大統領制において大統領選挙は前向きな投票だ。これからの国政をうまく導いていく人物を選ぶ。
例外はある。朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾を受けて行われた2017年の大統領選は、朴槿恵審判論が作用した。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾を受けて行われた2025年の大統領選は、尹錫悦審判論が作用した。
大統領の任期中に行われる国会議員選挙と地方選挙は、後ろ向きな投票だ。現政権に対する審判論が作用しやすい。どの大統領も任期中の総選挙や地方選挙を恐れる。
これにも例外がある。大統領就任直後に行われる選挙だ。大統領の支持率が高いため、政権審判論はあまり受けない。李明博(イ・ミョンバク)大統領の就任直後の2008年の総選挙、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の就任から1年1カ月後の2018年の地方選挙、尹錫悦大統領の就任直後の2022年の地方選挙がそうだった。
李在明大統領の選出からちょうど1年で行われる今回の地方選挙はどうだろうか。政権審判論が通用しにくいケースだ。大統領の職務に対する支持率は60%台で、安定した水準にある。野党第一党の「国民の力」が政権審判を叫べば叫ぶほど、有権者は李在明大統領の支持率の高さを思い出す。
国民の力が愚かでないのなら、政権審判論よりも住宅価格、税金、交通といった国民の生活に関わる議題で対決した方が有利だ。さらに国民の力は、現職の広域自治体の首長が全員公認されている。現職の首長は、成果と継続性を強みとして掲げられる。
国民の力は4月1日、6月3日におこなわれる地方選挙の最初の公約として「首都圏の伝貰(チョンセ:契約時に高額の保証金を貸主に預けることで月々の家賃が発生しない不動産賃貸方式)保証金半額」を掲げた。ソウル市で周辺価格の50%で長期伝貰住宅を供給する半額伝貰を推進し、首都圏全域へと拡大するという構想だ。
国民の力からソウル市長選に立つオ・セフン候補は第1号公約として、自宅から10分以内の場所に運動できる場所を確保する「10分運勢圏」を提示した。同党のパク・ヒョンジュン釜山(プサン)市長候補は第1号公約として、釜山の若者であれば10年以内に1億ウォンの貯蓄ができるようにするという複合所得構想を提示した。これらは非常に優れた公約だ。
しかし、有権者にはあまり知られていない。なぜか。何者かが生活問題の議題を横に押しやり、政権審判論を叫んでいるからだ。誰か。国民の力のチャン・ドンヒョク代表その人だ。
チャン・ドンヒョク代表は5月8日の外国メディア記者との懇談会で「戒厳を解決する唯一の方法は弾劾ではない。我々の分裂によりそれは貫徹できず、結局は我々自らが弾劾の扉を開いてしまった」と述べた。典型的な「ユン・アゲイン」式の詭弁(きべん)だ。弾劾することなく尹錫悦の内乱を終わらせる方法があったのか。
またチャン・ドンヒョク代表は「中道層を説得するために、我が党の持つ価値を捨てたり方向を転換したり、彼らが望む方向へと無条件に引きずられたりはしない」と述べた。中道への拡大は放棄し、今の「ユン・アゲイン」路線で地方選挙に臨むという宣言だ。驚きである。
チャン・ドンヒョク代表は米国の保守系オンラインメディアへの寄稿で、李在明政権のことを「親中、親北朝鮮、社会主義、法治主義破壊勢力」と評した。李在明政権は「韓中関係の完全な復元を宣言したり、北朝鮮の体制の尊重を明言したりと、宥和(ゆうわ)的な対北朝鮮・対中政策を展開している」とも述べた。尹錫悦前大統領が非常戒厳の大義名分としたイデオロギー的レッテル貼りをそのまま繰り返しているのだ。実に不可解だ。
選挙で実用とイデオロギーが争えば、実用が勝つ。韓国の保守政党は、全国選挙でイデオロギー的レッテル貼りのような極右路線で成功したことは一度もない。2018年の地方選挙で自由韓国党のホン・ジュンピョ代表は、朝米首脳会談を「偽装平和ショー」と非難し、惨敗した。2020年の総選挙で未来統合党のファン・ギョアン代表は、コロナに「武漢肺炎」というレッテルを貼り、やはり惨敗した。
チャン・ドンヒョク代表はこのような歴史を知らないのだろうか。知らないようだ。死への道だと分かっていてその道を歩む人はいないからだ。与党「共に民主党」は、そんなチャン・ドンヒョク代表に非常に感謝している。
このところ、民主党には様々な悪材料が生じている。李在明大統領に関する複数の裁判の起訴取消権限を、でっち上げ起訴を捜査する特検に与える法案を提出したが、世論の批判にさらされたため一歩退いた。民主党のパク・ソンジュン議員は、市民は起訴取り消しのことをよく知らないという失言をした。チョン・チョンレ代表は、小学1年生の女児に「オッパ(お兄さん)と呼んで」と不適切なことを言い、非難を浴びた。大統領の職務評価と民主党の支持率が揺れ動いた。このような有利な流れを、チャン・ドンヒョク代表がまた国民の力に不利なものへと戻している。神業だ。
選挙は「誰がうまくやるか」よりも「誰が失敗しそうか」で勝敗が決まることもある。民主党と国民の力は、どちらが失敗しそうかで競い合っている。国民の力はその競争でリードしている。哀れなことだ。
ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )