本文に移動

[コラム]時代遅れとなったキッシンジャーの教訓

登録:2021-07-16 06:21 修正:2021-07-16 07:56
パク・ミンヒ論説委員
1971年7月9日、病気を口実に秘密裏に北京に到着したヘンリー・キッシンジャー米大統領補佐官(国家安全保障担当)が周恩来首相と握手を交わしている=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 1971年7月9~11日、米国のニクソン政権の国家安保担当大統領補佐官だったヘンリー・キッシンジャーが北京を極秘訪問し、周恩来首相との会談で「歴史的和解」に合意した。7月15日、米中両国は同時に「ニクソン大統領が毛沢東主席の招待で中国を訪問する」と発表し、世界を驚かせた。冷戦終息の序幕が上がったのだ。

 それからちょうど50年、今月9日に北京では「キッシンジャー秘密訪中50周年記念式」が開かれた。98歳のキッシンジャーは動画で公開された演説で「米中葛藤は全世界を分裂させる」とし、「主要議題に対する米中の真摯な対話が始まることを望む」と述べた。

 キッシンジャーは「脱冷戦の設計者」としてこの50年間米国外交で強大な影響力を行使してきた。彼は中国をほぼ100回訪問し、中国指導者も彼を手厚くもてなしし、ロビーのチャンネルとして活用した。キッシンジャーは毛沢東から習近平まで中国のすべての指導者に会った唯一の米国人であり、習近平主席は2019年に同氏に会い「中国の長年の友」と呼んだ。

  しかし、今やキッシンジャーと彼の影響を受けた「キッシンジャースクール」の外交官らの影響力にも陰りが見えている。キッシンジャー秘密訪中50周年は、中国では王岐山副主席が出席した盛大な行事として記念されたが、米国では「キッシンジャー外交は失敗した」という声が上がっている。米国の立場からすると、キッシンジャーは当時は正しかったが、今は間違っている。この50年間、キッシンジャーの現実主義外交から米中の既得権勢力は大きな利益を得た。米国は中国と手を握り、ソ連を崩壊させて冷戦で勝利したほか、中国を世界貿易機関(WTO)に受け入れて新自由主義体制を強化し、金融・経済利益を極大化した。中国共産党と既得権勢力も超高速成長の利益を思う存分享受した。しかし、今や中国が脅威的に成長したと判断した米国は、同盟と力を合わせて中国に対するきめ細かい牽制の網を敷いている。中国は、米国式の秩序から脱し、自国主導の天下秩序を作り出すという長期的構想の下、先端技術や軍事、経済モデル、国際秩序で、米国に挑戦状を突きつけている。

 守勢に追い込まれた中国が一時的に妥協を模索するとしても、世界秩序の大変動は今後数十年にわたって進むだろう。中国は2049年までに米国を追い越すという計画を公表した。米国の中国牽制戦略は一種の「キッシンジャー政策の覆し」だ。台湾との関係を強化し、ロシアを中国から切り離して、先端技術のサプライチェーンと国際貿易秩序においてできるだけ中国を排除することを目指している。

 米中双方では強硬論が高まっている。米国内の対中国強硬派は、中国共産党の存在自体が中国問題の原因であり、中国共産党体制を崩壊させる「レジームチェンジ」を目指すべきだと主張する。中国では排外的で攻撃的な愛国主義と軍事力強化が強調されており、「(外国勢力が)中国を苦しめるなら、(万里の長城に)頭をぶつけ血を流すことになるだろう」という習近平主席の発言が世界を驚かせた。台湾海峡をめぐる米中の軍事的緊張が長期化するにつれ、韓国も新冷戦の最前線になる可能性が高まっている。中国に向けられた米国のミサイル防衛体制(MD)の構築、中距離ミサイル戦力強化、韓国・星州(ソンジュ)のTHAAD(高高度防衛ミサイル)基地や平沢(ピョンテク)基地、済州(チェジュ)基地などが連動する可能性を注視しなければならない。

 一方では「第三の地帯」の役割が重要になっている。ドイツ、フランスなど欧州諸国は、米国との同盟を再確認し、中国の人権侵害と民主の毀損、不公正な経済行為に明確な批判を提起しながらも、中国を敵に回す軍事的対峙には反対している。中国も米国の牽制網が広がりすぎないよう、欧州との関係に一段と力を入れている。欧州諸国はこのような構図を活用し、気候変動対応の主導権確保、中国市場におけるシェアの拡大などを目指している。米国の核心同盟である日本も、中国との正面衝突や経済関係の断絶にまで進まないよう、複雑な計算をしている。米国内でも中国牽制に対する共感は明らかだが、方法論をめぐっては論争が行われている。米国の現実主義の専門家らは中国共産党を狙った「レジームチェンジ」主張に反対し、中国の威嚇的行動と不公正な行為を抑制し、変化させることに焦点を合わせるべきだと強調する。米国と中国の強硬派の間に緩衝者の役割を果たす勢力が位置する「天下三分」の構図で、韓国も「民主的な緩衝国家」の一員として新しい国際秩序に韓国の立場が十分に反映されるよう、精巧な外交を展開していかなければならない。

 しかし、残念ながら、韓国大統領選挙候補たちの討論と発言からは、国際秩序の大転換と韓国の外交戦略に対する熾烈な悩みを見出すことができない。「占領軍と解放軍」論争、これに対する色分け論と思想検証が繰り広げられ、米国と中国のどちらかを問う二分法が横行している。韓国が「新冷戦」の最前線にならないようにし、新たに形成される国際秩序で韓国の発言権を確保し、大陸と海洋勢力が出会う朝鮮半島の地政学を危機ではなく、チャンスに変える、未来志向的な指導者の登場を望む。

パク・ミンヒ論説委員 (お問い合わせjapan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1003661.html韓国語原文入力::2021-07-15 18:01
訳H.J

関連記事