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[寄稿]福島第一原発の汚染水問題でメディアがなすべきこと

登録:2023-06-13 01:47 修正:2023-06-13 07:28
チェ・ジョンイム|世明大学ジャーナリズム大学院長
日本放射性汚染水海洋投棄阻止ソウル行動の発足記者会見で、参加者たちが汚染水の海洋放出を糾弾し、パフォーマンスを繰り広げている=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 英国BBCがラジオドラマ形式で放送中のドキュメンタリー「フクシマ」は、2011年3月の原発事故が「人災」だったことを示してくれている。東京電力の首脳部は、2008年に内部の研究者が「マグニチュード9の強震で12~15メートルの津波が原発を襲う可能性があるため、防波堤を高くするべきだ」と報告すると、鼻で笑った。彼らが無視したシナリオは現実となり、電源が水に浸かって停電し、炉心溶融(メルトダウン)が起きた。東電の首脳部は経済的損失を懸念して炉心冷却のための海水注入に反対しているうちに、早期の収拾の機会を逃してもいる。同社は2018年、トリチウム(三重水素)以外の放射性物質は多核種除去設備(ALPS)ですべてろ過されると言ったが、処理した汚染水の70%に基準値以上の放射性物質が残っていたことが暴露された。

 汚染水放出問題は、東電のこうした誤った判断やうその前歴と切り離して考えることはできない。にもかかわらず、韓国の原子力界と一部の政治家は、東電を信じ切っているようだ。彼らの主張はこうだ。第1に、汚染水に含まれる64種の放射性物質をALPSで繰り返しろ過すればトリチウムだけが残り、すべて基準値以下になる。国際原子力機関(IAEA)がそれを検証しているので信頼できる。第2に、トリチウムは飲み水の基準以下に希釈して排出し、莫大な量の海水と混ざるので濃度は無視できるほどになる。第3に、トリチウムが健康に被害を及ぼすことを示す研究はない。第4に、福島第一原発事故の直後に高濃度の汚染水が大量排出されたが、それからの12年間で韓国海域の放射性物質濃度には変化がなかった。第5に、福島第一原発から1年間に放出されるトリチウムの量は、韓国の原発から放出されるトリチウムの量より少ない。第6に、米国などの他国は大丈夫だと言っているのに、韓国だけが大騒ぎしている。

 いっぽう国内外の独立的な専門家たちは、汚染水の環境や健康への影響を憂慮している。太平洋諸島フォーラム(PIF)の委任で研究中の核物理学者フェレンツ・ダルノキベレス、核工学者アルジュン・マクジャニ、生物学者ティモシー・ムソー、そして韓国の産業保健医学者ペク・トミョンとキム・イクチュン、核工学者ソ・ギュンニョルなどが代表的な例だ。彼らの主張はこうだ。第1に、汚染水には発表されたものより多くの種類の放射性物質が含まれており、ALPSの処理能力不足や故障などでトリチウム以外の核種も放出される可能性が高い。IAEAは「原発の育成」が目的であるため、このような問題を明らかにする意志はない。第2に、セシウム、ストロンチウムなどを含む汚染水が船舶平衡水(バラスト水)として韓国の海に直に運ばれてくる可能性があり、魚の食物連鎖などによって人体に影響を与えうる。第3に、トリチウムが有機結合型トリチウム(OBT)として体内に吸収されるとがんや遺伝性疾患を誘発するという研究がある。第4に、福島第一原発事故の直後、東海(トンヘ)沿岸の堆積層でセシウムの数値が急増した記録がある。放射性物質の濃度の変化をきちんと測定するためには、サンプルを大幅に増やさなければならない。第5に、正常に稼動している韓国の原発が排出している水は事故原発の汚染水と同列には扱えないが、韓国の原発のトリチウムも問題だ。原発の周辺地域の住民の甲状腺がん発症率は他の地域の数倍にもなり、韓国水力原子力を相手取って集団訴訟が行われている。福島第一原発の汚染水は、すでに排出されてしまった放射性物質にさらに加わるという点、廃炉の状況によっては30年以上にわたって放出されうるという点で深刻だ。第6に、米国政府は核実験などの原罪と自国の原発問題があるため無視しているが、太平洋の18の島国、中国、香港、ロシア、ドイツなどは放出に反対している。

 メディアはこのような相反する主張を可能な限り検証し、真実を突き止めなければならない。汚染水問題は特に、気候環境、エネルギー、外交、科学などの様々な分野が協業して「事案の全貌」を示さなければならない。残念ながら現在、多くのメディアはそれぞれの声を「中継」するにとどまっている。一方ハンギョレはキム・ソヨン、キム・ジョンス両記者ら関連取材陣の積極的な取材と充実した報道が期待を高める。ただし、協業とマルチメディアによって「立体的な全貌」を見せることに関しては多少物足りなさを感じる。代案についても今より多くの報道が必要だ。超大型タンクへの長期貯蔵やコンクリート埋め立てなどの「陸上保管」方法を、海外の例なども示しつつ具体化するとともに、国際海洋法裁判所に暫定措置を求めるなど、韓国政府の取りうる選択肢も詳しく伝えてほしい。

 環境や健康に関する危険は「予防原則」に則ってあらかじめ対処することこそ正しい。すべてのメディアは「多くの専門家が被害を警告する汚染水放出を放置してもよいのか」と政府に厳しく問うべきだ。

//ハンギョレ新聞社

チェ・ジョンイム|世明大学ジャーナリズム大学院長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1095625.html韓国語原文入力:2023-06-12 19:05
訳D.K

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