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[朴露子の韓国・内と外]ウクライナ戦争、あるいは真実の瞬間

登録:2022-03-22 20:21 修正:2022-06-01 08:57
この局面で世界の市民社会にとって切実なのは、ヘゲモニー争いのどちらか「一方」に入ることより自分の祖国を勇敢に守るウクライナの人々、そして反戦と独裁を打倒するために命を賭けて闘うロシアの活動家を支援し、支持することだ。究極的に、プーチンの侵略を撃退し独裁を終わらせる力は、ウクライナとロシアの民衆にのみある。
イラストレーション=キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 陳腐な言葉だが、戦争は悪そのものだ。特に、侵略戦争はいかなる名分をもってしても合理化できない。その侵略を米国が犯そうがロシアが犯そうが、同じ態度で侵略に対する反対を叫ぶことこそ妥当だ。ところが犯罪である戦争は、同時に「真実の瞬間」でもある。これまで各種の宣伝などで遮られてきた部分が、戦争の瞬間にその真の姿を現す。

 たとえば米国のイラク・アフガン侵攻は、米国の相対的軍事的優位とともに、総体的ヘゲモニーの衰退も同時に如実に見せた。米軍は、正規軍の抵抗を撃退しイラク・アフガンの拠点の占領には成功したが、その二国における安定的親米政権の樹立に失敗し、結局占領を終息せざるをえなかった。この二つの戦争のおかげで、私たちは米国が依然として世界の軍事最強大国であっても、北米、欧州、そして日本・韓国など米国の主な影響圏以外である中東のような主要地域では、もはやかつてのようなヘゲモニーを行使できないことを知った。それでは、すでに3週間以上続いているウクライナの侵略戦争は、私たちに何を語るだろうか。

 第一に、ロシア軍は思ったほど強くなかった。総動員が実現すれば違うだろうが、徴兵制と募兵制の混合で運営される常備軍は、ウクライナのような世界22位の中間規模の軍隊にも速戦即決で勝つことができず、やむをえず消耗戦に入らなければならないほど、それほど優秀ではなかった。さらに言えば、正確な数字はまだないが西側各国の軍事専門家たちの推測を総合してみると、この3週間のロシア側人命損失はすでに約5千人ほどにもなっている。これは8年間のイラク侵攻が招いた米軍の人命損失規模に匹敵する数字だ。すなわち、ロシア軍は依然として「技術」より兵士たちの「犠牲」に強く依存する、20世紀中盤と同じ旧式の軍隊だ。侵略戦争の名分もきわめて弱く、兵士の士気が大きく低下しているとの話も多く伝えられている。

 私たちにとって重要なポイントは、このような軍隊をもってロシアがさらなる領土拡張を企てることは、おそらくきわめて難しいだろうということだ。今、この戦争を間接的に体験しているロシアの主要パートナーである中国も、この侵略で苦戦をまぬがれないロシアを観察した後では、台湾侵攻などの軍事冒険主義路線をたやすく選択できないだろう。最近ロシアと中国が米国の競争国に浮上したとはいえ、その軍事力は依然として米国には大きく劣る。

 第二に、軍事力の次元で多くの弱点を露呈したロシアが、外交折衝戦では果たしてどの程度の成果を上げたか。ロシアの軍事力は思ったほど優秀でなかった反面、侵略に対する外交的反応は思ったほど画一的でなかった。この次元で、2日のロシアによるウクライナ侵略糾弾決議をめぐる国連総会の投票結果を吟味してみる必要がある。米国とその同盟国をはじめとする多くの国家が決議を支持したが、中国、インド、イラン、南アフリカ共和国など主だった非西欧圏大国ないし中進国が棄権した。すなわちロシアと西側の間の力較べで、韓国・日本・シンガポールを除くアジア、アフリカ、中南米の主要国家はむしろさらに「中立」に近い立場を取ったのだ。

 ロシアが歴史上最高強度の西側の制裁にもかかわらず対西側対決を持続できる理由は、中国やインド、トルコやアラブ首長国連邦、イスラエル、南米などを通じて制裁を「迂回」できると依然として期待しているためだ。特に、イスラエルのような米国の同盟国でさえも対ロシア制裁に参加しなかったことは、かなり意味深長と言えよう。すなわち軍事的には劣るものの、多極化されゆく世界の資本主義体制の中で、ロシアや中国のような米国の競争国が相当に高い水準の米国に対する「挑戦」を行えるということを、私たちはこの戦争を見て確認した。

 第三に、情報戦や世論戦でロシアは完ぺきに、余すところなく完敗した。独裁国家における権力に対する「追従」や「機嫌取り」の効果とでも言おうか。指導部と国家の首領が聞きたがる話、すなわちウクライナの軍隊と民間人は親西側政策に嫌気が差し、ロシア軍を「解放軍としてもてなす」という話を、情報要員が惜しみなく上部に提出したようだ。実は彼らが作った「分析」や「報告書」は、単なる「小説」レベルのものだった。反対にロシアの侵攻を予告した西側の情報機関は、はるかに高い専門性を示した。ロシアの戦争プロパガンダは、その情報力すら信じられないほどにみすぼらしかった。ホロコースト被害者を家族にもつユダヤ人を大統領に選んだ国を「脱ナチ化」するとか、ウクライナ民族の独自的存在を否定する発言をするとか、あるいは「米国の専門家たちがウクライナに実験室を整えて、もっぱらロシア民族だけをねらった特殊生物兵器を開発していた」という空想科学小説(SF)のような話は、西側諸国や韓国のような開放された世論市場でそもそも受け入れられるはずもなかった。

 ロシアの国家宣伝機関が幼稚な小説を書く主な理由は、彼らの国内世論市場が準閉鎖市場であるためだ。ロシアの一部の高学歴中産層は、西側などの外国メディアにたびたびインターネットで接するが、プーチンのウクライナ侵攻を支持するという60~65%のロシア人は主にロシアメディアにのみ接している。同様に、国内で情報の巨大なキャプティブ・マーケット(captive market)、すなわち競争者の接近が不可能な独占市場を持っている中国の国家プロパガンダも、西側や韓国ではほとんど説得力を発揮できない。これも権威主義国家の主な弱点の一つだ。

 以上のような内容を総合してみれば、ロシアによるウクライナ侵略は米国覇権衰退時代の一断面を見せているといえる。たとえ軍事的に米国より劣勢とはいえ、米国の主な競争国である中国・ロシアのうち比較的劣勢なロシアが、米国と欧州の下位パートナーを直接軍事的に侵略するくらい、米国の覇権の相対的な弱化に鼓舞された結果だ。全世界の否定的世論、そして西側の制裁にもかかわらず、この侵略が経済的に可能になった理由は、多極化された世界で西側に代わるほどのパートナーを手に入れられるというロシア側の期待のためだ。

 この局面で世界の市民社会にとって切実なのは、ヘゲモニー争いのどちらか「一方」に入ることより自分の祖国を勇敢に守るウクライナの人々、そして反戦と独裁を打倒するために命を賭けて闘うロシアの活動家を支援し、支持することだ。究極的に、プーチンの侵略を撃退し独裁を終わらせる力は、ウクライナとロシアの民衆にのみある。

//ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大学教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1035811.html韓国語原文入力:2022-03-22 19:03
訳J.S

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