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[寄稿]5月最終日、パニック状態に陥った韓国

登録:2023-06-02 06:27 修正:2023-06-02 07:59
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授
5月31日午前6時41分ごろにソウル市から送られてきた緊急災害メールと、22分後に送られてきた行政安全部の緊急災害メール//ハンギョレ新聞社

 特殊部隊精鋭レベルの度胸を体得している韓国国民は、並大抵の北朝鮮の威嚇には驚かない。近くの敵対勢力が核とミサイルで威嚇してくれば、外国ならほとんど卒倒することになるが、韓国国民が感じるのは雨が降るという天気予報程度の不快さだけだ。おそらくソウル市民は、北朝鮮の核ミサイル実験より大型スーパーマーケットの休業の方が困るだろう。

 国民は非常に落ち着いているのに、韓国の国家エリートたちは混乱と恐怖にとらわれている。彼らは北朝鮮の威嚇で国民が混乱に陥るだろうと予想し、その後に直面するであろう責任追及を恐れることで、まず混乱に陥る。彼らには国が直面した重大な脅威を直視し、慎重かつ正確に行動して混乱を防ぐ能力がない。不必要な対策を乱発したり、市民の行動と表現を規制したりしようとし、誰が事態を統制するかをめぐって主導権争いを繰り広げるばかりだ。これについて米国の市民運動家レベッカ・ソルニットは、災害状況で現れる「エリートパニック」現象だと述べる。

 5月最終日の朝、ソウルで起きた警戒警報発令は、典型的なエリートパニックの一例だった。北朝鮮による西海(ソヘ)沖への偵察衛星の打ち上げは、陸軍首都防衛司令部は対応の主体ではなかった。昨年12月に北朝鮮の無人機がソウル上空を引っかき回していた際、前線の第1軍団から無人機出没を通報されなかった同司令部は、ソウル防衛の責任を果たせなかったという失敗の痛みを抱えている。そのための過剰反応だったのだろうか。ソウル市は災害メール発送後、市民の混乱が繰り返されると、メディアに「警戒警報発令は首都防衛司令部が要請したため」という釈明を発表した。

 行政安全部は「警報未受信地域は独自に警戒警報を発令」せよとの曖昧な指令を送った。この曖昧さは情報公害を招くもう一つの災害の始まりだった。昨年の梨泰院(イテウォン)惨事での対応失敗の責任問題を抱えているソウル市はこの指令に驚き、ソウル市民に「子ども、お年寄りや体の不自由な方が優先的に避難できるように」せよとの警戒警報を発令した。北朝鮮のロケット打ち上げはソウル市にとっては非常事態ではなかったにもかかわらず、このメールによって非常事態に急変した。早朝に起こされた940万人の市民に混乱をもたらしたソウル市の突出した措置に驚いた行政安全部は、慌ててソウル市民に「警戒警報発令は誤発令」だとの安全案内メールを送った。国家エリートの災害対応が改めて災害を作り出すというエリートパニックの典型だ。

 地上波放送が特別放送をしなかったため、情報を求めた市民が一斉にインターネットに接続し、ポータルサイトのネイバーがダウンした。昨年10月のカカオトーク接続不能事故を受けて、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「国家安保事態」だとして省庁横断的なサイバー安保タスクフォースの設置を指示している。だが、実際にこのようにたやすくネイバーがダウンする事態をみると、当時のサイバー安保対策というものもやはり国民の不満をなだめるための間に合わせに過ぎなかったということが簡単に確認できる。

 龍山(ヨンサン)の国家安全保障会議も、このような政府機関の混乱を収拾するコントロールタワーとしての姿を示すことはできなかった。尹大統領は昨年、北朝鮮の無人機が龍山を侵犯した時には執務室で愛犬と写真を撮っていた。江陵(カンヌン)での玄武(ヒョンム)ミサイルの誤発射の当日には事態把握もできていなかった。夏の豪雨では家の外に出ることもできなかった。梨泰院惨事での国家エリートの無能と無責任には免罪符を与え、第一線の消防署と警察の地区隊を追及した。

 災害の責任はエリートではなく市民にあるという観点で犠牲者の個人情報を規制し、市民の連帯を破壊して、政府の威信を守ることに没頭した結果、政府は弱者に深い羞恥心を強要した。問題の本質を直視できず、ともすれば怒鳴りつける大統領を恐れるあまり硬直した官僚組織は、対策を乱発して大統領のご機嫌を警護するが、実際に改善されるものはない。彼らは国に対する脅威ではなく、自分たちに降りかかる責任追及と戦っている。

 国の危機が現実のものとなる実際の状況では、このような国家エリートたちは市民の安全と国の安全のために何ができるだろうか。5月の最終日の朝に起きた突発的な事件と、その後に責任転嫁競争に突入した彼らが私たちに強要する羞恥心は、いつか来る本当の危機での悲劇的な結末を予感させる。本当に恐ろしいのは北朝鮮の核兵器ではなく、無能で無責任なこの国のエリートたちだ。彼らが私たちのためにできることはほとんどない。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1094319.html韓国語原文入力:2023-06-01 18:55
訳D.K

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