中国で最も裕福な都市、上海で2600万人が1カ月近く自宅に閉じ込められ、「食糧難」を訴える場面はあまりに非現実的で、中国の今日を隠喩するファンタジー映画のように見える。
中国はどうしてこうなったのだろうか。2020年4月8日、新型コロナの発源地である武漢の封鎖が終わった後、中国政府は「躍動的ゼロコロナ」(動態清零)政策を発表した。鎖国に近い国境統制と、感染者が1人でも発見されれば周辺地域を完全に封鎖して感染源を遮断する方式だ。「ゼロコロナ」には他国では模倣しがたい2つの要素があった。習近平時代に入り、中国当局は末端の行政組織である社区の住民統制機能を大幅に強化し、ビッグデータと人工知能(AI)技術を活用して精巧な監視システムを構築した。歴史上類のない強力なこの社会統制システムが、超強力な防疫を可能にした。習近平主席は「防疫人民戦争の勝利」を自身の主要な業績として宣言し、コロナ防疫は保健の問題ではなく統治の問題になった。ゼロコロナは「中国の一党統治が西側の民主より優る」という指標として、習近平と共産党の権力・社会統制・攻勢的対外政策を支えている。「ウィズコロナ」への転換を提案した防疫専門家たちは、激しい批判にさらされ自己批判を免れなかった。
だが、上海の市民たちは沈黙を拒否する。当局が「上海の累積オミクロン感染者は32万人を超えたが、死亡者は10人」と発表した反面、市民は「オミクロンではなく封鎖のために人が死んでいる」とし、今までに120人を超える死亡者名簿を集めネット上に記録した。「上海の死亡者」「上海人の忍耐は極に達した」という文は、がん治療を受けた患者が救急状況で病院に行ったが、PCR検査を新たに受けなければならないと要求され、結果を待つ間に死亡したという話、孤立から自殺に走る老人たち、過度な防疫業務に就いて自殺した保健担当公務員などの話を詳細に知らせた。上海の著名な演出家である胡雪楊氏は14日、「春の日は君にとってこれほど深い愛なのに」という文で「変異ウイルス文化大革命」が広がっていると嘆いた。「政府が権力を乱用し、党と人民の対立を起こし、矛盾に満ちて科学的根拠に乏しい低級な政策が実行され、経済は下り坂を歩み、民生は耐えがたく(…) 運動式に事を処理し、質問と反対の声は掃き捨てた」。上海市民は白い防疫服を着た警察と保安要員の強圧的な態度を、文革時の紅衛兵に例えて「白衛兵」と批判している。
最高指導者の長期政権のために、「中国式防疫が最高」という勝利宣言から退くことができないという権力の論理が、中国人を「防疫文化大革命」の渦に追い込んでいる。上海市民の声は、変化の隙間を作れるだろうか。