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[コラム]ソ連を没落させた中東戦争、今度は誰を

登録:2023-11-14 06:11 修正:2023-11-14 17:14
米国は三重苦に陥っている。ガザ戦争、ウクライナ戦争、中国との対決だ。1970年代の中東戦争はソ連を没落させる引き金となったが、今回のガザ戦争はどのような結果をもたらすのだろうか。
12日(現地時間)イスラエルによる爆撃直後、ガザ地区の崩壊した建物の隙間から砲煙が立ち上っている/AFP・聯合ニュース

 アフガニスタンが帝国の墓場だとすれば、中東も同じだ。

 英国は第1次世界大戦後、南アフリカ共和国の喜望峰からインドまでを結ぶ大英帝国の版図を確かなものとするために、パレスチナにユダヤ人国家を許容し、中東を分割した。しかし、イスラエル建国にともなうパレスチナ紛争は、中東における英国の影響力を喪失させた。英国は1956年のスエズ運河危機で勃発した第2次中東戦争に介入し、完全に帝国の一員から脱落した。

 ソ連も、1973年10月6日にエジプトなどのアラブ諸国の先制攻撃で始まった第4次中東戦争であるヨム・キプール戦争で勃発したオイルショックによって、没落の道を歩むことになった。イスラエルを支援した米国などの西側諸国に対し、サウジアラビアなどの中東産油国は石油禁輸を断行した。米国がベトナム戦争で深刻な財政赤字に苦しめられるなど、戦後の西側資本主義体制は最大の危機に直面し、不況は10年近く続いた。

 そのころソ連は、シベリア油田が急成長したことで、世界最大の産油国に躍りでた。ソ連は高い石油価格に酔いしれ、第三世界への進出を加速化した。その頂点は1979年のアフガニスタン戦争だった。その内実は違う面もあった。ソ連は1960年代から生産性低下にともない体制改革が必要だったが、オイルショックに酔いしれ国力を過剰展開した。

 一方、米国は重工業などを新興国に渡し、知識ベースの先端産業に移行した。1980年代初期に石油価格が下落すると、ソ連は深刻な体制硬化に苦しめられた。ミハイル・ゴルバチョフが社会主義をあきらめるほどになるまで、改革(ペレストロイカ)と開放(グラスノスチ)を進めたが、結局は崩壊の道を歩むことになった。米国のソ連史家であるスティーブン・コトキンは、オイルショックはソ連にとって「歴史の残酷なトリック」だったと評した。

 米国が一極体制を宣言した1991年の湾岸戦争も、歴史の残酷なトリックの始まりだった。米国は、イラクのサダム・フセイン政権を湾岸戦争で封じ込めた後、パレスチナ問題を解決しようとする野心的な中東和平会議を開催した。これはパレスチナ独立国家の建設を約束する1993年のオスロ合意につながった。致命的な欠陥があった。イランを排除したのだ。

 イランをけん制していたイラクのフセイン政権が湾岸戦争で弱体化し、イランは地域内の影響力を増大させたにもかかわらず、中東秩序の再編から除外された。イランはパレスチナのハマスなどの反イスラエル勢力を支援した。ハマスは、遅々として進まないオスロ合意に不満と反対を表明し、一歩踏み込みテロ攻撃を敢行した。これは、ヨルダン川西岸などの占領地で入植地を増やした強硬右派のイスラエル人住民たちのオスロ合意サボタージュを引き起こし、イツハク・ラビン首相は結局、1995年に極右に暗殺された。

 2001年の9・11同時多発テロに続く米国のイラク侵攻とフセイン政権排除は、巨大な勢力空白を引き起こし、イスラム国家(IS)などをはびこらせた。イランは核開発に拍車をかけ、地域内の影響力をさらに強めた。2009年に発足した米国のバラク・オバマ政権は、イランと核合意を結び、中東問題に対して新たなアプローチを試みた。しかし、ドナルド・トランプ政権は2015年、イランとの核合意を一方的に破棄し、極端な親イスラエル政策に転換した。サウジなどのアラブ国家とイスラエルが国交を結ぶアブラハム協定も推進した。

 イスラエルにとってはすでに安保の脅威となる勢力ではないサウジなどのスンニ派アラブ諸国を対象としたアブラハム協定は、むしろイランとパレスチナを刺激しただけだった。2022年にウクライナ戦争が勃発すると、サウジの計算も変わった。サウジは戦争でオイル価格が高騰すると、最大の武器である石油価格の決定力を強化するためにロシアと協力し、中国の仲裁でイランとも国交を回復した。ジョー・バイデン政権はサウジの中国接近を防ぐため、サウジに安全保障の公約を提供するとしてアブラハム協定を押しつけた。ヨルダン川西岸の入植地を拡大してパレスチナ封鎖を強化するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ極右政権の横暴には、見て見ぬふりをした。

 その結果がハマスとイスラエルのガザ戦争だ。米国はガザ戦争の拡大を止めなければならない。そのカギはイランだ。これを解決するためには、イランに対する中国とロシアの関与を弱める必要がある。ウクライナ戦争が続くかぎり、不可能な課題だ。ガザ戦争は、イスラエルがガザ北部を軍事占領するかたちでの「ガザの南北分断」になる公算が高い。周辺地域の長期的な低強度戦争を意味する。米国は三重苦に陥っている。ガザ戦争、ウクライナ戦争、中国との対決だ。加えて、ウクライナ戦争とガザ戦争に対する米国のダブルスタンダードを非難する声が、国際社会では非常に強い。

 1970年代の中東戦争はソ連を没落させる引き金となったが、今回のガザ戦争はどのような結果をもたらすのだろうか。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1116120.html韓国語原文入力:2023-11-14 02:40
訳M.S

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