戦争は意図せぬ結果だが、平和は努力してはじめて得られる。一部の人々は、トランプ政権がウクライナ支援を削減すればロシア・ウクライナ戦争は早期に終わると期待している。支援縮小はウクライナの劣勢を意味し、欧州に米国の代わりはできないからだ。しかし、戦争遂行能力だけが戦争の終わりを決めるわけではない。戦争から平和へと至る道は複雑だ。果たして、トランプの帰還で平和は訪れるのだろうか。
コストの削減は仲裁ではない。休戦を仲裁するには、違いを調整する外交力が必要だ。ロシアとウクライナの戦争の出口についてはKモデル、すなわち朝鮮半島の休戦協定が代案として浮上した。しかし、朝鮮半島の休戦交渉は、はじまってから合意に至るまでに2年を要した。その間、高地戦は多くの命を奪い、爆撃は恨みを生み、積み重なった敵対感情は冷たい戦争へとつながった。休戦はある日とつぜん実現するわけではない。戦争の傷を癒す努力がなければ、休戦は文字通り戦争の一時的な中断に過ぎない。
ロシア・ウクライナ戦争は「北朝鮮の核問題」とつながっている。トランプと金正恩(キム・ジョンウン)の個人的な関係で平和の可能性が期待されているが、今の世界は6年前に比べれば大きく変わった。北朝鮮の核能力の高まりで交渉の方程式が変化しており、北朝鮮はもはや南方ではなく北方で生存を追求している。韓国という仲裁者もいない。
今は朝米ロの三角関係が情勢を決める。ロシア・ウクライナ戦争の休戦が実現し、米ロ関係が改善されてはじめて、ようやく朝米関係の変化は可能となる。米国は北朝鮮に対話を提案して朝ロ関係の溝を深めようとするだろうが、北朝鮮はロシアから得られる利益がある限り、不確実な対米交渉には興味を示さないだろう。
トランプ2期目は開かれているが、トランプ大統領の政策決定の仕方は変わらないだろう。彼は外交に取引としてアプローチする。もちろん公正な取引ではなく、相手を配慮しない。2019年2月にハノイ会談が決裂し、6月に劇的に板門店(パンムンジョム)での会合が実現した時のことだ。当時、トランプ大統領は金正恩委員長に韓米軍事演習の中止を約束した。しかし約束は守られず、交渉再開の種火は消え、北朝鮮は南方の扉を閉じて北方へと戦略を転換した。
当時はハノイ会談の決裂で不信感が高まり、先制措置で相手の呼応を期待するのは困難だったことだろう。しかし、より重要な理由があった。トランプ大統領は演習の中止で得られる交渉の可能性ではなく、むしろこう着状態を韓国との防衛費分担金交渉の大義名分にしようとしたのだ。外交は不動産取引とは異なり、目先の自分の利益ばかりを押し出すと交渉は失敗する。
交渉を成功させるためには「上から下へ」、すなわち首脳会談と、「下から上へ」、すなわち実務会談を調和させなければならない。北朝鮮との交渉では、実務会談には限界がある。指導者に決定権限が集中しているためだ。トランプ政権もそれと似ている。2019年2月、ハノイに向かう途中、大統領は実務者と協議しなかった。安保担当補佐官と国務省は互いを疑っていたし、国務長官は対北朝鮮特別代表を排除しようとした。双方の短所がぶつかり、ハノイ会談は失敗した。指導者が組織の能力を活用できなければ、サプライズイベントはできても平和交渉は難しい。
大統領の一方主義は頻繁な人事異動につながる。トランプ1期目の安保担当補佐官は、4年間で4人が務めた。概して米国の主要な職責の人事は頻繁には変わらないが、トランプ1期目はそうではなかった。人事は大統領の最も重要な能力だ。安保担当補佐官が随時変わっていたら、どうして他国が実務協議に応じようか。もちろん、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は2年半で安保室長は4人目だ。組織が回らず、外交惨事が繰り返されている決定的な原因だ。一方主義は口だけがあり、耳がない。指導者は政府内部の交渉と交渉相手の主張に常に耳を傾けなければならない。耳を傾けない指導者は、政治であれ外交であれうまくはできない。
バイデン政権の構造的なこう着よりは、トランプ2期目の予測不可能な混乱の方がチャンスだととらえる人は少なくない。しかし、平和は泥棒のようにはやって来ない。北朝鮮の核問題のように古く複雑であればあるほど、一度に解決するうまい手はない。人々は新たな変化に希望を抱くが、生きているとあの頃はまだましだったと思うことも多い。現代において戦争は無能の結果であり、平和は有能の結実である。世界的に耳を傾けない無能が伝染病のように広がっている。もちろん、小説家のハン・ガンの作品のように、暴力の廃墟(はいきょ)においても一輪のタンポポは咲く。高貴さを放棄しなかった人々が生きるに値する世を作ったように、平和に対する渇望が無能の時代を切り抜けていくはずだ。
キム・ヨンチョル|元統一部長官・仁済大学教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )