不法な経営権継承について
「国益のため熱心さのあまり起きたこと」
法務部検事ら、国家経済など強調し全経連水準の発言
民間委員ら「対国民広報戦略」を助言…会議録公開憂慮も
2009年12月。クリスマスを翌日に控えた24日、政府果川(クァチョン)総合庁舎法務部長官会議室に9人が集まり席に着いた。イ・クィナム法務部長官とファン・ヒチョル法務部次官、チェ・キョイル法務部検察局長、チュ・チョルヒョン法務部犯罪予防政策局長、クク・ミンス最高検察庁企画調整部長の法務部役付検事らは“当然職”だった。ここにユ・チャンジョン弁護士、クァク・ペヒ韓国家庭法律相談所長、クォン・ヨンゴン在外同胞財団理事長、オ・ヨングン漢陽大教授など民間委員4人が参加した。法務部赦免審査委員会が開かれた。
この日の赦免審査委員会の会議案件は「イ・ゴンヒ サムスン電子会長の特別赦免および特別復権の適正性可否」の審査であった。 その年8月、イ・ゴンヒ会長は息子のイ・ジェヨン氏に不法に経営権を継承するため会社に損害を及ぼした容疑などで懲役3か月に執行猶予5年を宣告された。 それから4か月後、赦免の可否を審査する会議が開かれた。
赦免法は「法務部長官は大統領に特別赦免、復権などを報告する前に赦免審査委の審査を経なければならない」と規定している。 この日の赦免審査委の会議は「イ・ゴンヒ会長一人特別赦免」手続きの山場だった。 一人だけのための赦免手続きは大韓民国憲政史上類例のないことだった。 会議が開かれて5日後の12月29日、李明博(イ・ミョンバク)大統領は「31日付でイ・ゴンヒ会長を特別赦免および特別復権する」と発表した。
イ・ゴンヒ会長一人のための特別赦免が実施され5年が経った。赦免法は赦免後5年間は赦免審査委の会議録公開を禁じている。 先月末、ついに会議録の“封印”が解けた。 『ハンギョレ』は法務部に対して情報公開請求を行い、当時の会議録を入手した。
会議録を通じて見た赦免審査委は、その存在が怪しげだった。「減刑・復権上申の適正性を審査」(赦免法10条の2)すべきイ・ゴンヒ会長赦免審査委は、事実上イ会長の赦免を国民にどのように説明するかを考える場だったと言える。 10年近い検察の手抜き捜査と形式論理で罰を減じた裁判所を相手に、市民団体と国民がやっとの思いで勝ち取った結果を“無かったこと”にするのに要した時間はわずか50分だった。 イ会長の一人赦免を発議した法務部所属の当然職委員はもちろん、公正性を確保する目的で外部から任命された民間委員4人も同様だった。
■誰のための国益?
2007年サムスングループの秘密資金造成および検事対象ロビー疑惑を暴露したキム・ヨンチョル弁護士が“餅代検事”として名指しした3人(イム・チェジン、イ・クィナム、イ・ジョンベク)のうちの1人であるイ・クィナム法務部長官が話し始めた。会議が始まるとイ長官が「2018年冬季オリンピックの平昌(ピョンチャン)誘致という国家的重大事を控えて、国益を最優先に考慮してイ・ゴンヒIOC委員に対する特別赦免上申の適正性可否を審査してほしい」とムードを高めた。イ会長は当時、有罪が確定してIOC委員資格が停止された状態であり、翌年2月に開かれる予定の総会で除名決定が下される可能性が高かった。
以後、会議はイ会長の赦免可否に対する審査ではなく、イ会長の赦免がどれほど国益に役立つかを強調する場になった。 検事出身のユ・チャンジョン弁護士は「ソウルオリンピック組織委に派遣された経験があって、IOC委員がいなくなることがどれほど国益に損失になるか、よく知っている」として「国連の事務総長になるかどうかが韓国の国益に途方もない影響を及ぼすように、体育界でもIOCというものが国連機構と同様に国益に多くの影響を及ぼす」と強調した。
クク・ミンス最高検察庁企画調整部長は「イ・ゴンヒ個人ではなく、IOC委員を赦免すると考えた方が良さそうだ。 イ・ゴンヒを赦免するのでなく、IOC委員を国益のために赦免すると考えればわかりやすく、従って賛成する」と言った。 クォン・ヨンゴン在外同胞財団理事長は「この間、国家経済と国益のために大きく貢献したことは認められるのではないか。平昌で推進しているオリンピックも非常に重要な問題だ。 検察、法務部、大統領府が非常に悩んだと思われ、再論するまでもない。残念でスッキリしない点もあるが賛成する」と話した。
■庇って、また庇って
罪を犯した人を処罰しなければならない検事たちも、イ会長の赦免に積極的に賛成した。 チェ・キョイル検察局長は「色々な案を考え悩んだ。政治家や経済人、教育界の要人を全て含ませる案、政治・経済人だけにする案、その中で範囲を広げたり狭める案について2~3か月かけて検討し悩んだ。世界外交の関係とかスポーツ分野での韓国の国力が弱まりかねないという次元で一人だけにして案件を上げることになった」と明らかにした。
