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[寄稿]桃、「香りは白桃」「滋養は黄桃」の理由

登録:2022-08-03 21:20 修正:2022-08-04 06:42
桃ゲノムは2013年に完全解読 
白桃の遺伝子が突然変異して黄桃が誕生
黄桃品種のレッドヘブンのだいだい色の果肉は、CCD4遺伝子ペアにそれぞれ反復序列(y1)と転移因子(y2)が割り込んで機能を失いカロチノイドが分解されずに積もった結果だ(左側)。右側は黄桃から偶然できたホワイトレッドヘブン=「植物分子生物学リポーター」提供//ハンギョレ新聞社

 先日、今年初めて桃を食べた。柔らかく良く熟した白桃で、切り取って一口食べるたびに甘い香りが口の中をいっぱいに満たし、桃から指を伝って流れる果汁がもったいない。東洋で理想郷を「武陵桃源」、すなわち武陵(ムルン)にある桃の花がぱっと開いた世界と表現したように、桃こそが味と香りで理想的な果物ではないか。

 桃は果肉の色が白い白桃とだいだい色に近く黄色の黄桃にはっきり分かれる。白桃と黄桃は味も香りも違う。白桃は花の香りが感じられ、黄桃は味がより濃いようだ。それではこの差はどこから始まるのだろうか。

 2000年代に入りゲノム時代が開かれて、桃ゲノムも2013年に解読された。その結果、白桃の遺伝子一つに突然変異が生じ黄桃が出てきたという事実が明らかになった。すなわち、黄色でだいだい色系列の色素であるカロチノイドを分解する酵素であるCCD4遺伝子が故障して、果肉にカロチノイドが積もったのが黄桃だ。種々の黄桃品種を調査した結果、CCD4遺伝子の三種類の変異が明らかになったが、その一つは遺伝子の中間にゲノムの寄生虫といえるDNA片である転移因子が割り込んだ場合だ。

 正常なCCD4遺伝子を持つ白桃では、カロチノイドの分解産物が複雑な段階を経てスミレの香りがする分子であるベータイオノンに変わる。このように花の香りを作る理由は、動物を誘い込み実を食べさせ種をまき散らすためだ。農産物の桃の先祖と見られる野生桃が、すべて白桃である理由だ。黄桃は花の香りは弱いが、代わりにカロチノイドが豊富で果肉も濃厚な黄色で坑酸化作用など健康によい効果が強い。筆者のように香りを重視して白桃に固執するのでないならば、黄桃がより良いという話だ。

 映画『パラサイト 半地下の家族』では、家政婦を追い出すために桃毛アレルギーを利用するシーンが出てくる。実際、果皮から落ちた綿毛が身体に付いたり、きちんと洗っていない桃を皮ごと食べれば、皮膚がうす赤くなったり唇が膨らんだりする。桃毛にある蛋白質が一部の人々に抗原として作用し、アレルギー反応を起こす結果だ。

 そのような人も食べられるのが、果皮がなめらかな天桃(チョンドポクスンア、ネクタリン)だ。一般の桃と天桃の関係を調べてみると、天桃のゲノムは桃毛を作るのに関与するMYB25遺伝子が故障していた。遺伝子にゲノムの寄生虫である転移因子が割り込んで中間が切られた正常でない蛋白質が作られた結果だ。

 最近は多くの果物を年中食べることができるが、保存性の劣る桃は相変らず季節の果物として残っている。例年ならば白桃ばかりを何回か食べて過ぎるだろうが、今年はせっかくなので黄桃や天桃も味わって、偶然現れたこのような変移体を注視し選別し新しい品種として作り出した過去の農夫たちの知恵を吟味しようと思う。

//ハンギョレ新聞社
カン・ソッキ|科学コラムニスト(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1053266.html韓国語原文入力:2022-08-03 02:37
訳J.S