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[寄稿]聖火リレーの最終走者――「多様性」に対する議論

登録:2021-07-25 23:58 修正:2021-07-26 07:33
チョ・ヒョングン|社会学者

 賛否ある名監督レニ・リーフェンシュタールの『民族の祭典(オリンピア)』は、1936年のベルリン五輪を記録した初の五輪記録映画だ。孫基禎(ソン・ギジョン)と南昇竜(ナム・スンリョン)のマラソンの力走と授賞式は、この映画のクライマックスだ。表彰台で頭を深く下げた両選手の後ろに日の丸が上がる様子には心が乱される。映画の序盤には、ギリシャでの聖火の採火、長距離リレー、ハイライトの聖火の点火が入れられている。ベルリンの時から聖火マラソンが始まった。

 聖火を点火する最終走者は、スポーツナショナリズムの激戦地の五輪では焦眉の関心事だ。1964年の東京五輪では、原爆が落ちた日に広島で生まれた「原爆の子ども」が最終走者になった。加害者日本が犠牲者に変わる象徴政治だった。今回の五輪の最終走者も関心を集めた。「長嶋さんが聖火を運んでいるところは涙が出てきた。大坂なおみが出た瞬間すべてが台無しになった」。ヤフージャパンで行われた「東京オリンピック開会式、あなたの満足度は10点満点で何点?」というアンケートに投稿されたコメントの一つだ。投票は10点満点と0点に分かれている。否定的なコメントが多い。最終走者の大坂なおみに納得できないという意見が目立つ。

 長嶋茂雄は日本プロ野球の伝説的な4番バッターだ。ホームラン王の王貞治とともに1965年から73年までの読売ジャイアンツの日本シリーズ9連勝に大きく寄与した。高度成長期であり、国民スポーツのプロ野球の黄金期だった。先進国入りの自負心にあふれた時代だ。その良き時代を象徴する長嶋はすでに老人になり、助けを得て聖火を運ぶ。中高年以上の日本人の目頭が赤くなっただろう。

 一方、大坂なおみは23歳の若い女性テニス選手だ。グランドスラム大会を4回も制覇したワールドスターであるから、最終走者の資格は十分なはずだが、それほど簡単ではない。彼女はハイチ人の父親と日本人の母親の間に生まれた。純血主義にともなう反感も強いが、それだけではない。彼女は4歳の時に米国に移住し、米国で育った。22歳の時に日本国籍を選択したが、日本語はあまり話せず、自宅も米国にある。このような意見もある。「素晴らしい彼女を作ったのは米国で日本ではない、見せかけの多様性は要らない」。ベナン人の父と日本人の母の間に生まれたが日本で育ち、米国のプロバスケットボール(NBA)で活躍するバスケットボール選手の八村塁だったら歓迎しただろうという意見もある。純血主義のためだけではないということだ。共に苦しんだ歴史がない人物を、単に有名だという理由で多様性の象徴に掲げているという批判だ。一理ある。

 しかし、事態はもう少し複雑だ。大坂なおみは社会問題に明確な所信を明らかにしてきたことでも有名だ。黒人差別事件を批判してきたし、抗議の表示として試合をボイコットしたこともある。森喜朗五輪組織委員長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言すると、ただちに辞任を促した。政治的な発言をするという批判に退かず立ち向かってきた。メディアとのインタビューの拒否や水着グラビアの撮影などで非難されたりした。目立つことがタブー視される日本では珍しいタイプだ。米国で成長したので違いがあるともいえる。もっとも、違わないのであれば、多様性とは何なのだろうか。「外見は違っても、心はやはり日本人」というものだとすれば、それは多様性なのだろうか。

 昨年末、日本を騒がせたナイキの広告がある。いじめられる日本人生徒、差別されるアフリカ系にルーツを持つとみられる生徒、在日コリアンの3人の少女が主人公だ。アフリカ系にルーツを持つとみられる少女が大坂なおみのYouTubeをみていると、コメントが問いつめる。「彼女はアメリカ人?日本人?」。差別を意識して暮らしてきた在日コリアンの少女は、日本の学校に転校し日本名の名札を付ける。少女は走り、サッカーで悲しみに打ち勝つ。結局、少女らはスポーツを通じて友達になる。在日の少女はふたたび朝鮮名の名札を付ける。日本社会の差別を正面から批判し大きな議論を呼んだ広告に、大坂が出演したのだ。

 2018年の平昌(ピョンチャン)五輪で韓国は、参加国のうち最多の18人の帰化選手を出場させた。開会式では多文化家庭の子どもたちで構成されたレインボー合唱団が愛国歌を歌った。歌は感動的であり、選手は熱心に競った。もちろん、多文化の現実はそれほど美しくはない。大坂なおみからわかるように、多様性はさまざまな意見をともなう。スポーツ民族主義の戦場の五輪が多様性を掲げるようになった時代の逆説でもある。実のところ、共存を叫んだナイキは東南アジアの工場での児童労働搾取で批判されていたりもする。世の中には容易なものはない。性急な結論よりは、じっくり考えよう。他人事ではない。

//ハンギョレ新聞社

チョ・ヒョングン|社会学者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1005039.html韓国語原文入力:2021-07-25 18:30
訳M.S

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