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「俺にかかって来るのか」 師団長の一言に…法務官、‘暴行中佐’立件できず

登録:2014-03-07 00:00 修正:2014-09-05 16:54
[死角地帯 軍の司法体系(4)]
三つ星将軍が被疑者に対し‘陳述するな’圧迫…法務官は対応不能
指揮官が思うままにしている軍司法制度の改善を要求する声が高まっている。 写真は2010年10月7日海軍作戦史法務室法廷で、将兵が裁判官と原告、被告などに扮して行った模擬裁判場面 <ハンギョレ>資料写真

"軍判事になるやいなや最初の週に拘束令状請求が入ってきた。被疑者が転役までいくらも残っておらず逃走憂慮もなかった。 事案も軽微だった。 不拘束にしようとしたが、指揮官を補佐する法務参謀が‘拘束なら起訴猶予にして、不拘束なら起訴する’と言うので拘束にせざるを得なかった。"

 2009年に転役したイ・某弁護士は軍法務官を務めている時、指揮官と法務参謀の裁判関与を常に受けた。 軽い事案だが軍規確立のためにまず拘束した後に起訴猶予処理するという指揮官の意志の前に、軍判事は法的な判断を引っ込めざるをえなかった。 拘束令状を棄却すれば、被疑者が起訴されてより大きな困難を経験しかねなかった。 被疑者は結局、起訴猶予とされた。

 最近<ハンギョレ>記者と会った前・現職の軍法務官13人は一様に‘指揮官との上下関係のために客観的で公正な捜査・裁判がなされ難い’と明らかにした。 師団長級以上の指揮官は、軍司法体系で立件から判決まで事実上無制限の権限を持っている。 捜査報告、拘束有無の決裁、裁判長・裁判官指名、判決確認と刑の減軽などだ。 行政機関が司法機関を統制しているわけだ。

 2012年に転役したキム・某弁護士は、指揮官が許諾しなければ立件すら不可能だったと打ち明けた。 彼は軍検察で仕事をした時、苛酷行為をした陸軍士官学校出身の中佐を立件すらできなかった経験を打ち明けた。 「苛酷行為をした陸軍士官学校出身の中佐を立件すると言ったところ、師団長が憚ること無く立件しないでくれと言いましたよ。 後輩を護ることが本人の体面と考えているようでした。 軍人どうしが互いに庇い合いながら結束力を高めていくのです。 指揮官が寵愛する人を立件するとして書類を出せば、指揮官が‘私にかかって来るのか’と考えるようです。」

 軍の司法体系では所属部隊の指揮官が事実上検察総長の役割を受け持つ。 国防部検察団があるものの、一線部隊の軍検察を直接統制・指揮することはない。 司法の本質は‘独立’した権力という点にあるが、指揮官が管理・監督する軍司法は事実上行政機能に過ぎない。

 身近に接している幹部が関わった事件の正式裁判を妨害する指揮官もいる。 機務部隊の幹部が飲酒運転事故を起こして逃走した事件なのに軍検察は略式命令を請求した。 軍判事を務めて昨年転役したイ・某弁護士は 「事案が重大だとみて職権で正式裁判に回付しようとして、それに反対する指揮官と葛藤を経験した」と打ち明けた。 結局、裁判所が正式裁判を開き罰金700万ウォンを宣告したが、指揮官は400万ウォンに罰金を減らした。 イ弁護士は「指揮官がよく知っている幹部を中心に減軽するので、公平性にも問題が多かった」と話した。

 国防部は昨年10月「国軍サイバー司令部所属の4人が個人的逸脱でインターネットに政治的コメントをしたに過ぎず、上部の指示はなかった」と中間捜査結果を発表した。 軍サイバー司の大統領選挙介入疑惑捜査を行った国防部調査本部ではなく、国防部スポークスマン室が調査結果を発表したのだ。 2011年に転役したキム・某弁護士は、この場面を見て失笑をこらえられなかったと言う。 「捜査結果を国防部スポークスマンが発表するというのは、捜査を受ける軍人が所属した国防部長官が捜査内容をすでにすべて知っているということでしょう。 ‘公正だ’と言い張ることより‘公正だと言える構造’が重要です。」

