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政府が保険会社に個人の診療・健康情報を「開放」、議論呼ぶ

登録:2018-10-05 08:49 修正:2018-10-05 18:27
科技部、福祉部・健保公団を圧迫  
「公団保有診療の内訳・検診結果  
個人が保険会社に渡せるように」 
 
保健医療ビッグデータ悪用の恐れ  
保険会社の意向によって加入拒否の可能性 
福祉部「科技部の提案受け入れる計画はない」 
市民社会団体、反対運動に乗り出す
グラフィック=チャン・ウニョン//ハンギョレ新聞社

 文在寅(ムン・ジェイン)政府が、バイオ・ヘルス産業の活性化などを名分に個人情報保護法上の「敏感情報」に分類される健康情報まで門戸を開く規制革新に拍車をかけている。保健医療分野の市民社会団体は、個人の健康情報が民間企業に渡る過程で金儲けの手段に変質したり、個人情報流出の危険性が大きくなる恐れがあると強く反発している。

 4日、文在寅大統領が出席した中で開かれた雇用委員会会議では「個人医療データの活用範囲の具体化」が規制革新案の一つに挙げられた。バイオ・ヘルス産業に活用する保健医療ビッグデータを構築しようという趣旨だ。これに向けた制度改善策として、保健福祉部は来年上半期に「健康情報の保護および活用に関する法律」(仮称)を設けることにした。保健医療ビッグデータ関連法が必要だという理由からだ。また、福祉部は民間の通信・保険会社が運営中の健康管理サービスと医療行為間の明確な区分基準も提示することにした。

今月4日午前、文在寅大統領が忠清北道清州市のSKハイニックスで開かれた第8回雇用委員会会議に出席し、冒頭発言をしている=大統領府写真記者団//ハンギョレ新聞社

 これに先立ち、政府は個人の健康情報をすべて保険会社の健康管理サービスアプリケーション(アプリ)など民間へ渡す案を推進したことが確認された。4日、ハンギョレが保健福祉部と科学技術情報通信部(科技部)、国民健康保険公団(健保公団)などを取材した内容を総合すると、科技部は最近、健保公団が保有する診療の内訳(個人疾病情報)や健康検診結果などを加入者個人がスマートフォンを活用して民間保険会社などのアプリに直接ダウンロードできるようにしてほしいと、福祉部と健保公団に強く要求した。今は個人が健保公団ホームページから最近1年間の診療内訳や投薬を受けた薬品名などを閲覧したり、健康検診の結果表などをダウンロードすることのみ可能だった。健保公団が保有する健康診断の資料は12億件に上る。民間保険会社と病院は、個人の健康情報を活用して疾患の管理・予防をするサービス事業を強化している。

 個人の保健医療データが保険会社に渡されれば、どんな状況が発生するのだろうか。例えば、Aさんが糖尿、高血圧、慢性腎疾患が疑われ病院を訪れた。健保公団が保有する診療の内訳には初診時の3つの「疾病コード」が表示される。数カ月後にAさんは糖尿病だけ確認されたが、高血圧や慢性腎臓疾患も記録が残る。民間保険会社は「健康保険データ提供」を保険加入条件に掲げて保険加入を最初から拒否したり、提供されたデータをもとに翌年Aさんを健康高危険群に分類して保険料を割り増しする可能性がある。健康診断の問診に堕胎の経験などの情報が残っていて流出されれば、「社会的烙印」という被害を被る可能性も存在する。健保公団労働組合関係者は「一旦民間保険会社に健康情報が渡れば、公共が統制権を持つことはできない」と話した。

 これに対して科学技術部の関係者は「協力を要請したことはあるが、強圧はしなかった」とし、「データ範囲は議論を始めた段階で、確定ではない」と話した。福祉部の関係者は「科技部の提案を受け入れる計画はない」と明らかにした。

 これは6月に大統領直属の第4次産業革命委員会が発表した「データ産業の活性化戦略」で予告されていたものだ。第4次産業革命委は個人が健康検診結果をスマートフォンのヘルスアプリにダウンロードして、心拍数など各種の健康情報と統合管理できるようにしようと提案した。ところが「規制改革」を掲げて、情報の範囲を健康検診結果から健保公団データ全般に拡大しようと試みたのだ。

▽保健医療ビッグデータとは?
:診療、健康検診、治療、運動、保険給付請求など医療・健康増進活動の過程で生成されるさまざまな価値のある膨大な量の情報

 問題は保健医療ビッグデータをめぐる議論がこれから本格化するという点だ。福祉部は健保公団、健康保険審査評価院、疾病管理本部、国立がんセンターなど4カ所の個人情報を共有するためのプラットフォームの構築を推進中だ。福祉部はこれまで脆弱階層の健康権研究、地域別の健康有害要因のような社会的健康リスク研究など、公益目的でのみビックデータを活用すると強調してきた。市民社会団体が「商業的活用」を懸念すると、関連団体が参加する政策審議委員会を立ち上げ、議論を進めた。

 しかし、市民社会団体は最近の規制緩和の流れの中で、福祉部が推進中の「保健医療ビッグデータプラットフォーム事業」にも赤信号が灯されたと見ている。ピョン・ヘジン「健康と代案」常任研究委員は「市民社会団体は、政府が『保護』より『活用』の方に重心を移していくのではないかと懸念し、新しい健康データ関連法の制定に強く反対している」と話した。保健医療団体連合や参与連帯などは4日、緊急対策会議を開き、汎国民署名運動を展開することを決定した。これに対して福祉部の関係者は「白紙状態から立法案を議論する地点に立っただけ」と話した。

 保健医療ビッグデータの「活用」は、社会的論議と合意が必要な事案だ。これに先立ち、健康保険審査評価院が民間保険会社に個人情報を販売したり、多国的医療統計会社が薬局処方箋47億件を購入した事実が明らかになるなど、悪用される素地が多分にあるからだ。キム・ジェヨン漢陽大学「健康と社会研究所」研究教授は「公共保健医療データが民間に一度流れ始めたら、どこに行ってどのように使われるか分からず、莫大な社会的波紋を起こしかねない」とし、「データ活用目的を『商業的活用』ではなく『公共保健の力量強化』と明確にしなければならない」と指摘した。

ファン・イェラン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/health/864560.html韓国語原文入力:2018-10-05 07:58
訳M.C

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