南北が対抗し合う中、軍の射撃場・飛行場等の周辺地域は国家安保の前に息を殺して生きてきた。 40年間、頭上を砲弾が飛んでも我慢してきた江原道(カンウォンド)楊口郡(ヤンググン)東面(トンミョン)パルラン里の陸軍砲射撃場近隣の住民が、ついに声を上げ始めた。
江原道楊口郡東面パルラン里の陸軍砲射撃場近くで会った村の住民イ・ミョンジュン(59)氏は、小さな音が聞こえてもしきりに空を見上げた。 昨年4月13日以来ついた癖だと言った。 「朝7時25分頃、畑で働いていたら何かが「ヒュウー」といって通り過ぎたと思ったら、「ブスッ」といって10mほど離れた畑に突き刺さりました。 危うく死ぬところだったんです。今でも冷や汗が出ます。」
住民と近所の陸軍21師団関係者、警察などが集まってイ氏の畑を30センチぐらい掘ったところ、直径10センチ、厚さ2センチの丸い鉄の塊が出てきた。イ氏と住民たちは「パルラン里の砲射撃場から砲弾の破片が飛んできた」と言って抗議したが、軍は「射撃教範に砲弾の破片が飛ぶ最長距離(安全距離)は600mだ。射撃場から1キロ以上離れた畑まで飛ぶのは不可能だ」と主張した。しかし、パルラン里では昨年4~8月に同様の鉄の塊が9個も発見されている。
■「40年間に12人が死亡した」
砲弾の破片が次々飛んでくるや、住民側の怒りは爆発した。軍部隊が1974年にパルラン里の裏山62万6000平方メートルを砲弾標的場所に指定した後、被害が相次いだ。村は射撃場の境界からは400m余り、標的地(射撃地点)からは1.5km余り離れている。昨年4月、ナ某(37)氏が村に飛んできた不発弾に触れて爆発事故で死亡するなど、これまでに砲弾関連事故で12人が命を失った。パルラン2里のイ・ジュンギ里長は、「砲射撃場のために人が死に、妊婦が流産して、射撃の振動で壁に亀裂が入り窓が割れるなど、40年間の被害は余りに大きかった。これ以上我慢できない」と述べた。楊口郡議会も昨年5月、「パルラン里の砲射撃場被害調査及び対策特別委員会」を構成した。
頑として聞き入れなかった軍が動いた。21師団と陸軍本部は昨年6・7・10月の3回にわたり、155ミリ砲で射程距離実験射撃を行った。これまで主張してきた安全距離600mの2.5倍に当たる1650mまで破片が飛ぶという事実が証明された。 21師団は昨年11月に住民説明会を開き、「砲射撃場標的地に向けた155ミリ砲射撃を中断し、2016年までに民家から遠く離れた新しい標的地に移転する」と明らかにした。
■「射撃場の被害1兆8000億ウォン(約1800億円)」
楊口郡議会と住民たちは、砲射撃場の移転よりもっと根本的な対策を要求している。楊口にはパルラン里射撃場より6倍以上大きな南面(ナムミョン)チュク里の台風射撃場(4189万9000平方メートル・1972年設置)など、楊口郡の面積の半分以上を占める366.8平方キロが軍事施設保護区域に指定されている。
住民たちと郡議会は江原道傘下の江原発展研究院に客観的な被害調査を委託した。江原発展研究院は最近出した「楊口パルラン里砲射撃場などの周辺地域環境影響分析および対策のための研究委託報告書」で、40余年間にパルラン里射撃場及び台風射撃場により住民は精神的被害(4984億ウォン)、生産損失(1兆2373億ウォン)、財産被害(255億ウォン)など計1兆8026億ウォンに上る被害を受けたと説明した。
郡議会 被害調査特別委設けて活動
研究の結果、40年間の住民被害額
騒音被害など、なんと1兆8,000億ウォン推算
頑として聞き入れなかった軍、射撃場移転を約束
軍周辺地域支援法の声も
