国民の関心が第22代総選挙に注がれている間に、主要な財閥が相次いで事業構造改編案を発表した。財界7位のハンファの持ち株会社格である(株)ハンファと防衛産業の系列会社であるハンファエアロスペースは、非主力事業の譲渡、物的分割、人的分割(既存の株主に新設法人の株も譲渡する方式)計画を打ち出した。財界31位の暁星も持株会社である(株)暁星を人的分割し、持株会社を2社に分けることを決めた。
企業が経営上の理由で事業構造を変えるのは不思議ではない。ハンファと暁星も選択と集中、経営効率、シナジー効果、競争力の強化を強調する。しかし、それをそのまま信じる投資家はほとんどいないようだ。事業構造の再編を掲げて総帥の子女たちによる支配権継承と系列分離を行うという財閥の長年の慣行があるからだ。実際に暁星は、チョ・ソンネ名誉会長の死後、チョ・ヒョンジュン会長の兄弟による系列分離を既成事実化しつつある。
財閥が系列分離のために会社(グループ)の分割をためらわないというのは、先進国ではなかなか見られない特異な現象だ。韓国では企業を家族の財産と考え、子に譲ることを当然視するという認識が根強いのだ。10年あまり前、ヒドゥンチャンピオン(強小企業)を取材するために、私はドイツを訪問した。現地の企業家たちに韓国の系列分離と会社分割の慣行についての考えを聞いた。彼らはみな驚いていた。支配株主の利益のための会社分割は一種の背任であるため、想像もできないと言った。
系列分離のための会社分割が会社や一般株主に損害を与えず、法手続きにも違反がないのなら問題はない、との主張もある。しかし専門家によると、事業構造改編の特性上、支配株主と一般株主の利害が一致することはほぼない。企業分割、合併、営業および資産の譲受や譲渡などの「資本(の変化を伴う)取引」は本質的に「ゼロサムゲーム」であるため、取引で一方が利益を得れば、もう一方は損をせざるを得ないというのだ。
暁星グループの事業構造改編の実体は、2018年の旧暁星の人的分割によくあらわれている。当時の暁星は持株会社の暁星(存続法人)と暁星TNCなどの4つの事業子会社に人的分割され、持株会社体制に転換した。会社は企業価値の向上および競争力の強化を掲げたが、事業構造改編の実際の利益はチョ・ヒョンジュン会長一家の懐に入った。チョ会長一家はもともと旧暁星の株の38%を所有していたが、分割の過程で現物出資、有償増資などによって持ち株比率を55%に大きく高めた。その分だけ一般株主の持ち株比率は低下した。まとめると、第1段階で総帥一家の持ち株比率を高め、第2段階で会社を分割所有するわけだ。
サムスン物産の合併事件の場合、世間の関心はイ・ジェヨン会長一家の支配力の強化へとつながった不当な合併比率と粉飾会計疑惑に集中している。だが暁星の例を適用すると、第1段階の総帥一家の持ち株比率の引き上げの後には、第2段階として合併したサムスン物産の人的分割を通じたイ会長兄妹による系列分離が行われる、というのが有力なシナリオだ。
3世4世による継承が進行中の財閥は、みな似たような誘惑に駆られているとみるべきだ。財閥も経営環境の変化に合わせて新たな経営パラダイムを模索する必要がある。スウェーデン最大の財閥であるヴァレンベリは170年近く、5代にわたって家族経営を続けてきているが、系列分離はしたことがない。代わりに各世代の中で最も力量の優れた者を2人選抜し、経営を任せる。企業は個人のものではなく社会と従業員のものだ、という「ユ・イルハン式経営哲学」まで望みはしない。しかし、企業は総帥の子女による系列分離のために勝手に切り分けて食べられるピザではない。
第22代総選挙は尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権審判論の中で、共に民主党などの野党の圧勝に終わった。これまでのような一方通行の国政運営にはブレーキがかかるだろうが、経済だけを見ればすでに懸念が先立つ。政府与党は総選挙前に、実現可能性が低く実現させる意志もない「空手形」を乱発した。コリアディスカウント(韓国証券市場に対する低評価)の解消を掲げて急造した「企業バリューアップ支援策」も不渡りを出す危険性が高い。退行的な企業支配構造という根本原因の改善もなしに税制支援ばかりに焦点を合わせるのは、底の抜けたかめに水を注ぐようなものだ。
支配株主の利益のためだけの事業構造改編も、取締役会がけん制機能を持ちえない退行的な企業支配構造の産物だ。民主党のイ・ヨンウ議員は2020年に提出した「上場会社特例法案」で、「少数株主同意制」(法案第20条)の導入を提案した。上場会社が合併、分割、営業の譲受や譲渡などを行う際には、筆頭株主(総帥)と特殊関係人(家族)の株主総会での議決権行使を禁止しようというものだ。尹政権は、本当にコリアディスカウントの解消を望むのなら、制度改善を急ぐべきだ。
クァク・チョンス|ハンギョレ経済社会研究院先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )