である。同法が作られたからといって、韓国社会に深く根付いたヘイトと差別が一瞬にして消えるわけではないだろう。しかし、同法は韓国社会にヘイトに対する一つの基準を作るということにその意味がある。例えば、民間企業である人を差別雇用し、「民間企業が望む人を雇用するのに何の問題なのか」と反論する場合がある。しかし、差別禁止法は民間領域も制御できる。淑明女子大学のホン・ソンス教授(法学)は「差別禁止法は私たちの社会にどのようなものを差別してはならないのか基準を決め、公共部門だけでなく民間部門もその基準を守るべきだというメッセージを作ることで、私たちの社会の差別に対する問題意識を高めるスタート地点になる」と述べた。
国家人権委員会事務総長を務めたチョ・ヨンソン弁護士も「現在、ヘイトに対しては何の基準もなく、ガイドラインもない状態なので、差別禁止法が作られればガイドラインになりうるだろう」と述べた。チョ弁護士は「差別禁止法があったなら、中国人に対する保守政治家の発言や淑明女子大学への入学を諦めた学生を攻撃する書き込みなどは違法だ言えるし、こうした行動を止められる世論が形成された可能性もある。こうした意味で、差別禁止法の制定が遅れるのは残念だ」と指摘した。
差別とヘイトが、目前の問題の解決を困難にしているという指摘もある。茶山人権センターのパク・ジン常任活動家は「中国人や大邱地域の人、新天地信者などを嫌悪すればするほど、彼らはさらに人目を避けるようになり、結局我々の知らない経路で感染が拡大する可能性がある」とし、「差別禁止法をはじめヘイトと差別の問題に対する社会的合意があったら、不透明な恐怖より理性的議論や合理的対話が可能で、より安全な社会を作れたのではないかと思う」と述べた。
しかし、差別禁止法は13年間漂流している。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の2007年に法務部が発議した差別禁止法は2008年に17代国会の会期満了で自動廃棄された。2008年、ノ・フェチャン当時民主労働党議員が代表発議した差別禁止法も、同じ理由で自動廃棄された。18代国会ではクォン・ヨンギル民主労働党議員が、再び差別禁止法を代表発議したが、やはり会期満了と共に廃棄された。19代国会では統合進歩党のキム・ジェヨン議員や民主統合党のキム・ハンギル議員、チェ・ウォンシク議員がそれぞれ差別禁止法を発議した。しかし、キム・ジェヨン議員が発議した法案は会期満了で廃棄され、民主統合党議員らが発議した法案は宗教界の反発に直面し、撤回された。チェ・ウォンシク元議員は「差別禁止法を発議した後、大規模教会から抗議が殺到した。私だけでなく共同発議した議員まで宗教界から激しい反発に遭い、当時地方選挙を控えて撤回するしかなかった」と述べた。