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民主主義とGDPのキラー、尹錫悦大統領【コラム】

登録:2025-01-27 06:32 修正:2025-01-28 07:40
内乱事態にともなう経済心理の萎縮により、昨年第4四半期のGDPの減少分と今年予想されるGDPの減少分を合わせると6兆8000億ウォンに達する。写真はソウル市内の衣料品店の様子/聯合ニュース

 「尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の戒厳令事態が招いた代償は、韓国の5100万国民が長い時間をかけて分割で支払わなければならないだろう」という憂鬱な文章で締めくくられた国際経済専門コラムニストのウィリアム・ペセック氏のコラム(フォーブス、2024年12月6日)のタイトルは、「尹錫悦大統領の必死の曲芸が韓国のGDP(国内総生産)キラーである理由」だった。

 コラムのタイトルのように、12・3内乱事態が韓国GDPの殺人犯という事実が続々と数値で確認されている。昨年第4四半期の実質GDP成長率は0.1%だった。これは内乱事態が起きる前の昨年11月に韓国銀行が出した見通しの0.5%より0.4ポイントも低いものだ。韓国銀行は、政治の不確実性の拡大で消費心理が萎縮し、民間消費に悪影響を与えたと説明した。内乱事態が直接的な原因という意味だ。成長率を0.5%と仮定した場合、第4四半期の実質GDPは575兆770億ウォン(約62兆6280億円)だが、成長率が0.1%の場合は572兆8550億ウォン(約62兆3860億円)だ。2兆2220億ウォン(約2420億円)が減少したのだ。

 内乱事態の影響は昨年第4四半期に限らない。韓国銀行は昨年11月に今年の成長率を1.9%と見通したが、最近これを1.6〜1.7%に下方修正した。やはり非常戒厳事態に触発された政治の不確実性と、これにともなう経済心理の萎縮が成長率を0.2ポイント下げるだろうと予想した。今年の成長率を1.9%と仮定した場合、実質GDPは2332兆4130億ウォン(約254兆90億円)である一方、1.7%と仮定すると、2327兆8350億ウォン(約253兆5105億円)にとどまり、4兆5780億ウォン(約4985億円)が減少する。内乱事態による昨年第4四半期のGDP減少分と今年予想されるGDP減少分を合わせると、6兆8000億ウォン(約7400億円)に達する。7兆ウォン近いGDPが消えるのだ。

 請求書はここで止まらない。内乱事態の前に1ドル当たり1400ウォン前後で推移していたウォン相場は、内乱事態の翌日である12月4日、一気に1410ウォンまで値下がりし、その後ウォン安の勢いが続き、1ドル1470ウォンまで下落した。韓国銀行のイ・チャンヨン総裁は、グローバルなドル高などの影響のほか、政治的な理由だけで値下がりしたウォン安分は(1ドル当たり)約30ウォンに達すると述べた。景気を支え庶民と自営業者の困難を少しでも和らげるためには基準金利引き下げが必要だったが、ウォン安のため、韓国銀行は16日、金利を凍結せざるを得なかった。安定を取り戻しつつあった物価も、ウォン安が原因で再び揺れ動いている。

 「雇用ショック」も起きた。 昨年12月の就業者数は前年に比べ5万2000人減った。就業者数が減少するのは非常に異例なことで、コロナ禍の真っ最中だった2021年2月以後初めてだ。韓国銀行が発表する消費者心理指数は12月に88.4にとどまり、11月に比べてなんと12.3ポイントも下落した。これはグローバル金融危機の時と同じ水準の下落幅だ。1月に入ってからも3.0ポイントの持ち直しにとどまった。

 対外信認度も低下している。政府はグローバル信用評価会社に韓国の国家システムが滞りなく運営されていることを知らせるのに務めているが、信用評価会社は政治的不確実性が長期化した場合、否定的影響があると警告している。直ちに国家信用格付けに変動はないだろうが、国家イメージの失墜は免れない。ペセック氏はコラムで「現代アジアで戒厳令の施行者を思い浮かべる時、投資家はインドネシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、そして今は韓国まで思い出すことになるだろう」と述べた。ソウル西部地裁での暴動事態は、韓国が「不安な国」だという印象を一層強くしたことだろう。

 20日にドナルド・トランプ米大統領が就任して次々とMAGA(米国を再び偉大に)政策を打ち出している中、これに対応できるリーダーシップが存在しないという事実も不安を高めている。昨年11月27日、チェ・サンモク副首相兼企画財政部長官は米国新政府の一律関税賦課の可能性や後発国の技術追撃などに触れ、「今後6カ月が韓国産業の運命を分けるゴールデンタイム」だと述べた。それからわずか一週間後、内乱事態が起きた。世界経済の秩序が変わるかもしれないこの6カ月間のゴールデンタイムの間、韓国政府と国会が的確で密度のある対応策を展開していく可能性がどれほどあるだろうか。

 妄想に囚われ、民主主義を蹂躙し、後退させた民主主義のキラーは、国民が生計と日常を営む基盤を破壊する経済のキラーでもある。一日も早く内乱事態を法的かつ政治的に終結させることだけが、国民の苦痛と負担を少しでも減らす道だ。

//ハンギョレ新聞社
アン・ソンヒ論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1179803.html韓国語原文入力: 2025-01-26 14:57
訳H.J

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