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【土曜版】カバーストーリー 送電塔との戦争、密陽(ミリャン)の人々

原文入力:2012/08/24 20:50(6547字)

ビニールがけの穴蔵で食べて寝て…ヘリコプターを阻もうと夜明けに山頂へ
大統領選走者の方々、この‘ビニールがけ’も気に留めてください

←密陽(ミリャン)の送電塔反対闘争は地方の老人たちの孤独な戦いだ。 韓進重工業のキム・ジンスク前民主労総指導委員や(海軍基地建設反対の)済州(チェジュ)江汀(カンジョン)のムン・ジョンヒョン神父のようなスターもいない、4大河川事業に反対した京畿道(キョンギド)楊坪(ヤンピョン)の両水里(トゥムルモリ)のようにソウルから近くもない。 大量電力生産・消費体制は原子力発電所と送電塔建設をもたらす。 慶北(キョンブク)の蔚珍(ウルチン)と江原(カンウォン)の三陟(サムチョク)など、東海岸原発地帯の電力を首都圏に供給する「新蔚珍~江原~北京畿765kV送電線」が2019年に建設されるなど、今後も原発と送電塔は地方の老人たちの闘争を呼び起こす可能性が大きい。

 密陽(ミリャン)の夜は暗かった。 都市にはいくらでもある街灯もネオンサインも見えなかった。

 去る21日夜9時、密陽市府北面ウィヤン里、華岳山(ファアクサン)は市内より一層暗闇だった。 車両用ナビゲーションにも出てこない道に沿って上がっていった。 止まっているフォーククレーンのそばにビニールで覆った穴蔵が一つ目に映った。 白髪頭のおじいさんおばあさんが入り口を開けて出てきた。チンシコルに住むユン・ヨリム(74)・チョン・イムユル(70)氏夫妻、そしてそのそばにクァク・ジョンソプ(64)氏が立っていた。 彼らの着ている朱色のティーシャツには「765kV(キロボルト) OUT」という字句が書かれていた。

 「避難施設みたいでしょう? 銃剣を手にしていないだけで?、これは戦争です。」チョン氏が話した。 彼の言葉どおり、ここは“前線”だった。 蔚山市(ウルサンシ)蔚州郡(ウルチュグン)の新古里(シンコリ)原発から慶南(キョンナム)昌寧郡(チャンニョングン)の北慶南変電所までを結ぶ765kV送電線路の162本の送電塔のうち69本(清道面18本、府北面7本、上東面17本、山外面7本、丹場面20本)が、密陽市の5つの面にたてられる計画だ。 密陽市清道面(チョンドミョン)と昌寧郡(チャンニョングン)など他の地域の住民はすでに韓国電力と送電塔建設に合意し、密陽(ミリャン)の残りの4つの面が残って送電塔建設に反対している。

←去る22日水曜日の夜、密陽市三門洞(サンムンドン)のノルンマダンの2階で開かれた56回目の水曜ロウソク文化祭が終わり、住民50人余りが集まって集合写真を撮った。 クレパスでスケッチブックに「必ず勝つぞ!」と書いてある。 カン・ジェフン先任記者 khan@hani.co.kr


教育運動家イ・ゲサム氏の後悔と闘争

 ユン氏夫婦とクァク氏は127番鉄塔の予定地を守っていた。 昨年11月から工事ができないよう住民が順番を決めて徹夜の籠城中だ。 ビニールがけのそばに工事を知らせる案内版が倒れていた。 周辺にひょろ長く育ったカボチャの葉が生い茂っている。

 入り口を開けるや、きつい蚊取線香の臭いが鼻を刺した。 冷蔵庫とガスレンジ、茶碗と箸とスプーン、布巾まで、一戸の暮らしがそこに一杯になっていた。「これが職場であり職業だ。」 あなぐらを作ったのは一生農業だけやってきたユン氏だった。 木とテントの柱を一緒にゆわえて組んだ。 真冬に棒一つ持って戦うのが寒くてビニールがけのあなぐらを作った。 夏が来ると食物がはやく傷むようになり、電気線をつないで冷蔵庫まで持ち込んだ。 韓電は去る7月ユン氏と村の住民イ・ナム(70)、ソ・ジョンボム(54)氏が工事を妨害したとして、3人を相手に10億ウォンずつの損害賠償請求訴訟を提起した。

 戦いの中で老人たちは“戦士”に生まれ変わっていった。 “脱核”戦士だった。 家の前や村の裏山を通過する最大高さ147mの送電塔を阻むために新古里原発にも行ってみたし、他の送電塔が通過する地域にも遠征してきた。 高圧の電気が通る送電塔から有害な電磁波が発生すれば生命は生きられない。原発の数を減らすエネルギー政策が必要だ、などなど、たくさんの話を吐き出した。 「初めは知らなかった。 送電塔が入ってこられないようにしようとして、電気原発博士になってしまった。 補償のためではない。」クァク氏が言った。 彼女は夫を耕運機の事故で失い、いるのは未婚の二人の息子だけだ。 豆やエゴマを作っているクァク氏には自分名義の土地がない。

 その晩11時頃、数日間晴れ続きだった密陽(ミリャン)にも恐ろしいほどの雨が降った。 退屈しのぎにミン花札(訳注:花札の中で最も簡単な基本的なもの)を打ったり石でコンギノリ(訳注:おはじきのような遊び)をしていた彼らも眠りについた。ボツボツと頭の上に落ちる雨音と闘争の垂れ幕をはためかせる風の音だけが静かな山の中にいっぱいになっていた。 時々村の住民の車両が行き来するだけで、人夫をのせて山に入ってくる工事車両はいなかった。また一日の勝利であった。 同時にそれはうんざりするような戦争の延長だった。

去る1月16日、鉄塔工事に反対していた
イ・チウおじいさんの焼身
その後、韓電は一度も工事ができなかった
代わりに里長などと別に接触に乗り出す

住民が恐れるのは放棄、分裂、無関心
5つのうち1つの面はすでに合意
長い戦いに疲れた人たちもいる
「電磁波が発生すれば生命は生きられない
銃剣を手にしないだけでこれは戦争だ」
戦いはいつ終わるか分からない

←ミリャン送電塔関連日誌

 “密陽(ミリャン)の戦争”が本格的に世の中に知られたのは70代の農民イ・チウ(73)氏の焼身以後であった。 去る1月16日、イ氏は自身と弟の田で行なわれる工事に怒って自分の身に自ら火を放って亡くなった。 密陽で教師をしながら教育運動および地域運動をしてきて焼身以後に参加するようになったイ・ゲサム(39)≪ミリャン765kV送電塔反対 故イ・チウ烈士焼身対策委員会≫事務局長が言う。 「負債意識がありました。 私の住む所で73才のおじいさんが焼身自殺をしたというのに、草の根地域運動をするというのは何の意味があるか。 私たちが少しでも助けてあげられていたら焼身まではしなかっただろうに、という後悔です。」

 焼身したイ・チウおじいさんの力で持ちこたえている戦いだった。 彼の焼身以後、韓電は山外面(サンウェミョン)でただの一度も工事を行えなかった。 去る21日午前、山外面ポラマウルで会ったイ・サンウ(72)氏は夫人キム・ジョンナム(69)氏、兄嫁ヒョン・ジョンスク(73)氏とともにビニールハウスでゴマの葉を間引いていた。 イ・サンウ氏は焼身したイ・チウ氏の弟だ。 兄が一緒に暮らしていた96才の老母は今は弟が面倒を見ている。 着の身着のままで自転車に乗って村会館に出てきたイ氏が言った。「送電塔なくせるなら何とかなくして下さい」

ヘリコプターを阻むために明け方6時に山頂へ

 弟のイ氏は橋の向こうの自分の田を指しながら話した。「102番鉄塔が私の田の真中に立つんです」その田んぼは兄が焼身した田でもあった。 韓電の補償基準によれば鉄塔敷地と線下地(送電線が通り過ぎる土地)だけが補償を受けられる。 鉄塔敷地は売買価格にしたがって補償するとしても、線下地は空中空間使用にともなう財産減少分だけを補償する。 市価の25~30%程度だ。 隣接土地に対して補償せよという法的根拠はない。 法と韓電の規定どおりならばイ氏は田5950㎡(1800坪)のうち鉄塔敷地496㎡(150坪)と 線下地1322㎡(400坪)程度だけ補償を受けることができる。 市価4億5000万ウォンの土地で7200万ウォンだけの補償だ。 イ氏は2010年に農協からイ氏の田んぼについて「送電線路が通過する土地なので担保貸出を返還しろ」と通報された。 「金もないのに誰が出て行けるか? もうすっかり歳を取ってしまったのに、(送電塔のある)ここでどうやって暮らせるか?」畑に帰る道でイ氏が空を見ながら話した。

