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「我々は海賊」米国が阻む海路、覇権の弱体化で自滅の道に

登録:2026-05-13 09:11 修正:2026-05-13 10:21
[トランプの野望、帝国の本性] 
海上封鎖
米海軍が先月、ホルムズ海峡の「逆封鎖」を突破しようとしたイランの貨物船トゥスカをアラビア海で拿捕している。米中央軍がXに投稿した写真/ロイター・聯合ニュース

 米国のドナルド・トランプ大統領は今月2日、フロリダ州パームビーチで開催されたイベントでの演説で、米海軍のイランに対する海上封鎖について露骨に描写した。米海軍の主力戦闘艦「スプルーアンス」(アーレイ・バーク級)は先月、イランの貨物船「トゥスカ」が封鎖網を突破してホルムズ海峡から脱出しようとした際、それを強引に阻止して拿捕(だほ)した。トランプは当時の状況を次のように説明した。「機関室に1発撃つと爆発が起こり、船は止まった。我々は乗り移って船舶を掌握し、貨物と石油を確保した。非常に収益性の高い仕事だ。我々がこんなことをしているなんて、誰が思っただろうか。我々は海賊のようだ。しかし冗談ではない」。18~19世紀のインド洋で海賊が商船を略奪する光景を思い起こさせるこの発言は、世界最強の海軍が遂行する作戦だと考えるには超現実的だ。しかし彼の言う通り、これは決して誇張ではない。

■金融制裁から海上封鎖へ

 このような措置はイランのみに限らない。米国は昨年12月にベネズエラを海上封鎖し、今年1月初めには特殊部隊を投入してニコラス・マドゥロ大統領をニューヨークへ拉致した。さらに1月末には封鎖範囲をキューバへと拡大した。封鎖4カ月目のキューバは石油の輸入が止まり、事実上国家機能がまひしている。キューバがこのように実質的な封鎖に直面したのは、1962年のミサイル危機以来だ。

 冷戦終結以降、米国はいわゆる「不良国家」に対して主に金融制裁によって行動の変化を誘導してきた。ドルの覇権を利用して、その国をグローバル経済から孤立させる方法だ。これは軍事衝突することなしに圧力が加えられることから、歴代政権に好まれてきた手段だ。しかしトランプはこの方法に満足しなかった。効果が遅く、不確実であるという理由からだ。即時に成果をあげることを重視する彼の性格とも合わない。彼が選んだ代案は海上封鎖だった。標的とする国の海域を軍事的に封鎖し、経済に直接圧力をかけるというやり方だ。実際に彼は、ベネズエラで成果が遅れたため、ためらうことなく特殊部隊を投入した。イランに対しては、イスラエルの要求を反映して当初から指導部除去作戦を命じた。その後のホルムズ海峡の封鎖への対応では「逆封鎖」戦略をとっている。海上封鎖は国際法上の単なる制裁ではなく、「戦争行為」とみなされる。これは米国の対外戦略が新たな段階に入ったことを意味する。

■米国の制裁に挑む地域大国

 それに対抗して、制裁対象国の対応も急速に進化している。かつてのように一方的な圧力に耐えるのではなく、制裁を回避したり真正面から対応したりしているのだ。代表的な例がロシアとイランの「影の船団」だ。これは原油を秘密裏に輸送するために運用される船舶ネットワークで、ロシアは約1000隻、イランは約600隻と推定される。これらの船舶は位置追跡装置をオフにする、公海上で荷を積み替えるなどによって原産地を隠す。決済もドルではなく人民元を用い、金融制裁を回避する。米国がイランに対してインド洋と太平洋にまで作戦範囲を拡大している中、このような回避戦略は世界中の海域で「追撃戦」が繰り広げられる様相を生み出している。その背景には、中国を中心とするBRICS諸国の暗黙の支援がある。ロシアは西側諸国による石油輸出制限を受け、割引価格で中国やインドなどに原油を販売している。イランは原油の90%を中国に販売してきた。

 はっきりとした正面対応の例もある。イランのホルムズ海峡封鎖と中国の重要鉱物輸出制限がそれだ。中国は昨年4月、トランプ政権による高率関税に対応してレアアースの輸出を制限。これは米国の製造業と防衛産業に直ちに打撃を与えた。結局、米国は関税を緩和し、一時的な「休戦」に合意した。最近では、米国による中国の小規模の石油精製企業(通称「ティーポット」)に対する制裁を受け、中国政府はそれに従わないよう指示することで真っ向対応した。ティーポットとは、もともと油田が見つかる場所に形成される小規模な精製施設を指す言葉で、「急須(ティーポット)」のように小さいという意味から名付けられたもの。一日あたりの精製処理量が10万バレル以下のこれらの精製企業は、中国に100社以上あるという。