ファン・ヒチョル法務部次官は「今、私たちは経済的に戦争をしていると考える。経済人が国益のため熱心にした結果、問題になれば処罰して、また処罰をしても完全に戦争できないようにしておいて、国益に反する結果になる、そんなことはあってはならないと考える」と話した。 イ・ゴンヒ会長が息子のイ・ジェヨン氏に不法に経営権を継承する過程で会社に損害を及ぼしたことを「国益のために熱心にした結果起きた問題」と解釈して、法によりイ会長の罪を償わせることを“国益背反”と主張したわけだ。
自分でもイ・ゴンヒを庇っているという感じが否めなかったのか、チュ・チョルヒョン法務部犯罪予防政策局長は「イ・ゴンヒ会長は(判決宣告に)社会奉仕命令もつけられていない。 裁判所で大いに庇ったようで、法務部でまた庇うことになる気はするが賛成する」と話した。
サムスングループの経営権不法継承に対する法的論議は、2000年に法学教授43人がイ・ゴンヒ会長らを告発したことから始まった。 だが、検察と裁判所はあれこれ論理を並べ捜査と処罰を先送りした。 検察は控訴時効の満了を翌日に控えた2003年12月、代理人に過ぎないホ・テハク、パク・ノビンらエバーランド前・現職の社長を不拘束起訴した。 サムスンSDS新株引受権付き社債(BW)安値発行事件を「非上場株式を評価する方法がない」などの理由で6回も不起訴処分した。
■報道資料にそっくり反映された“対国民広報戦略”
イ・ゴンヒ会長一人赦免を“国益のための赦免”と整理した赦免審査委は、以後赦免の名分と“予想質問”に対する模範答案を作ることにも精魂を傾けた。 オ・ヨングン教授が「赦免権限のある大統領が政治的負担を抱いてもやると言うなら、私は政治的に慎重検討意見とする」と言うと、ファン・ヒチョル次官が「多くの討論と慎重検討意見もあったが、ほとんどが赦免可の側に意見を出されたと言えるだろう」と整理した。
クァク・ペヒ韓国家庭法律相談所長が「(4か月ぶりの赦免が)前例に比べてやや早い感じを受けるかもしれない」と言うと、幹事として参加していたクォン・イクファン法務部刑事企画課長は「判決確定直後に赦免した事例も何度かあり、昨年の8・15赦免のケースも判決確定後6か月以内だった方が10人近くいる」と説明した。
するとクァク・ペヒ所長は「イ・ゴンヒという個人に特典を与えるのでなく、適法な特別赦免手続きによって赦免せざるをえないということを浮き彫りにすることが国民の納得を得るのに役立つのではと考える…法務部の立場では、論理的に合法的手続きということを浮き彫りにすれば良いのではないかと考える」と助言した。これにチェ・キョイル検察局長が「私が記者たちにブリーフィングして答えなければならないが、今日多くの委員たちが良い話をして下さった」と正面から受けた。
■民間委員ら、公開されれば集中砲火を受けるだろう
赦免審査委会議録の5年非公開条項は、2011年7月に特別赦免などの行使にあたって透明性と公正性を確保し赦免委員の私生活を保護するために赦免法に含まれた。しかし、イ・ゴンヒ会長赦免審査委の会議録を見れば、この非公開条項が委員に“防壁”の役割をしていることがわかる。 非公開という盾のおかげで赦免審査委員が市民の監視と批判から逃れることができるためだ。
イ・ゴンヒ会長赦免審査委会議に参加した委員たちも、自分たちの名前が公開されることを心配する発言を会議録にそのまま残した。 会議が終る頃、ユ・チャンジョン弁護士が「赦免委員は誰かと度々尋ねられたが、どうなっているのか」と尋ねると、法務部クォン・イクファン課長が「控訴審までは敗訴した。(法務部が)上告して最高裁で審理中」と答えた。
クォン・ヨンゴン理事長が「公開すればどんな問題があるのか」と尋ねると、ファン・ヒチョル次官は「公開されれば途方もなく苦しめられられるだろう。外部委員の名簿が知られれば集中砲火を浴びそうだ」と話した。
その日から5日後の12月29日午前、法務部は予定になかった記者会見を行ってイ会長の特別赦免と復権を発表した。 記者会見に臨んだイ・クィナム法務部長官は、A4用紙二枚の報道資料を2分かけて読み上げた後に記者会見場から抜け出た。 イ長官に同行したチェ・キョイル検察局長が補充説明を行うとして壇上に上がり、早口で赦免の経緯と過去の事例などを読んだ。記者たちの質問も受けずに立ち去ろうとしていたチェ局長は、質問が多く出されると「マイクを切ってやろう」と要求した。
以後、チェ局長は赦免の理由と過去の事例などを尋ねる質問に、赦免審査委で出た話を紹介した。しかし法務部が挙げた事例の大部分は、死刑を無期懲役に減刑するなどイ会長の赦免とは性格が異なるものだった。 チェ局長は「非難世論を考慮しなかったのか」という質問に「ウジが恐くて味噌を漬けられないのかと言うが、国益に極めて重要な懸案」と強調した。