米国の中間選挙がカウントダウンに入った今、権力構図が揺らいでいる。8月までは共和党の上院での多数党の地位の維持と下院の少数与党構図が有力視されていたが、選挙が近づくにつれ、野党である民主党が両院を掌握する「ブルーウェーブ」の可能性が高まっている。中東戦争の激化に伴う原油価格の高騰と物価高が、与党共和党に対する審判として跳ね返ってきているのだ。
連邦下院は民主党の優勢が固まりつつある。435議席すべてを新たに選出する下院選挙について、主要な分析機関は、民主党が多数党の地位を奪還する確率を70~90%以上と高く見積もっている。テキサスやフロリダをはじめ、伝統的に共和党が優勢だった州の一部の下院選挙区までもが激戦地となっている。
さらに劇的な展開は連邦上院で見られる。構造的な有利さを武器とする共和党の勝利が確実視されていた上院でさえ、現在は民主党が奪還する可能性が65%を超えている。トランプ大統領は激戦州の現場を遊説しつつ、「MAGA(米国を再び偉大に)」支持層の結集に死活をかけている。「上院まで奪われたら早期レームダックは避けられない」という「議会けん制論」を強調し、上下院分離投票を訴える戦略へと転じている。
今回の選挙は、トランプ大統領の2期目の前半期に対する有権者の評価となると同時に、2028年のホワイトハウス奪還を準備する民主党の政治的進路にとっても重大な分岐点となる。議席数に劣らず重要なのは、選挙後に誰が党の主導権を握り、どのような政策と指導者を押し立てて次期大統領選に臨むかだ。
現在、民主党内部には2つの政治的潮流が存在する。チャック・シューマー上院院内総務とハキーム・ジェフリーズ下院院内総務に象徴される制度圏・実用主義勢力と、無所属のバーニー・サンダース上院議員、アレクサンドリア・オカシオコルテス(AOC)下院議員に代表される進歩改革勢力だ。
民主党が選挙で勝利したからといって、党のイデオロギー的な対立が自然と解消されるわけではない。むしろ、勝利の功績をめぐって中道派と進歩派が異なる解釈を提示する可能性がある。逆に期待に満たない結果となれば、民主党の既存の指導体制と政策路線に対する批判が強まるだろう。
民主党が下院で多数党の地位を確保すれば、ジェフリーズ氏は下院議長として党の議会戦略を主導する機会を得る。とりわけ、共和党寄りだった地域や中道層の多い激戦区で民主党候補が善戦すれば、実用主義的な中道路線の重要性を強調する声が高まる可能性がある。一方、進歩陣営の候補者たちが予備選挙に続き本選でも意味ある成果をあげれば、党指導部は彼らの政策的要求をより積極的に反映しなければならないだろう。
上院ではシューマー院内総務の指導力が試される。民主党が上院の多数党の地位をも確保すれば、シューマー氏の交渉力は強まりうるが、同時に次期大統領選への出馬を準備している上院議員たちと党指導部との間に新たな緊張が生じる可能性もある。
2028年の民主党にとって最も重要な課題は、単に中道と進歩のどちらかを選ぶことではない。進歩陣営が提起する経済的不平等への対応と社会改革の議題を、どれだけ幅広い有権者に受け入れられる政策へと発展させるかがカギとなる。
サンダース氏とAOCが代表する進歩陣営は、富裕層と大企業に対する課税の強化、普遍的医療保障、労働者の権益の拡大、居住費負担の軽減、気候変動への対応などを強調する。彼らは、民主党は既存の政治秩序と過度に妥協してきたことで、労働者階級の信頼を失ったと批判する。特に若い世代にとって民主党が改めて魅力的な政党になるためには、より根本的な経済改革が必要だ、という主張だ。
一方、シューマー氏とジェフリーズ氏に代表される制度圏の民主党は、政策の実現可能性と幅広い選挙連合の重要性を強調する。中産階級や郊外地域の有権者、無党派層、穏健な共和党離脱有権者をも取り込めなければ、全国的な政治連合の形成は難しいという判断だ。両者の違いは、医療保険改革においてはっきりと表れている。進歩陣営は単一の公共保険体制「メディケア・フォー・オール(Medicare for All)」を推進しているが、中道陣営はオバマケアの拡大や公共保険選択権の導入など、漸進的な改革を好んでいる。
しかし、重要な共通分母も存在する。すなわち生活費、医療費、居住費、教育費の国民負担を軽減すべきだというものだ。
したがって、2028年の民主党の政策競争は、理念的な名称というより具体的な解決策をめぐって展開される可能性がある。進歩的な経済改革目標を維持しつつ、政策の財政的持続可能性、行政上の実現可能性、各地域の経済の現実を同時に考慮する路線が、論争の中心となるだろう。