 経済制裁はもはや米国だけの独占的手段ではない。相互的で双方向的な「経済戦」へと変質しつつある。列強の経済制裁の歴史を扱った『経済兵器 現代戦の手段としての経済制裁』の著者、米コーネル大学のニコラス・ミュルデル教授はこのことについて、「経済戦における米国優位の時代は終わった」(フィナンシャル・タイムズ)と診断する。同氏は、経済的圧力の歴史において、制裁が長期化すると対象国は自給力の強化と制裁回避を通じて適応し、両国の敵対感情はさらに悪化すると語る。「制裁はもはや戦争を抑止できず、むしろ衝突を引き起こすものとなりつつある」と同氏は警告する。

■トランプの自己破壊的失策

 トランプの封鎖政策は、中国がさらに強くなる前に、現在優位にある軍事力で地域大国を抑え込むことを試みるものかもしれない。米国は中国を直接の標的としているわけではないが、ベネズエラ、イラン、キューバという中国の友好国を次々と攻撃しているのは、究極的には米中覇権競争で有利に立つことを狙ったものだ。しかし封鎖が効果を発揮するためには、実行力という裏付けがなければならない。そのためには強力な海軍力と同盟のネットワークという支えが必要だ。

 現実はそうではない。イランとの戦争であらわになった米海軍の運用能力は、かつてより弱まっている。中東戦線に戦力を集中させたことで、アジア太平洋の戦力が縮小している。米国は南シナ海に展開していた空母「エイブラハム・リンカーン」を中東へ配し、太平洋地域に配されていた2つの海兵遠征隊の約4400人も移動させた。にもかかわらずホルムズ海峡の封鎖は解除できていない。米国は11隻の空母を保有しているが、実際に作戦に投入可能な戦力は3分の1ほど。残りは訓練中または修理中だ。イラン戦に投入された3隻のうち、「ジェラルド・R・フォード」は今月中に米国に帰還する。フォードは作戦配置期間が300日を超えて最長記録を更新しており、3月には船内の艦内の洗濯室で火災が発生してもいる。ベネズエラ封鎖作戦に投入された後に中東に移動したため、疲労が蓄積しているとみられる。米海軍の直面する構造的な限界を象徴的に示している。

 米プリンストン大学のアーロン・フリードバーグ教授は著書『The Weary Titan(疲れた巨人)』で、20世紀初頭にすべての海域を同時に統制できなくなった瞬間を大英帝国の海軍力衰退の出発点とみなしている。英国は当時、自国に次いで強い2つの国の海軍力の合計と同等の艦艇を保有しなければならないという「2カ国基準」を採用していたが、19世紀末からそれを満たすことが難しくなっていた。1883年に英国は38隻の艦艇を保有しており、フランスとロシアの合計40隻と肩を並べていたが、1897年には62隻対97隻と差が拡大。その後、ドイツと米国の急速な海軍力増強により、「2カ国基準」は無用の長物となってしまった。米国の場合、現在運用中の艦艇の総数(軍需支援艦を除く)は219隻で、中国(234隻)より少ない。米海軍の質的レベルは高いものの、その差も急速に縮小しつつある。19世紀末から20世紀初頭にかけて英国が直面していた状況に類似してきているのだ。

 同盟ネットワークも動揺している。トランプはドイツがイランとの戦争に協力しなかったことを理由に、在独米軍の一部撤退を進めている。関税に続いて安全保障の縮小カードまで切ったことは、米国の切迫感を示している。大西洋同盟の亀裂は徐々に現実のものとなりつつある。

 フリードバーグ教授はメディアのインタビューで、今回の戦争が米中覇権競争に及ぼす影響について、「全般的に米国の国際的な地位を強める方向で終わるとは思えない」と指摘している。中国が一貫した戦略的目標を維持する一方で、米国は戦線を過度に拡大しているため戦略的焦点を失いつつあるという。同氏は「米国は現在、核心から目を背けている危険性がある。それは長期的には米国の立場をさらに悪くするだけだ」と警告する。同氏は、ロシアと中国が勢力拡大を試みている欧州とアジアの2つの戦線に米国は集中すべき時だと主張する。

 トランプの攻撃的で予測不能な外交政策は自己破壊的だ。米国は唯一の超大国であった「一極時代」への回帰を試みているが、意図とは異なり、その試みは米国の覇権的地位を弱め、多極競争を加速させている。

パク・ヒョン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1258388.html韓国語原文入力:2026-05-13 06:00
訳D.K

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