 焼身以後7カ月、最も恐れるのは“放棄と無関心”だった。 密陽(ミリャン)の4つの面のうち相対的に住民の組織力が脆弱な丹場面(タンジャンミョン)が“最前線”だ。 イ事務局長と住民2人が去る20日昼、丹場面サヨンマウルを送電塔反対のビラを持って訪ねた。

「765って何のことだ?」

 80才のおばあさんが台所でチヂミを焼きながら答えた。 この家の下の家に住むおばあさんだった。 「若い人じゃなければ分からないよ。 私は自分の名前も分からない。」 83才の家主のおばあさんはビラを受取ることを断った。 反対側住民が活動内容を説明するとおばあさんが言った。 「嘘言ってるよ。 反対集会、熱心にやってないって聞いたよ。 会館に遊びに行くとそういう話ばかり聞くよ」 反対側住民がもどかしがって声を高めてみても、返ってくる答は同じだった。 「洞長がどうしてそうする(韓電と合意する)のか、ばあさんたちには何も分からん。 ニラのチヂミでもちょっと食べて行け。」

 ニラのチヂミを出してきたおばあさんが再び尋ねた。 「白紙化すればできなくなるのか?」おばあさんは自分の土地に送電塔が立つと言って話した。「その土地は売ってしまうこともできない。 戊子財物(使い道がないという意味)だ。 きっちりその場所だけ(補償を)出すようになっていて」 おばあさん達は話し続けた。「ワシらは言われる通りにするだけだ。何も分からん。」

 サヨンマウルの他の家で会った60代のおばあさんの反応も大して違わなかった。「私たちは大型市民でない小型市民だということです。 一言で言って無力だってことじゃないですか。住民の半分でも白紙化側に行けば可能性がありそうだけれども少な過ぎます。」 おばあさんは近くの村の裏山にある96番鉄塔の工事現場を(工事が再開されないように)守るために夜明けに山に登るのが苦労だったと言って話を締めくくった。 「戦った期間に比べて進展があまりにも少ないのです。」

 韓電は住民代表を通じて送電塔建設賛成意見を引き出すというのが原則だ。21日午後に会った韓電釜山慶南開発処のUHV開発チーム ユン・サンフン(54)処長の話だ。「住民全員が賛成というのは無理です。 最大限多くの住民が賛成するように、面対策委員長と里長などに接触中です。」 反対側住民たちは一部対策委員長と里長などが韓電の懐柔に乗せられて分裂を助長していると主張した。

 サヨンマウルとは違い、隣のトンファマウルは送電塔反対に熱心だった。 村の住民は7月26日から三,四人ずつ交替で明け方6時に海抜500mの裏山に上がった。 別に夜間組を定めて夜も現場を守った。 96番鉄塔の敷地である頂上に資材を積んでくるヘリコプターを阻むためだ。 去る20日午後3時にも村の年寄り10人余りが山に登ることになった。 <韓国放送>と<ハンギョレ>の取材陣が撮影に来たと言って住民は大騒ぎだった。腰の曲がったイ・ホンヒ(80)氏もその一人だった。イ氏は一行の中で一番遅れた。登山路にある「765反対」の黄色いリボンがイ氏を案内した。

 「ワシもやらなくては。ヌルンジ(おこげ)を食べながら、こういうこともやらなかったらだめだ」イ氏が斜面に腰をおろし、うちわで扇ぎながら言った。 汗でぬれたシャツは脱いでタオルでくるくる巻いて絞った。 草を手でつかみながらイ氏は登り続けた。 松が強く香り、水気を含んだ土はかなりすべりやすかった。 汗のにおいをかいだ虫がイ氏の顔の回りに群がった。 「こっち(96番鉄塔)の道は5回登ったし、あっち(95番鉄塔)の道は3回登った。」

