「パスポート(Passport)」の語源は、中世ヨーロッパで国家の境界だった城壁門(フランス語のporte)や港湾を通過できる文書に由来する。記録上最古のパスポートの形態は旧約聖書の『ネヘミヤ記』において、ペルシャ帝国の王がユダヤ地域に旅行する臣下のネヘミヤのために発行した「通行安全要請書」だ。川の向こう側の統治者に対し、文書所持者の安全な通行と旅行を要請するこの文書が作られたのは紀元前450年頃だ。国家が自国市民の身分を証明する近代的意味のパスポートが登場したのは1414年、イングランドのヘンリー5世の時で、1920年に国際連盟により国ごとにまちまちだったパスポートが標準化された。
国際的に新しいパスポートを導入すべきとの議論が盛んになっている。「新型コロナワクチンパスポート」だ。アイスランドは今年1月26日、新型コロナワクチン証明書の発行を始め、観光大国のギリシャ、スペイン、イタリアは関連産業の回復のためにワクチンパスポートの導入を公式化した。イスラエル、デンマークなどはコロナワクチン証明書を旅行のみならず食堂、映画館、音楽会、スポーツ行事への入場を可能にする“グリーンパス”として活用する計画だ。韓国のチョン・セギュン首相も1日、「ワクチンパスポート」の4月中の導入計画を明らかにした。ワクチンパスポートは、スマートフォンアプリによる「新型コロナワクチン接種証明書」の形態になる。
新型コロナワクチン証明を、アフリカの一部国家に入国する際に必要なマラリア予防薬、黄熱病ワクチン証明などと同じと考えるべきという主張もあるが、状況が違う。特定の国家を訪問する人の感染予防のための証明ではなく、新型コロナワクチン証明は一部の市民に事実上の“特権”を与えるという問題のためだ。英国、ドイツ、フランスの保健政策責任者は、ワクチンパスポートは差別的になるため反対すると明らかにした。米国ホワイトハウスも最近、ワクチンパスポートは私生活の侵害と人権侵害の恐れがあるため、連邦政府次元では導入しないだろうとブリーフィングした。
ワクチンパスポートは、観光産業復活の妙薬として期待されているが、隙間が多く補完が必要な発想だ。新型コロナワクチンの種類と効果が多様なだけでなく、ワクチン接種で感染リスクが100%消えるかも明らかでない状態だ。変異ウイルスに対する効果や免疫の維持期間も未知数であり、個人情報流出と偽・変造の問題も越えなければならない障壁となる。