射撃場周辺の9つの村の450世帯を相手に行なった住民意識調査で、住民の79.1%は睡眠不安と憂鬱、胸の動悸などの精神的被害を受けていると訴えた。 80.2%が「財産被害がある」と答えたが、建物破損・毀損が57.3%で最も多く、家畜など農業上の被害、破片の被害など様々だった。パルラン1里の住民パク某さんは、砲射撃振動のために瓦に異常が生じて屋根を3回も葺き替えた。
台風射撃場周辺のチュク里小学校を対象に、今年3~8月、学習権被害実態を調査したところ、教師の81.8%が「授業を中断しなければならないほど、騒音被害が深刻だ」と答えた。ユン・ムンシク教頭は「この学校に勤務して1年ほどになるが、1ヵ月に3回くらいある砲射撃のために今でもビックリしている。 爆発音が大きくガラス窓も揺れるので、防音窓など生徒たちの学習権を保護する対策が切実な問題だ」と述べた。
今年5月に射撃場周辺の騷音を測定した結果、最大騒音が88.6デシベルで、環境政策基本法が規定した一般住居地域昼間騒音環境基準の55デシベルと家畜被害認定基準の60デシベルを超えていた。 砲射撃訓練の戦車が移動するときは、最大騒音が100.9デシベルにもなり、最大振動測定度は74.1デシベルだった。調査の結果、住民たちが財産被害はもちろん精神的ストレスなどに苦しんでいることが明らかになった。
江原発展研究院のハン・ヨンハン研究委員は「軍射撃場に対する具体的かつ総合的な被害調査は全国で初めてだ。調査結果を政府と国会に法案づくり政策資料として提供する計画だ」と述べた。
■ 軍事施設周辺地域、特別法で支援すべき
現在、軍事施設と関連した直接的な財産被害は国家賠償法で補償を受けることはできるが、精神的被害や間接的財産被害については長い時間と多くの費用をかけて訴訟を起こすしかない。キム・チョル楊口郡議員は「南北境界線地域の住民は、頭の上を数多くの砲弾が飛び交っても、我慢して過ごしてきた。今や権利を主張すべき時になった」と述べた。
軍事施設周辺地域を支援する特別法を制定すべきだという声が広がっている。ダム、発電所、廃棄物処理施設、上水源保護区域などの公共施設のために財産被害などを受けた地域住民に対して補償する法的根拠を設けたようにだ。ホ・フン大真(テジン)大学教授(行政学)は「射撃場・飛行場のような軍事施設を設置して国家安保を守ろうとするのは、国民全体が享受する公共財的性格を持っているのに、被害は特定地域に限定されている。そのような地域の住民を支援する制度を設ける必要がある」と指摘した。
予算確保の困難などを考慮して、とりあえず急を要する射撃場、飛行場、大規模な弾薬庫などの周辺から支援すべきという意見もある。韓国国防研究院のカン・ハング博士は、「今すぐ全ての軍事施設周辺を支援することは財政状況からして難しいだろう。被害が深刻な施設から特定軍事施設に指定して支援すれば効果を収めることができるだろう」と述べた。日本は1974年「防衛施設周辺生活環境整備法」を制定して、120ヵ所に2200億ウォン(2012年基準)を支援したという。
楊口郡議会は去る23日の本会議で「嫌悪(特定)軍事施設被害地域支援に関する建議文」を採択した。政府が動いて軍事施設周辺地域の住民を支援する法律を制定しなければならないということだ。チョン・チャンス楊口郡議会議長は「長い間被害を受けながら我慢してきた地域と住民に対して、合理的に支援し補償する土台を設けるべき時になった。国家安保で得られる便益と損失を分け合う社会に進化しなければならない」と強調した。
楊口/パク・スヒョク記者 psh@hani.co.kr 写真楊口郡議会提供