加えて移民政策と国境管理、公共の安全、エネルギー政策、中国との競争、対外安全保障問題まで組み合わさると、民主党内部の競争はさらに複雑になる。経済政策では進歩的でありながら移民や治安では実用的な候補、社会文化的議題では中道的でありながら大企業規制には積極的な候補も登場しうる。2028年の民主党のイデオロギー的方向性は、左か右かという一つの尺度で説明するのは難しくなるだろう。
民主党の次期大統領候補たちはすでに動き出している。中間選挙の応援演説や政治資金集め、主な激戦州への訪問は、単なる党の支援活動にとどまらず、潜在的な大統領候補たちが全国的な組織と政治的基盤を築く過程でもある。
現在の世論調査で注目されている人物はカマラ・ハリス前副大統領、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事、ピート・ブティジェッジ前運輸長官、ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事、AOC下院議員、ジョン・オソフ上院議員、マーク・ケリー上院議員、ロー・カンナ下院議員、コリー・ブッカー上院議員ら。
ハリス氏は前副大統領であり、2024年の民主党の大統領候補でもあったことから、全国的に高い知名度と組織力を有している。ニューサム氏は、トランプ大統領との公然たる政治的攻防を通じて全国的な知名度を高め、カリフォルニア州知事としての行政経験と政治資金調達の基盤を有している。ブティジェッジ氏は、世代交代と政策説明能力、連邦政府での行政経験を押し出せる人物だ。ペンシルベニア州のシャピロ知事は、トランプ大統領の強い激戦州で実用的な行政能力と共和党支持者にも通じる拡張性を示した。AOCは、民主党の世代交代と経済的進歩主義を象徴する。大衆動員能力の高さと若い有権者の間での影響力は、重要な政治的資産だ。オソフ上院議員は、南部の激戦州で活動する比較的若い民主党上院議員であることから注目されている。元宇宙飛行士で海軍パイロットのケリー氏は、国家安全保障分野の経験とアリゾナという激戦州での選挙経験を有している。
民主党が中間選挙で下院の多数党となれば、トランプ大統領の政権後半期の国政運営は新たな環境を迎えることになる。下院民主党は予算審議、行政府の監督、公聴会、資料提出要求などによって、ホワイトハウスに対するけん制活動を強化できる。もちろん、議会の多数党になることと、大統領の政策を思い通りに変えられることは、まったく別だ。民主党が下院のみを掌握した場合は、共和党が統制する上院と大統領の拒否権が立法の構造的制約として残される。上院も確保できたとしても、大統領の拒否権と上院の議事進行規則のせいで、主な法律の制定は依然として容易ではない。
民主党内では、政府に対する調査の強化と政治的対決を求める声と、生活費の引き下げや医療保険改革などの具体的な政策協議を強調する声が同時にあがるだろう。
過度な対立はトランプ政権をさらに粗暴にするだろうし、議会の立法機能をまひさせうる。消極的な対応は、トランプ政権をけん制せよという支持層の要求を満たせない恐れがある。党の枠を超えた交渉を通じた実質的な成果は議会機能を回復する契機となり得るが、交渉そのものが党内対立を招く恐れもある。中間選挙の直後から、民主党指導部と次期大統領候補たちの間では、このような戦略的な違いがより鮮明になるとみられる。大統領候補たちはそれぞれの政治的アイデンティティーを示そうとするだろうし、議会指導部は党の団結と立法戦略を維持しなければならないからだ。
中間選挙は民主党に政治的な機会を提供しうる。しかし、トランプ大統領に反対するだけで2028年の大統領選の政策ビジョンが完成するわけではない。民主党は過去数十年にわたり、労働者階級やマイノリティー、都市部の専門職、若い世代、郊外の中産階級を政治連合としてまとめてきた。しかし、経済的な利害関係や文化的価値観が互いに異なるこれらの集団を結集させるのは、徐々に複雑になってきている。
2028年に向けた民主党の課題は、まさにこの政治連合をどのような政策的基盤の上で再構築するかというものだ。サンダース氏とAOCが提起する経済的不平等の問題、シューマー氏とジェフリーズ氏が強調する議会政治と制度的実用主義、そして新世代の候補者たちが示す政治的リーダーシップが競い合い、調整される過程は避けられない。
結局、民主党に突き付けられている問いは、トランプ大統領の後に誰が大統領になるのかということだけではない。トランプ以降、米国をどの方向へと導くのか。その問いに対する具体的で説得力ある答えを用意する過程こそが、2028年に向けた民主党の真の競争となるだろう。