生業を放棄するわけにはいかない・・・秋が恐ろしい

 そんなイ氏を村の対策委員長キム・ジョンフェ(39)氏が十歩先でじっと待っていた。 密陽(ミリャン)の戦士の中で最も若い層に属する。 京畿道(キョンギド)出身で昌原(チャンウォン)で職場に通っていたキム氏は2002年に密陽に帰農した。 結婚5年目であった。 キム氏はそれまで自分が外部から来た人間であり若くてやることも多いのでおとなしくしていたが、既存の対策委員達が韓電と交渉する姿を見て直接乗り出したと言った。

 「夏はシーズンオフだが秋がくれば仕事が多くなるので、生業を放棄するわけにはいかないし・・・それが一番心配です。」 8600㎡の土地でニンジン、ジャガイモ、ブロッコリーなど有機農業をする一方、フォーククレーン整備の仕事もしているキム氏はこの秋が恐ろしい。 幼稚園生の末っ子まで入れて子どもが4人だった。「フォーククレーンの整備をしかけて来たんです。日が沈むまでには終らせなくてはいけないでしょう?」キム氏は急いで山を降りて行った。

 10人余りの住民が上がってきた山の頂上にはすでに幹が切られた木がいっぱいだった。 工事をやりかけで止めたように、装備があちこちに散らばっていた。 日が沈むころ山を降りてきた住民はスイカ一つとそうめんを分けあって食べた。

 地域で孤独な戦いをしてきた住民は、最近外部からの関心に気分が良さそうだった。 12月の大統領選挙を控えて民主統合党大統領予備選候補が次々と訪れていることが一役買っている。 21日午後4時50分、民主統合党ムン・ジェイン候補の夫人キム・ジョンスク氏が密陽市駕谷洞(カゴクドン)の韓電密陽支社広場に設けられたテント座込み場を訪問した。 府北面のイ・サラ(81)、ソン・ヒギョン(80)おばあさんがキム氏に抱かれて泣いた。 ピョンバッ村のハン・オクスン(65)氏が訴えた。「私のこの汚い格好、ちょっと見て下さい。 ビニールがけのあなぐらで生活しています。 韓電が全財産を強奪していって、生命まで脅かされています。 何とかして助けてください。 民主国家でこんな国がいったいどこにありますか。」

 キム氏は暗い表情でひざまずいたままおばあさんたちの話を聞いていた。 キム氏は「原発、核についてはムン弁護士もいろいろ考えています 」と言って住民たちを慰め、座込み場を後にした。 記者がキム氏に訪問の理由を尋ねると「みなさんがあまりにも困難な状況にいらっしゃるので」と短く答えた。

「オオルシグ チョヂョルシグ(訳注:興に乗ったときの掛け声)
/韓電のために とてもじゃないけど生きられない /765送電塔白紙化」

去る22日夜7時30分、密陽市(ミリャンシ)三門洞(サンムンドン)ミリャンドゥレ基金のノルン広場におじいさんおばあさん50人余りが集まって歌を歌った。 56回目の水曜ロウソク文化祭だった。 文化祭の終わりにイ事務局長が「国会知識経済委員会所属の議員が来週火曜日に、密陽(ミリャン)送電塔建設関連真相調査団結成の可否を決めることにした」と言うと、おじいさんおばあさんたちの顔にちらりと期待感がかすめた。

 韓電は今年中に「すべての装備と人員を動員して」工事を終える計画だ。 国民全体に電力を供給する義務があり、送電線路は電気の流通網・設備に過ぎないというのが韓電の説明だ。 一方、住民たちはこの戦いに期限を定めていない。

 3泊4日留まったミリャン(密陽)は、都会の夜と違い夜通し暗かった。 ミリャンには電気が必要でないというかのように。

密陽(ミリャン)/文チェ・ウリ記者 ecowoori@hani.co.kr
写真カン・ジェフン先任記者 khan@hani.co.kr

原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/environment/548606.html 訳A.K