行政が司法統制
師団長級以上の指揮官が
拘束可否決裁、裁判長指名など
立件から判決まで権限 無制限

見えざる外圧
機務・憲兵関与時は立件さらに困難
法務官ら 権力の顔色を見ざるを得ない

 このように指揮官に過度な権限が与えられているだけでなく、階級が法より先んじる軍隊文化が蔓延しているために軍の司法体系はより一層歪曲されている。 国防部普通検察部長を務めたナム・ソンウォン弁護士は、2004年の将軍進級不正捜査当時‘見えざる外圧’を受けた。 国防部検察団は陸軍将軍進級人事で大規模不正があるという情報提供を受け、建軍以来初めて陸軍本部を押収捜索した。 「将軍進級不正捜査の時、三つ星将軍が捜査中の被疑者に電話して、陳述するなと指示したことがあります。被疑者は話をしようとしていましたが口を閉ざしました。 捜査中という理由で将軍の電話を取り次がないこともできませんでした。」 当時、ナム・ジェジュン陸軍参謀総長が捜査に強力に反発して、盧武鉉大統領に転役志願書を出したが差し戻された。

 特に機務・憲兵など‘力がある’部隊が関わった事件は公正に捜査するのが難しい。機務と憲兵の階級と情報力が軍検察を上回り、指揮官でさえむやみに触れないためだ。 2009年に転役した軍法務官出身のイ・某弁護士は、50万ウォンのわいろを受け取った憲兵を起訴しようとしたが、法務参謀との神経戦を行わなければならなかった。

 "法務参謀が起訴猶予を望んだが、結局私が起訴はしました。 金額ではなく憲兵がわいろを授受をするということは事案が深刻だったためです。 しかし、裁判では宣告猶予で終わりました。"

 人事制度にも問題がある。軍法務官は一定期間で軍検察、軍判事、法務参謀を職務循環する。判検事の登竜門が最初から区分されている一般司法制度とは違う。一般司法体系では判事と検事が緊張関係にあるが、同じ事務室で生活する軍判事と軍検察はそうではない。 昨年苛酷行為の疑いで拘束された兵士チャン・某(23)氏は「令状を請求する検事と令状実質審査を行った判事が拘束当時同じ話をするのを聞いて驚いた。 あたかもひとりで令状を請求して発行するかのようだった」と伝えた。

 参与政府時期に将軍級がかかわった大型事件を捜査した軍法務官は、2008年‘軍法務官罷免事態’を契機に軍の司法改革の意志は失われていった。 国防部がチャン・ハジュン英国ケンブリッジ大教授の本<悪いサマリア人>等 23冊を不穏書籍に指定したことに反発したパク・ジウン(33)軍法務官など6人が憲法訴訟を起こし、罷免などの懲戒を受けた。 当時罷免されたパク・ジウン弁護士は「軍法務官の疎通窓口であるイントラネット‘ジャックネット’に懲戒を受けた私たちに向けた応援文が大きく上がってきた。 だが罷免事態以後、ますます改革の意志が失われていて残念だ」と話した。

 軍司法改革の解決法はある。 軍法務官出身の弁護士たちは、民間判事を裁判に参加させたり師団級以上の部隊に所属した普通軍事裁判所を地域別に広域化する方案を提示した。 裁判所を師団長から独立させ、国防部長官所属に移そうという意見だ。 師団長が捜査報告を受け、拘束令状を決裁するなどの権限を制限することも代案だ。

 軍事裁判所を廃止して一般裁判所と統合しようという意見も多い。 高等軍事裁判所長を務めたチェ・ジェソク弁護士は 「2審を裁く米国連邦軍事控訴裁判所は全て民間判事により行われているし、ヨーロッパでは軍事裁判所がなかったり、あっても民間判事が裁いている。 さらには北韓軍事裁判所でも民間判事が裁く。 我が国のように2審まで軍人が裁く軍事裁判所という形は珍しい」と指摘した。

 国防部は毎年の国政監査で平時軍事裁判所の必要性について議員たちから質問を受ける。 彼らの答弁は終始一貫している。 「今は南北が対立しており、いつでも戦争に突入しかねない状況を考慮すれば、まだ軍事裁判所を廃止するのは時期尚早だ。」(2009年国政監査・キム・テヨン国防部長官) 「韓半島の戦争環境で、平時から軍事裁判を運用しなければ、戦争初期にすぐに軍事裁判に切り替えることができようか、このような問題に直面することになります。」(2012年国政監査・キム・クァンジン国防部長官) 戦争に備えなければならないという口実だが、韓国戦争以後60余年間続いた平時軍事裁判所が公正で正しく運用されたかについては目を閉ざしている。<終わり> パク・ユリ記者 nopimuli@hani.co.kr

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/627066.html 韓国語原文入力:2014/03/06 10:34
訳J.S(3570字)

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