韓国の「2050炭素中立委員会」が5日、「炭素中立(カーボンニュートラル)シナリオ」の草案を公開した。炭素中立委員会は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が昨年10月宣言した「2050年、カーボンニュートラル(事実上の炭素排出量ゼロ)」目標を達成するため、今年5月末に発足した大統領直属の官民共同機構だ。炭素中立委は3つのシナリオを提示したが、そのうち2つ(1案、2案)がカーボンニュートラルに至らない案であることから、環境団体から批判を受けている。カーボンニュートラルを達成する3案も石炭火力発電を退出させる時期を明記しないなど、お粗末なのは同じだ。気候危機の深刻さに照らし、生ぬるいのではないかもう一度考えるべきだ。
炭素中立委の草案で最大の問題は、事実上カーボンニュートラルを放棄する案が2つも入っているという点だ。2050年にもそれぞれ2540万トン、1870万トンの温室効果ガスが純排出されるシナリオだ。「2050炭素中立委」という名前に相応しくない目標だ。炭素中立委は、「3つのシナリオは草案にすぎず、今後、市民の意見聴取を経て、10月末頃に最終案を作成する計画だ」と明らかにした。しかし、公論化作業の土台になる草案自体が不十分であるうえ、広範囲で複雑な争点を扱うには時間も切迫しており、論議が十分にできるかどうかは疑問だ。炭素中立委の草案に「カーボンニュートラル失敗」シナリオが含まれるようになったのには、何よりも電力部門で果敢なエネルギー転換計画を無視したということが大きい。温室効果ガスの最大排出源である石炭など化石燃料の発展を維持しようとしたため、カーボンニュートラルを達成するのがそれだけ難しくなったのだ。特に第1案は、現在建設中の新規石炭火力発電所7カ所を2050年まで稼動する案だ。環境団体は新規石炭発電7カ所の建設中止と「2030年脱石炭」ロードマップを粘り強く要求してきた。もちろん石炭発電を早期に退出させるためには法的根拠と補償が必要だという炭素中立委の指摘は間違っていない。国会が一日も早く「炭素中立基本法」など脱炭素政策を裏付ける立法に乗り出さなければならない。
「2050カーボンニュートラル」は韓国政府が国際社会に公表した約束だ。難しいからといってあきらめていい目標ではない。今年に入って気候危機に対する果敢な対応にいっそう取り組むようになった国際社会の流れを見てもそうだ。カーボンニュートラルを達成するためのコントロールタワーの役割を果たすべき炭素中立委が、現実的制約をあげて無気力な姿を見せるのは理解しがたい。もし、産業界の機嫌をうかがっている政府の影響から生じる問題であるなら、炭素中立委の存在感や権限をさらに高める方向へと制度を改善する必要がある。