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[寄稿]慰めのエンジニアリング

登録:2018-05-21 10:28 修正:2018-05-22 11:09

 1万トン級クレーンが物体を持ち上げる作業を見ながら「慰め」や「治癒」を思い浮かべるという経験は初めてのことだった。 3時間の間直立作業を目撃し、その前の100日間の準備過程を思い浮かべながら、私は技術者たちが黙って慰めの手を差し出していると感じた。

5月10日、約3時間にわたってセウォル号を正しく立て直している=木浦/共同取材写真、パク・ジョンシク記者//ハンギョレ新聞社

 

 「2018年5月10日12時10分をもって、セウォル号船体が直立し成功裏に安着したことを宣言します」。現代三湖重工業のユ・ヨンホ専務の簡潔な作業完了宣言と共に、韓国社会では類例を見ないようなエンジニアリング・プロジェクトが無事終了した。現場にいた人々は、直立作業が非常に順調だったという事実に驚きもし、安心もした。セウォル号に関することで、これほど無難な過程と自信をもった宣言に接したことがなかったからだろう。

 共同記者会見の進行を務めた船体調査委員会のイ・ジョンイル事務局長は「直立」という単語の代わりに「正しく立てる」という表現を主に使った。漢字語「直立」の意味を解いて表現しただけではあるが、その意味するところはかなり違っていた。「直立」の対象は船だけだが、「正しく立てる」対象はそこに集まった人の数ぐらい多かった。 現場にいたある遺族は「腐って破れてしまった心も正しく立て直すんだ。新しくスタートするんだから」と言った(JTBCニュース)。

 416家族協議会のチョン・ミョンソン運営委員長は「セウォル号を正しく立てたということは…金よりも人の命、人間の尊厳性を再び呼び覚ます試金石を準備したこと」だと意味づけた。船体調査委のキム・チャンジュン委員長は「徹底した真相究明と徹底した収拾」に言及し、まっすぐ立ったセウォル号を「韓国政府が、また国家が、そのような約束をまちがいなく実践し履行するという象徴」と解釈した。 一隻の船を立てることによって、私たちは遺族の心と人間の尊厳性とこの国家とを同時に立てようとしたのだ。

 現代三湖重工業も、この作業が単に船をまっすぐ立てることに留まらないという事実をよく認識しているようだった。現場の事務所にかけられた垂れ幕には「安全に正しく立てます」と、目的語を省略したままその対象は限定せずに開いてあった。船体調査委に提出した作業経過報告資料も「安全を最優先に、早くよりは正しく立てます」と、今回のエンジニアリング作業の志向を幅広く表明していた。現場で仕事をする人々は皆、倒れた船を立て直しながら、同時に他のいろいろなものを一緒に立て直しているという感じを受けただろう。

 直立を見守った人々は控え目にではあるが「慰め」と「治癒」という表現も用いた。1万トン級クレーンが物体を持ち上げる作業を見ながら「慰め」や「治癒」を思い浮かべるという経験は初めてのことだった。 人文学、心理相談、宗教だけでなく、エンジニアリングも治癒と慰労の通路になることができるということは、考えてみたことがなかった。 だが、3時間の間直立作業を目撃し、それ以前の100日間の準備過程を思い浮かべながら、私は技術者たちが黙って慰めの手を差し出しているということを感じた。

 船の損傷状態を測定し、重心を計算し、シミュレーションを回し、補強材を挿入し、安全教育を行ない、クレーンを移し、ワイヤーをかけて40度を持ち上げ、60度を持ち上げ、ついに作業完了を宣言すること。 すなわち技術者が毎日やってきたことをちゃんとやるだけで、慰められ希望を得る人々がいた。船が立ち上がったことだけで慰めや治癒が可能なはずはないが、船が倒れている状態では慰めと治癒を語ることもできなかっただろう。

 セウォル号を正しく立てることは、エンジニアリングとは何でありエンジニアは何をする人なのかという基本的な問いを想起させてくれた。 産業革命と経済成長の道具になること以外に、エンジニアリングは何をすることができ、何になることができるのか?適切な事例を探して答えるのが難しかった問いだ。

チョン・チヒョン カイスト科学技術政策大学院教授//ハンギョレ新聞社

 エンジニアリングは人と社会を正すことができる。船が倒れて人も倒れ社会も倒れた時、エンジニアは倒れたものを一つずつ引き起こすために取り組むことができる。 当然、政治が主導して対処しなければならないことだが、エンジニアリングが取り組まなければできないことだ。これは政治に振り回されるエンジニアリングではなく、最善の政治を実現する通路となるエンジニアリングだ。「正しく立て直すこと」のように目的語を多数想定したエンジニアリングだ。 このようなエンジニアリングは、人間の尊厳と安全という価値を立てるための「試金石」となってくれる。

 直立完了後に現場の食堂で昼食を済ませた現代三湖重工業の技術者たちは、すぐに船のそばで整理作業の準備に入った。船体調査委の委員と調査官は、まずはじめにまっすぐ立ったセウォル号をひとまわりして状態を観察した。今度はクレーンが持ち上げて作った通路に沿って入り、倒れた真実を立て起こす方法を探す番だ。次の作業完了宣言を待とう。

チョン・チヒョン カイスト科学技術政策大学院教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/845113.html韓国語原文入力:2018-05-17 18:22
訳A.K

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