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[死角地帯 軍の司法体系](3)法の上の指揮官、好き勝手に減軽権

登録:2014-03-05 10:00 修正:2014-09-03 14:46
軍用車で死亡事故起こしても…裁判せずに罰金100万ウォンで終了
2010年2月11日、電子法廷開館式が開かれたソウル龍山区(ヨンサング)の国防部高等軍事裁判所大法廷で裁判官が模擬裁判を試演している。 ニューシス

 昨年1月31日、江原道(カンウォンド)鉄原郡(チョルウォングン)葛末邑(カルマルウプ)の往復2車線道路には赤い血が流れていた。 インドネシア出身の労働者S(20)の血だ。 Sはこの日午後1時20分頃、宣伝塔の補修工事をしていて墜落した。Sが乗った起重機に軍用軌道車がぶつかったためだ。 高さ4.5mから落ちた彼は、同年2月11日外傷性脳出血で息をひきとった。 原因は運転不注意であった。 当時、道路の1車線と2車線の間には車両統制用臨時施設が設置されていた。 宣伝塔補修工事現場を避けるために手旗信号を送る労働者もいた。 酷寒期訓練を終えて復帰した陸軍首都機械化歩兵師団の軍用車量20両余りは起重機を避けて行った。 行列の後尾にいたK9自走砲軌道車輌も時速20kmに速度を落としていたが起重機に突っ込んだ。

 軍事裁判所は事故を起こしたH一等兵に交通事故処理特例法違反で罰金600万ウォンを宣告した。 2013年最高裁量刑基準で交通事故で人を死亡させた場合の刑量は、禁固・懲役8月~1年6ヶ月だ。 それでもH一等兵は正式裁判も行われずに略式命令で罰金刑を宣告されたのだ。 所属部隊の指揮官は事故責任が被害者側にあるとし、罰金600万ウォンすら100万ウォンに減じた。 法務法人 青脈のナム・ソンウォン弁護士は「このような事件では被害者と和解して同種の前科がなければ通常は執行猶予が宣告される。 罰金刑でも弱いのに、それを減らすということは被害者の死を軽く判断したということ」と話した。

 事故直後、軍はインドネシア大使館に公文書を送った。 死亡者に対する哀悼の代わりに 「死亡者がヘルメットを着用しておらず被害が拡大した」として責任を転嫁した。 「操縦手の故意性は全くなく、特にH一等兵だけに注意が必要なことでもなかった。 韓半島状況が悪化する中で神聖な国防義務を遂行している間に発生した事件だ。」この事件のように軍事裁判所が設置された師団長級以上の軍指揮官は、量刑基準や法定刑を無視できる‘減軽権’を持っている。 管轄官・軍検察部設置部隊の長・審判官の任命および権限に関する訓令を見れば、懲役刑を罰金刑に変えるなど刑の種類を変えることや完全に無罪にすることのみが許されないだけで、減軽理由と範囲は無制限だ。大統領の赦免権に匹敵するという評価も出ている。 その上、指揮官には判事と裁判長を任命する権限もある。 全国84ヶ所の普通軍事裁判所で、裁判長は軍法務官ではない領官級将校であり、残りの2人の陪席判事は軍判事が務めている。

指揮官の裁量によって軍判事判決の後
刑の種類を変えない限り 減軽を許容
一般人より緩い処罰を受ける場合も
性暴行未遂犯に‘悔いている’とし
懲役2年6月から1年6月に減軽
警察官を殴った前科2犯の中佐にも
‘罰金が高すぎる’として200万ウォン削る

 4日<ハンギョレ>がキム・グァンジン民主党議員を通じて入手した軍事裁判所減軽現況目録を見れば、2011~2013年の3年間に166件の判決が減軽された。 刑が減軽された判決を犯罪別に見れば、飲酒運転と特定犯罪加重処罰法の危険運転致死傷などの交通犯罪が52.4%(87件)で最も多い。 軍刑法違反は6%(10件)に留まった。 指揮官の減軽権は軍刑法の法定刑が一般刑法より重いために法的公平性のために用意されたものだが、実際には軍刑法違反ではなく一般犯罪を庇う温情懲戒手段として使われている。

 刑が減軽された166件の中から無作為で判決記録79件を<ハンギョレ>がソ・ギホ正義党議員を通じて入手・分析した結果、性犯罪、運転者死亡事故などその罪質は軽くなかった。 18才の青少年に性暴行を試みたり、飲酒運転事故後に被害者を救助せずに逃げた軍人も減軽恩恵を受けていた。 判決記録を分析した法務法人 太平洋のイ・ギョンファン弁護士は「被害者過失の有無や犯行の偶発性を誤って判断し減軽した事例が確認される」と話した。

 子供を対象とした性犯罪を厳罰する民間裁判所の雰囲気とはかけ離れた減軽も少なくない。 ヘジン・イェスルさん誘拐殺人事件(2007年), チョ・ドゥスン事件(2008年)等、子供を対象とした性犯罪が相次ぐや、飲酒などに関する減軽理由を制限する‘性暴行犯罪の処罰などに関する特例法’が昨年改正された。 しかし、軍指揮官は子供を対象とする性犯罪にも寛大だった。 B上士は2012年9月14日、隣家に住むムン・某(10)さんの臀部に触り、唇を触れるなど‘性暴行犯罪の処罰および被害者保護などに関する法律’違反容疑で起訴され罰金500万ウォンを宣告されたが、所属部隊長である海兵隊1師団指揮官は「当事者が深く反省している」として、罰金を350万ウォンに減らした。

 性暴行を試みて女性を負傷させた事件にも減軽権が乱発されたし、裁判所の量刑理由もまた非論理的だった。S下士は2011年9月15日、京畿道(キョンギド)議政府市(ウィジョンブシ)佳陵洞(カヌンドン)の路上で酒に酔って座っている女性イム・某(18)氏に性暴行をしようとしたが未遂に終わった。 イム氏はその衝撃で腰骨靭帯を負傷した。 S下士は被害者と和解もせず、被害回復のための努力もしなかったにもかかわらず、海兵隊1師団裁判所はS下士に 「心から悔いていると見られる」として、懲役2年6月に5年間の身上情報公開を宣告した。 指揮官は更に1年6月に減軽した。 偶発的な犯行という理由を挙げたが、判決記録にはS下士が路上に座っている女性を家に連れていくとだまして人跡まれな路地に誘引したことになっている。

 民間人に暴行・セクハラして、出動した警察官まで殴った軍人に対しても、指揮官の減軽権が発動された。 酒に酔ったK中佐は2012年4月29日、代行運転業者コ・某(55)氏を呼び家へ帰ったがコ氏の顔面を殴った。 コ氏が車を停めるとK中佐はハンドルを握ろうとし、二人はもみ合った。K中佐は運転をやめたコ氏の胸と足を更に殴った。K中佐は出動した警察官2人にも悪口を言い足蹴りをした。

 53師団普通軍事裁判所裁判部は、特定犯罪加重処罰法違反(運転者暴行), 公務執行妨害、傷害などの容疑を認め、K中佐に罰金700万ウォンを宣告した。 "悔いる態度が全くなく、改悛の可能性も大きくない。 飲酒運転で起こりうる事故から自身の生命を守った代行運転者に暴行し、傷害罪で告訴までした。 警察官を名誉毀損で告訴すると言い、依然として被害者が嘘をついていると主張している" と量刑理由を明らかにした。 K中佐はすでに飲酒暴行を犯した前科も二度あった。 しかし指揮官は「罰金が高すぎる」という理由を挙げて罰金を500万ウォンに減らした。

 セクハラ申告を受けて出動した警察官をむやみに殴った軍人も減軽恩恵を受けた。 ハン・某兵長は2012年8月7日、通行中の女性の胸に触って出動した警察官の目・顔・肋骨・向こう脛を殴り、強制わいせつと公務執行妨害容疑で略式起訴された。 3師団普通軍事裁判所は罰金300万ウォンを宣告したが、指揮官は 「酒に酔って偶発的に犯した犯行」として100万ウォンに減軽した。

 減軽権は事故責任を被害者に転嫁して、部隊の過失を縮小する手段としても悪用されている。 ‘インドネシア労働者死亡事件’も未熟な操縦手に運転を任せた部隊の責任が大きかったが、軍は後から虚偽記録まで作り事故責任を縮小・隠蔽した。

 被疑者尋問調書を見れば、H一等兵は操縦手の資格証さえ携帯しておらず、資格証の発行手続きと日付についても答えられなかった。 彼は「整備班長が資格証をくれる時に発行日(2013年1月17日)と同じ頃に発給されたと言えと指示された」と打ち明けた。 また 「営外訓練40kmに二度出た」と述べたが、資格証に記録された営外訓練距離は205.1kmであった。 これについて国防部は「自隊で養成した操縦手は規定上、別途資格証を発行しないが、事故以後に保険会社の要求により資格証を発行した。 不注意で訓練記録を営外訓練205.1kmと記録した」と釈明した。

 戦時に備えるとして設置された軍事裁判所は、平時には主に一般犯罪について判決する。 2012年に刑事立件された6946件の内、軍刑法と軍事機密保護法違反は15.1%(1051件)に過ぎなかった。 大多数は一般犯罪(84.9%・5895件)だ。 全国の軍事裁判所85ヶ所の裁判対象は‘軍服を着た市民’ 60万人余だ。 指揮官は法の上に、減軽恩恵を受ける軍人は司法監視の死角地帯に住んでいる。

パク・ユリ記者 nopimuli@hani.co.kr

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/626807.html 韓国語原文入力:2014/03/05 08:25
訳J.S(3808字)

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