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[寄稿]1万2千人に振り回される韓国、専攻医を「怪物」に育てた

登録:2024-04-12 01:36 修正:2024-04-12 09:51

キム・ミョンヒ|予防医学専門医、労働健康連帯運営委員長
医政対立が続く2日、ソウルのある大学病院内の専攻医専用空間に、新人専攻医の募集案内が貼ってある。医政対立の中で任用を拒否したインターンたちの上半期の研修の任用登録は、この日で終了した/聯合ニュース

 2015年に発行された国際労働機関(ILO)の「保健医療分野の労働時間の形態とその影響」というワーキングペーパーの韓国での実態調査を私は担当した。当時インタビューに応じてくれたある専攻医は、次のように語っている。「当直翌日は仕事中の判断が遅くなります。頭がぼんやりしているから言われていることが分からないと感じるし、何だか自分の動作が遅いなと感じます」。患者団体の代表も付け加える。「重症患者、がん患者や希少疾患の患者は、ほとんどが研修医や専攻医が治療しますよね。でも眠い目をしているんです。不安にならざるを得ませんよ」

 2022年の大韓専攻医協議会の実態調査では、専攻医の週の平均労働時間は77.7時間だった。100時間以上の勤務者も25%にものぼった。2016年に「専攻医の研修環境改善および地位向上のための法律」(専攻医法)が制定され、週当たり80時間という労働時間の限度が定められたが、あまり改善されていない。なぜこのような状況が続いているのだろうか。病院の診療収益の助けになるからだ。安い人件費で長時間使える労働力、そのうえ「研修」、「教育」という名でそれを合理化することすらできるのだから申し分ない。

 2月下旬から1万1900人あまりの専攻医が集団辞職している。研修病院の受ける打撃は大きい。50の研修病院の収入は、昨年同期に比べ4238億ウォン(15.9%)減少した。5大病院はその打撃がさらに大きく、外来患者が大幅に減少しており、一般病床の稼働率も50~60%ほどにまで落ちている。複数の病院が非常経営体制に突入している。ある病院は職員に無給休暇を強制しており、給与が半分しか出せない病院、希望退職を募る病院も現れている。懸念されるのは病院の経営だけではない。患者が適切な時期に適正な治療が受けられない状況が大きな懸念を生んでいる。わずか1万2千人の医療現場からの離脱で国家的な医療大乱が起き、大病院の経営が甚大な打撃を受けるとは。これまでいかなる社会勢力も示せなかった破壊力だ。

 なぜ韓国社会は、たった1万2千人の若い医師たちに振り回されなければならないのか。第1に、医療の利用が過度に大病院に集中していること。第2に、これらの病院が過度に専攻医への依存度が高かったこと。これらがその理由だ。5大病院の7千人あまりの医師に占める専攻医の割合は39%に達する。ソウル大学病院のように専攻医の割合が46.2%に達するところもある。一方、米国と日本は10%あまりに過ぎない。人、金、時間を使って教育し訓練すべき人々を単なる安い労働力扱いしてきた報いが、ブーメランとなって帰ってきたのだ。

 2020年の保健医療人材実態調査の結果を見ると、研修医と専攻医の年平均賃金は専門医の30%ほどに過ぎない。まだ完全な専門家ではなく、研修生の身分だからだ。専攻医法も、彼らの働く時間を「労働時間」ではなく「研修時間」と表現している。他の分野では、資格に関するほとんどの時間規定は最小投入基準が定められているのに対し、特異なことに専攻医の研修時間規定は最大許容限度が定められている。これは労働時間規制を迂回(うかい)するための手段だと言わざるを得ない。

 専攻医に前代未聞の力を与えたのは、ほかならぬ政府と病院だ。研修病院の教授たちは、病院を去った専攻医たちに不利益が生じれば決して座視しないと宣言しているが、彼らは(認めようが認めまいが)搾取の連鎖において中間管理者の役割を果たしてきた。問題の当事者である病院は医政対立の罪なき被害者のふりをして、その負担を他の保健医療労働者に丸ごと転嫁している。首都圏の諸大学病院は競争するように、2028年までに首都圏近隣に分院を設立する計画を持っているが、専攻医に対する依存度が過度に高い奇異な人材構造を変える計画はない。このような状況に至るまで医療システムの商業化、市場化を放置してきた国の責任は、この上なく重い。

 遅きに失したものの、韓国社会は大きな代価を支払って学習したのだから、今からでも変えていかなければならない。専攻医を鍛えるのは「費用」であり「投資」であって、「収益の源泉」であってはならない。研修病院は専門医を大幅に増やすとともに、専攻医に「教育を受ける者」としての地位を返すべきだ。高度な診療能力を持つ上級総合病院が地域の医院や地域社会病院と外来患者の獲得をめぐって競争し、量的膨張に没頭するなどということはやめるべきだ。政府もまた、社会が必要とする専門人材を「社会的に」養成することの意味を再確認して専攻医の教育訓練に投資し、公的に管理すべきだ。結局のところ医療大乱の解決策は、医療の供給と人材養成システムの「公共性の強化」に帰結する。

//ハンギョレ新聞社

キム・ミョンヒ|予防医学専門医、労働健康連帯運営委員長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1136131.html韓国語原文入力:2024-04-11 09:00
訳D.K

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