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[寄稿]韓国法相の『ペロポネソス戦争史』と「まじない」になった韓米日安保協力

登録:2023-03-12 22:56 修正:2023-03-13 09:10
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授
ハン・ドンフン法相が7日午前、仁川空港から出入国と移民政策に関する協力システムを整備するための欧州出張に向かっている。ハン法相が出国ゲートに向かう際に手に持っていた赤い本は約2500年前にギリシャの歴史家トゥキュディデスが書いた『ペロポネソス戦争史』だった/聯合ニュース

 どうやら尹錫悦(ユン・ヨクヨル)大統領は、自身の任期中に米国と中国の間で破局的な衝突があると信じているようだ。2021年3月、米国上院の聴聞会でフィリップ・デービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)が「中国が6年(2027年)以内に台湾を侵攻する可能性がある」と明言し、大きな話題になったことがある。米国とその同盟国が中国を包囲し圧力をかければ、「世界の一流国家に跳躍」するという「中国の夢」が崩壊する状況に陥ることになり、中国はさらなる没落を防ぐため、台湾を相手に攻撃的な軍事行動を敢行するという予言だ。デービッドソン元司令官が語った2027年は、尹大統領の任期最後の年だ。

 「私の任期中に戦争が起きるというのか。であれば、核ミサイルで武装した北朝鮮もともに挑発する可能性が高まるということではないか。戦争が差し迫っているのであれば、ためらわず中国を捨て、どうせ勝つことになる米国側に一日でも早くつくことが上策だ。ならば、日本に頭を下げ、韓米日の集団安全保障体制を構築し、台湾と南シナ海で中国の脅威に対する韓米日の3国共同計画を樹立し、星州(ソンジュ)のTHAAD(高高度防衛ミサイル)レーダーを日本のレーダーと連動させたミサイル防御(MD)体制を構築し、ウクライナに武器を支援すべきではないだろうか。迷う必要などない」。この想像は純粋に筆者の推論に過ぎないだろうか。

先月19日(現地時間)、米国のアントニー・ブリンケン国務長官(左から)、日本の林芳正外相、パク・チン外交部長官が北朝鮮のミサイル発射を糾弾する発言をしている=ミュンヘン/ノ・ジウォン特派員//ハンギョレ新聞社

 7日に出国したハン・ドンフン法務部長官が持っていたトゥキュディデスの『ペロポネソス戦争史』は、米国と中国は必然的に衝突するという信念を強化させるのにうってつけの本だ。この本に由来する「トゥキュディデスの罠」という隠喩は、覇権国とそれに対し挑戦する新興強大国の間では必然的に衝突が広がるということを説得する。本の結末でトゥキュディデスは「戦争が起きる最大の理由は、戦争が起きるという信念のため」だと語る。米国と中国の間での「勢力移転」、すなわち力の逆転の兆候が見えれば、両国は戦争を信じることになり、その信念が戦争の神を呼ぶ。古代ギリシャではスパルタとアテネがまさにその理由で衝突し、その後の2500年間に発生した大きな戦争もそうした理由で起きたのであり、権力転換期にある米中の衝突もやはり例外ではないということだ。ハン長官がこの本を見せたのは、同盟に向かい疾走する尹大統領に対する心情的な応援であり共感だ。

 現政権の中心勢力は、戦争不可避論という一種の呪術に捉われており、国家の自尊心とアイデンティティを傷つけ、米国と日本に協力する。どんな思想も批判的な分析でなく信念の領域で扱われれば呪術になる。政権発足時から巫俗に関わりがあるとの物議を醸している現政権は、理性の溶鉱炉から一つひとつ解剖される、国民に説明できる政策を作る公論と熟考の過程を、簡単に省略してしまう。いったい、目的と実益が不明確な韓米日の安全保障協力、または韓米日の集団安全保障体制を、そんなに急いで追わなければならない論理的な説明はあるのか。

 私たちは北朝鮮の脅威のために韓米日で協力しようとしていると考えるが、彼らの考えは違う。韓米日協力は、北朝鮮というニワトリを捕まえる刃物でなく、中国というウシを捕まえる刃物だ。トゥキュディデスの罠という隠喩で多面的かつ深層的な米中関係を抽象化するのであれば、まさにそれこそ呪術だ。現在の米国の同盟政策は、中国の脅威を膨らませて同盟国に恐れを強要し、その裏で同盟国から雇用と資本を略奪する自国優先主義に突き進んでいる。この呪術に尹大統領がまんまと引っかかったと考える以外に解釈するすべはない。

 最近、死の白鳥、斬首作戦用特殊機、ステルス爆撃機といった軍事アイコンが、朝鮮半島の上空を飛び回っている。ステルス戦闘機やミサイル、ドローンが普遍化した現代戦において、何時間も要し飛行経路がすべてあらわになる旧型の戦略爆撃機に依存する戦争を行うという発想自体が奇妙だ。1970年代のベトナム戦争を最後に、現代の戦争では戦略爆撃というものは消えた。今回の合同軍事演習からは、韓米合同上陸訓練の話も聞こえる。死傷者が大量に発生する上陸作戦とは、いったいいつの時代の話なのか。このような訓練は、重厚壮大な軍事的スペクタクルを構成し、動画の再生回数を増やすことには効果的だが、実際の戦争の様相とはかけ離れた豪華な軍事パレードであり、軍事的な呪術だ。長兄である米国は、こうした軍事的パフォーマンスで弟の韓国を魅了し、その隙に弟の菓子袋にこっそり手をしのばせる。半導体やバッテリー、電気自動車が入ったその菓子袋に、その貪欲な手を差し込んでいるのだ。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1082949.html韓国語原文入力:2023-03-10 10:36
訳M.S

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