総選挙の投票日をわずか2日後に控えた8日も、政府の選挙介入を意味する「官権選挙」批判はやまなかった。特に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が選挙に影響を及ぼすような言動を続けたことは、物議を醸している。すでに何度も露骨だとの批判を浴びてきたにもかかわらず、自制する気配は見られない。歴代のどの大統領も、どの政権もこのようなことはしなかった。
尹大統領はこの日午前、ソウル龍山(ヨンサン)の大統領室でベンチャーやスタートアップの青年代表、取締役、社員を招いての昼食懇談会を開催した。政府の政策である「スタートアップコリア総合対策」の推進状況を点検するための行事だと大統領室は説明した。普段なら問題になることはない。しかし、選挙が差し迫っている時期に業界の主要人物を一堂に集めるのは次元が異なる。案の定、尹大統領は「韓国のスタートアップも世界的な企業へと成長できるよう、様々な金融支援を確実におこなっていく」と語るなど、ばらまきを匂わす多くの発言を行い、支援政策もたっぷり示した。これが投票日の直前に必ず公開しなければならないほど緊急性のあるものだと言えるのか。
尹大統領はこの日午後、「都市住宅供給点検会議」を行い、「再開発・建て替えを速め、国民の望む住宅を迅速に供給していく」と語った。与党である国民の力の公約とそっくりであり、民生討論会の二番煎じでもある。この時期になぜ改めて言及したのか。その意図はあまりにも見え透いているではないか。大統領だけではない。文化体育観光部は最近、各省庁に「大統領が選択した道」と題する尹大統領の宣伝映像の掲示を要請し、物議を醸した。その後、公職社会などの反発世論にぶつかり削除したものの、8日には「(主務省庁である文体部の国民コミュニケーション室が)本来の役割を果たしたもの」だと主張した。国民ではなく大統領ばかりを見つめるまさにこのような態度こそ国民からそっぽを向かれる原因なのだが、事が起こった後も自己弁護に没頭してばかりいる。国防部が尹大統領の講演内容を集め、将兵を対象とした特別精神教育を実施しようとして見送ったということもあった。
大統領は党員である前に、選挙への関与が法律で禁止されている公務員の身分だ。また、公明な選挙を管理する最終責任も負っている。選挙を控えた時期には言動を慎み、本分に忠実でなければならない。しかし、尹大統領は不適切な前例を作りすぎた。各地域を回って24回も行われた民生討論会が代表的な例だ。今回の総選挙は、尹錫悦政権の2年間に対する評価という大きな意味を持つ。今になっていきなり公約を掲げたとしても逆効果だ。大統領が先頭に立って官権選挙という批判を自ら招くようなことが、これ以上繰り返されてはならない。