15日昼、蔚山(ウルサン)明村洞(ミョンチョンドン)の現代自動車工場構内食堂入口前に6、7人の労働者が露台を広げた。彼らは国内最大、世界5位に入る自動車会社の構内で、靴下3足と保温瓶をそれぞれ1万ウォンで売っていた。自動車部品を組み立てていた労働者たちが雑貨露店を広げた理由は何か。
ほかでもない、訴訟費用をまかなうためである。蔚山地裁は2010年の工場占拠ストで会社に莫大な損害を与えたとして、先月19日、現代車非正規職支部組合員22人に「90億ウォンを賠償せよ」と判決した。労組を相手にした単一損害賠償訴訟では過去最大規模だ。最高裁判決に基き不法派遣を認めて正規職化するよう要求したものだが、これを無視する会社に金まで支払えという判決を支部はとうてい納得できなかった。
直ちに控訴した。しかし、金が必要だった。「民事訴訟などの印紙法」と送達料規則は、損害賠償を命じる判決を不服として控訴や上告をするには印紙代(裁判所に支払う手数料)と送達料(裁判所から事件関係者に各種の書類を送る費用)を納めるよう規定している。 ところが、今回のように訴訟価額が大きな事件の場合にはその費用もすさまじい。支部は控訴提起にあたって、印紙代と送達料だけで4800万ウォン余りを納めた。
現在までに現代車側が労組を相手に提起した損害賠償訴訟16件(230億ウォン)のうち、6件の1審判決で、裁判所は会社側の手を上げた。控訴審の印紙代・送達料だけでも、計7350万ウォンかかった。これまではみんなが少しずつ出し合って作った基金を用いた。
だが、弁護士の選任料など考えも及ばない。控訴審で勝つという保障が無いため、上告審費用も用意しなければならない。費用負担が恐ろしいが、かといって訴訟を放棄し、会社が出せという金額を支払う金もない。とりあえず、靴下でも売らなければ・・・。 労働者たちが“損害賠償訴訟爆弾”に次いで“二重の苦しみ”を経験している背景だ。
チョン・ウィボン支部法規部長は「弁護士費用を出すなんて夢のまた夢だ。訴訟を代理した民主労総法律院にだけでも、現在1億ウォンほどの借金がある。靴下を売ろうなんて、どんなに切羽詰っているか想像してみてほしい」とため息をついた。支部は会社が提起した損害賠償訴訟の1審で全て敗訴した場合、控訴審に必要な印紙代と送達料だけで1億3000万ウォンに達するものと予想している。
労働者は大半が会社が損害賠償訴訟とともに提起した財産・給料の仮差し押さえまでされている状況なので、訴訟費用を準備することはさらに難しい。 他の会社の労組も事情は似ている。 昨年11月、会社や警察に46億ウォン余りを支払えという判決を受けた双龍(サンヨン)車労組も、控訴の過程で2600万ウォンの費用を支払った。イ・チャングン双龍車支部企画室長は「実費程度のみ募金によってなんとかしているが、もはや限界に達したようだ」と述べた。
この20日でホン・ジョンイン支部長が22mの鉄塔座り込みに入って100日目を迎える柳成(ユソン)企業の場合も、昨年裁判所から12億4000万ウォンの損害賠償判決を受けた。控訴審を進行中だが、弁護士費用などたまった訴訟費用だけで1億ウォンに上る。 釜山(プサン)地裁もこの17日、韓進(ハンジン)重工業労組に対し「整理解雇自体に反対するためのストは目的の正当性を認め難い」として会社に59億5900万ウォンを支払うよう判決するなど、ストによる損害を賠償せよという裁判所の判決は続いている。
パク・チョムギュ<非正規職のない世の中を作ろう>執行委員は「組合費がたくさん確保できている大規模な正規職労組と違い、準備された基金がほとんどない非正規職労組にとって、損害賠償請求訴訟は事実上、労組をなくせというのと同じだ。会社側が労組弾圧のために損害賠償訴訟を提起しているのだから、労働界が共同基金を造成して対応する方案も考慮すべきだ」と述べた。
イ・ジョングク記者、平沢・蔚山/ホン・ヨンドク、シン・ドンミョン記者 jglee@hani.co.kr